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竜の掌中の珠  作者: AGEPHA
4/10

交渉します

もう少し早く投稿出来るかと思ったんですが、思っていた以上に遅筆な自分でありました…。


お付き合いくださる皆様、ありがとうございます。


16/8/20 竜王の自称変更「我」→「予」

【………話?】


「はい。少々の確認と交渉の末の契約の話をさせて頂けたら、と思っています」


 スカートの裾を軽く摘まみ、淑女っぽく礼をする。

 まぁ、根っからの日本人、更には一般ピーポーでセレブ階層には縁がなく、テレビやゲームで得た知識でしかないが空中で五体投地をするよりかは敬意が伝わりやすいだろう。


【………予にこの呪具を使用した連中とお前が、仲間ではないと何故断言できる】


 そりゃごもっとも。私があのローブの男に質問してた時は五感を封じられ痛みに耐えてる真っ最中だったのだから分かるはずもない。

 ………スマホがあれば動画撮影してたのになぁ。


「確かに仰る通りです。私が彼らの仲間ではないと確証に至るものを差し出すことはできません。出来ませんが、貴方の身を蝕むその呪具の効力、微力ながら和らげることは可能です。成し遂げたなら、お話させて頂けません?

本当は解呪したいところですが生憎ご覧の通りの姿、身の内に宿る総ての力を扱いきれないのです。」


【予の魔力をも抑え込むこの呪具を?………よかろう、やってみるがいい】


 言質を取った私はにっこりと微笑んで先刻の感覚を思い出す。どうにかしたいと思ったときに体の中の『何か』がカードを具現化させていた。生前の私にはない感覚だったから、きっとあれが魔力と呼ばれるものなんだろう。

 今度はそれ(・・)を意識して体外に放出する。

 カードは無事に具現化し、淡い光を放ちながら私の周囲をぐるぐる回り始める。


【…なんだ?その紙切れは?】


「貴方に私の話を聞いてもらう為に必要な道具です。

 “彼の者の体躯の内を巡る細かき針よ、『離散』せよ。覆いし帯に刻まれし文言は『調和の崩壊』を以て穢れを祓え。ⅩⅢ.La Morte(死神)正位置、及びⅩⅩⅠ.Il Mond(世界)逆位置、執行”」


 宣言と共に淡い光がカードの形を崩す。死神(ラ・モルテ)のカードは花弁が舞うかのように崩れ、その光の欠片は竜の躯に吸い込まれるように溶け込んでいく。世界(イル・モンド)のカードは(はり)のように細く凝縮され、(おびただ)しい数の光の鍼が空中に静止したかと思えば呪具に刻まれた文言を削り取っていった。


【……これは】


 ローブの男が言っていた呪具から放出されていた穢れを拡める封気は無事に鳴りを潜めたようで、何となく感じていた居心地の悪い空気は静寂を取り戻していた。

 ふと、竜を見ると私の顔を見て目を瞠っていた。竜の魔力を封じるほどの呪具を一部とはいえ解除出来たから、だろうか?世界は広いんだからしらみ潰しに捜せば何人かはそんな人間も存在すると思うんだけど。

まるで有り得ないものを見るかのような眼に思わず苦笑が漏れてしまう。


「……お体の具合はいかがですか?」


【…動けはせぬが大事ない。お前の…いや、其方のお蔭で鬱陶しい痛みが消え失せた。穢れを撒き散らしていた気も霧散したようだ。

 …与えてもらうばかりは予の矜持が許さぬ。話がしたいと言ったな。約束通り聴こう】


「っ!!ありがとうございます!まずは質問よろしいですか?」


【構わぬ。答えられることは嘘偽りなく答えよう】


 竜の知識ってすごそうだし、コレはちゃんと転生する前にこの世界をそれなりに把握出来るチャンス!!

 ………そーいえば私っていつ(・・)転生するんだろう?

 ………………。いやいやいや、知識は持ちすぎても無駄にはならないしね!

 …うん、嫌な可能性に一つ気づいた。今は転生前だから記憶があるだけで、生まれ直したら綺麗さっぱり失くなってる、なんて意地悪ないよね?記憶持ちは転生小説のテンプレだし!


 ………安全策としてさっき聞き出した情報が正しいのか検証しよう。取り敢えずそれだけでも確認しておけば竜がキャッキャウフフするにあたって安全な生き物かどうかは分かる。逆に言えばそれさえ立証出来ればあとは産まれてからでも決して遅くはない。


「では。貴方が五感を奪われている間、まだ息のあったローブの男に聞いたのですが貴方が『竜族の長にして魔物の王』だというのは本当ですか?」


【竜族の長であり王であるのは本当だが、魔物の王というのは奴等の勝手な思い込みだ。そもそも魔物も知能が高いものは予ら竜族を畏れて近づきはせぬし、知能の低いものは目に入ったものを手当たり次第に襲い食い散らかす】


 …まぁ、そうですよね。あの人、だけではないでしょうけど何か思い込み激しそうだったもんね。イっちゃってる人の思想というか厨二というか。

っていうか竜の王様!竜王様!!大きいし黒いし強そうですもんね!!他の竜の外見全く知らないけど!!

 んでもって、魔物がいる、と。剣と魔法の世界の鉄板ですね!頭悪いのが見境なしに襲ってくるのは人間も魔物も変わらない気がするけど。…結構危ない世界ってことで認識しといた方がいいかな。いや、こんな場面に遭遇してるんだから危険じゃないわけがない。


「なるほど。あとは、『己の思うままにならぬ国には魔物を解き放ち、供物を捧げる従順な国には自らが蔓延らせた魔物を駆逐して崇め奉らせるという残虐な行いを繰り返してきた』とかも聞きました」


【予らは国になど興味がない。当然人にも、だ。よって事実無根。供物など貰わんでも狩りは行っておるから食うものに困ったことはない。

 そもそも人に害を為すほど知能の低い魔物は話をすることすら困難だ。誰が好き好んでそんな苦労をしてまで襲わせる。気に入らぬなら自ら赴いて滅ぼす方が早かろう】


 おぉう。これまた真理。人が捧げる供物だけで“族”を名乗るほどの一団を賄うなんて不可能に近い。しかも竜族だ。一頭に捧げるだけでもどれ程の量になるのか。それだけでも国単位で食料不足に陥るんじゃなかろうか。竜の食欲知らんけど。

 国に興味があったならそれこそこんな山の中でこの状態(・ ・ ・ ・)にはならない。竜の力があれば一国を落とすなど容易かろう。どんな方法であれ――恐怖や力などで――人を統治することも可能だろう。もっと拓けた場所、王城や城下で拘束した方が人に対しても竜族の権威を貶める意味を成す。人が入るに苦労するような険しい渓谷を穢しても国や人に対して何の意味も成さない。放棄すれば済む話だ。

 ……悉く捩じ曲がった知識を奏上されたものだ。


「何もかも仰る通りですね。…何故このような行動を起こす前に話し合うという方法を見出だせないのか理解出来ません。………アスタロス国についてはご存知ですか?」


【其方が奇特なのだ。予らの言語を解す者は滅多におらぬ。拠って『話し合い』という方法が為されたことは未だ嘗てない。予らが自ら襲撃する利はない為、争い事を仕掛けてくるのは大概人間の方だ。此方は迎撃、報復をしているだけに過ぎぬ。

 アスタロスは隣国だ。この渓谷を抜けた先にある。……予の他に被害があってはならぬ。この報いは受けてもらうことになるだろう。

 …………しかし其方、強大な力を持ち合わせておるようだが人国(ひとくに)のことに対して知識が乏しすぎないか?その有り様ではこの国のことすら知らないように思えるぞ】


 あ、やっぱりそこに行き着いちゃいますよね。だって本当に何も知らないから仕方ない。知ったかぶりをしても看破されるのは目に見えてるし、それ(・・)をしたら私という個人に対して疑念が生まれる。そうなったら私の竜とキャッキャウフフを堪能するという野望は潰えてしまう。


「私の体を見てお気づきかと思いますが、まだこの世界に実在する存在ではないのです。一応産まれる予定はありますが、それがいつになるのかは分かりません。なのでこの世界の常識ですとか一般的な考え方も存じ上げません。貴方の言葉が理解出来るのも私が実存する体を得ていない、思念体のようなものだからなのかもしれません」


 自分が今分かっていること。その現状から推察されること。包み隠さず全てを話した。曝け出せる情報が少なすぎるのは分かっている。それでもこれが私の全て。

 私を見続ける竜の眼から視線を逸らさず答える。


【…………なるほど。この世に産まれる前の思念体、か。かような現象は初めてだが、己の(まなこ)で確かめたこと。信ずるに値しよう。其方の瞳に翳りも見えぬ。嘘も吐いていなかろう。

 ……ならば、本題だ。其方、始めに言ったな。『交渉の末の契約』。予とどのような契約を結びたいのだ】


 ……信じてくれた。多分生前の私でもこんな突拍子もないことをいきなり言われたら「何言ってんだ、コイツ?」と訝しんで全力スルー一択だ。

挙げ句体が透けており、「自分はこれから産まれるのだ」と自信を持って意味不明なことを豪語する奴。………あ、ダメだ。ローブの男を散々イっちゃってる人だと断言してたけどよくよく自分の言動振り返ってみれば私も同類じゃないか?

 信じてもらえた喜びと此れからの自分への不安でじわじわ瞳が滲み始める。


【ど、どうした。何故泣く】


「いえ、何でもないです……!交渉、そう、交渉のお話しですよね!!」


 信じられたことが嬉しくて涙が出ました。なんて恥ずかしくて言えない!!

 無理矢理話の方向を変える。紳士な竜は突っ込まずにいてくれた。


「えっと、交渉と言っても難しい話ではありません。単なるお願い事なんです。まだ生まれていない私がこの世界に産み落とされたら、貴方に、いえ、竜族の庇護を受けたいのです!」


【予らの庇護だと?…………庇護とは、具体的に何を指す?】


 竜の眼に剣呑な光が宿る。や、やっぱり図々しい?孤高の存在――と勝手に思ってる――である竜族に構って欲しいなんてたかが人間が願うには高望みすぎる?でもでも聞かれたからには答えないと…っ。


「そ、その、背中に乗せてもらって空を飛んだりとか、お腹を枕に寝てみたいとか、あわよくば本を読んで頂いたり子守唄歌いながら寝かしつけてほしいとか、あ、魔力の使い方教えて欲しいとか……庇護という言葉で片付けるには多量な願い事ですよね………」


 言い終えたあとに少ししゅんとなりながら項垂れてしまう。いや、でも無償でしてほしいという訳ではないのだ。もちろん私が出来ることの最大限で望まれれば力を貸すし利用されることも厭わない。そうだ、それも告げなければと、意を決して顔を上げてみればそこには呆気にとられた竜の端正なお顔。


【それはまた、何と言うか……健全な庇護欲だな】


「?そう申し上げたつもりですが……。あ、もちろん私からも対価は差し出します!交渉と言うのならば互いに利がなければ成立しないもの。竜王様の願いが私に叶えられるかの保障は出来ないのが心苦しいですが……」


【……いや、よかろう。其方の願いは予ら竜族の庇護だな。其方の具体例を以ても委細問題ない。予からの願いはこの呪具からの完全なる解放を望む。異論なければ其方と契約しても良い】


「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!嬉しいです!!どうしましょう、嬉しすぎて思考が追い付きません!!」


 どうしよう。本当に何も考えられない。完全に転生する前に庇護を得る確約を頂けた!何か生まれてないのに人生既に薔薇色です!!


【予の名はジークヴァルト。ジークヴァルト=ドラグーン。予以外の竜族は姓を持たぬが予のこれも竜王を意味するだけのもの。大した意味はない。して、其方の名は?】


 竜王様はお名前まで格好いいのですね!あっ!名前!名前ですね!!お答えしなければ!私の名前は…………名前、は?


「………あ。名前ないんだった」


 初歩中の初歩の質問を完全に取り零していたことに気付いて素で返事――ほぼ独り言に近い――をしてしまった。


【……名がないのか?】


「今の今まで忘れてましたがそのようです。思えば生まれてないのですから名がなくて当然といえば当然なのかもしれませんが……あの、もしよければ竜王様、ジークヴァルト様が名付けてくださいませんか?」


 もうこうなったらとことんだ。拒否されるまでしてほしいことを言ってみようという気分になっていた。


【名付け親が予でいいのか?】


「ジークヴァルト様がよいのです」


 竜王様が思案されること数分、閉じていた眼をゆっくりと開き私を見据える。


【…………ヴィアラルーチェ、ではどうだ】


「ヴィアラルーチェ……私の名前!!可愛いです!嬉しいです!ありがとうございます!!」


 胸の前で手を組み喜びで自然と体がくるくると回る。

 ヴィアラルーチェ。私の名前。

 名を得た私の透けた体は淡い光を放った。巡る魔力が増したのを肌で感じる。これで実体を得、さらに『私』という個を確立出来ればきっとあの呪具さえ完全に壊せる。それが確信できた。


「ジークヴァルト様の願いは呪具からの完全なる解放。私の願いは竜族の庇護。これを互いの対価とし契約を結んでもよろしいですか?」


【構わぬ。だがその契約はいつから始まる?】


「……私がこの世に生まれ落ちた時になります。それは3日後か、50年後、もしくは100年以上先になるかもしれません。

 ……っ!!そうです!私が生まれたときにもしジークヴァルト様がお隠れになっていたら呪具からの解放が………」


 契約成立の喜びで失念していた。そうだ。私はいつ生まれるのか分からないのだ。その間に竜王様が亡くなったとするならばこんな契約意味を成さない。


【それならば問題ない、とは言いきれんが大丈夫だろう。竜族の寿命は800から1000年。また歴代の竜王は1000年以上生きている。予もそのくらいは生きていられよう。大凡300を越えたぐらいだと思うが4、500年の間に生まれてくれれば御の字よ】


 ……スケールでけぇな竜族。まぁ、歳を気にするのは人間くらいなものだから、大雑把とはいえ年齢を把握してる分寿命をある程度逆算できるのは有難い、のかな?4、500年の間なら確実に生まれてるハズ。っていうか気合いで生まれてみせる。

 一度目を瞑り色々な事で荒ぶっていた精神を落ち着かせた。体の内を巡る魔力を確認して。互いの望みを噛み締めて。


「……契約内容の実行開始は『貴方』と『私』が直接相対した時。もし私がまだ喋れない時分にジークヴァルト様に出会うことも考慮し、ジークヴァルト様の願いの執行の鍵は『貴方』が私の名を呼ぶことで実行されること。また私が生まれるまでにジークヴァルト様が呪具から解放された場合、この契約は失効されること。…問題ありませんか?」


【……予が呪具から解放されたら其方を放逐するとは考えぬのか?】


「無知な私の質問を、これまでジークヴァルト様は真摯に応えてくれました。その事から鑑みても竜族は高潔な生き物だと認識しております。もしジークヴァルト様の言う状況になった場合は私が竜族に害を為す存在であったというだけのこと。残念な気持ちは捨てきれませんが一族の命運と私の願い、秤にかけるまでの事でもないでしょう」


 私の出した答えに竜王様は負けたとばかりに嘆息を吐いた。


【……そこまで言われて一方的に反故など出来ん。其方の信頼に恥じる行いはすまいと誓う。………契約の条件に異議はない】


 その言葉に微笑みを返し、巡る魔力を最大限で放出する。


「“これより契約を宣言する。〔ヴィアラルーチェ〕と〔ジークヴァルト〕、双方の『出会い』は互いの『願いが叶う』鍵となる。〔ジークヴァルト〕が願うは呪具からの完全なる解放、その願いの成就を以て〔ヴィアラルーチェ〕が願うは竜族の庇護。Ⅹ.La Ruota della F(運命の輪)ortun正位置、ⅩⅦ.La Stella()正位置、執行準備……完了。

 『定められた運命』の引き金は竜王、〔ジークヴァルト=ドラグーン〕による我が名、〔ヴィアラルーチェ〕の名を呼ぶことを以て敢行する”」


 契約の行く末を見守るように周りを回っていたカードは旋回する速度を早め、竜王様と私の頭上まで浮上するとその形状を崩壊させた。

 降り注ぐ光の粒が互いの体を包んでいく。竜王様を包む光の粒は静かにその体内へと溶け込んでいったが、私に付着した粒はその輝きを失わず透けていた私の体を更に薄めていった。


【………ヴィアラルーチェ、未来の養い子よ。予の娘となる其方と再会できる日を心待ちにしていよう】


「…はいっ!私も楽しみにしています。ふふっ、竜王様が父様(ととさま)だなんて至上の贅沢です!」


 その言葉を最後に残し、私の体は竜王様の前から霧散した。




ようやく名前が出せました!

次回は竜王、ジークヴァルト様視点の予定です。


6782字

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