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竜の掌中の珠  作者: AGEPHA
3/10

オプション使います

16/8/20 竜王の自称変更「我」→「予」

「……転生、したの?でも何かおかしくない?」


 先程までの暗闇と違って今度は景色がはっきりと映る。

 ただ目に飛び込んできたその風景は唖然とするしかないものだった。

 木々は枯れ果て、地面には未だ燻っている火種が数え切れないほど。近くに流れる川はどす黒いと表現してもおかしくない紫色に染まっており、これがこの世界の常識だと言われても飲料水として口にするのは躊躇われる色をしている。


 そしてそこに蹲る見るからに異常だと分かる一匹の巨大な黒い竜。異常が分かるのは何故か?だって呪文みたいな文言が刻み込まれた布切れだか紙切れだかしれないものが幾重にも体中を覆っていたのだから。

 少し離れた場所には地面に突っ伏すように倒れている黒や茶色のローブを着た人たち。多分彼らがこの状況を生みだしたのだろうと推察する。よりにもよって私が愛でたい愛でられたいと願っていた竜に対してのこの仕打ち!!万死に値する!!……まぁ、もう息を引き取る寸前っぽいけど。

 竜がこの世界においてどのような位置付けされているのかは知らないが、神様もどきに願った『竜を愛でたい、愛でられたい、戯れたい』を実行するには人間に対して悪感情を持たれるのは困るのだ。


 倒れていたローブの男の一人が顔だけを空中に向け目を瞠らせる。状況を把握しようと注視していた私と目が合ったのだ。そう、私は宙に浮いていた。この異様な光景を俯瞰で見下ろしていたために無事に転生したのかどうかが謎だったのだ。

 そして男は戦慄いていた口を叱咤するかのように口上を始めた。


「やはり…やはり我々は正しかったのだ!!女神さまが我らを神々の住まう尊き地へと誘ってくださるために降臨なされた!!人を脅かす存在の竜を退治せしめた我らを神兵へと召し上げてくださるのだ!!」


 …何ですか?このイっちゃってる感満載の人は?女神?神兵?新手の新興宗教団体の教祖か何かですか?いや、私も生前は無神論者だったけども確かに神様もどきはいた。いたからにはこんな荒唐無稽な発言も頭から否定してはいけないと思いつつも……ないわ~。うん、ない。この人とは分かりあえそうもないし分かりあいたいとも思わない。


 でも情報収集は大切です。取り敢えず喋れる体力があるうちに聞きだせる事は聞いておくとしましょう。え?冷たい?でも自分の好きなものに対して批判してくる人なんて基本はスルー一択でしょ。どうやら因果応報っぽい感じだし。憧れていた大好きな竜とイっちゃってるヤバそうな人。どちらかしか助けられそうにありません。なら迷うことなく助けたいと思うのは……。


「ねぇ、これ、なに?」


 視線は男に向けたまま腕を持ち上げ、黒い竜に巻きついている変な布切れを指差す。あの暗闇とは違い今度はちゃんと動く感覚を認識する。まだ自分の姿を確認してはいないが――だって確認できるものがない――男の『女神』という発言から女性体を模っているというのは容易に想像できた。勘違いしているのならそのままでも構わない。私は女神でも何でもないが訂正を入れることなく質問を投げかける。


「はっ!そこな悪しき竜は竜族の長にして魔物の王。己の思うままにならぬ国には魔物を解き放ち、供物を捧げる従順な国には自らが蔓延らせた魔物を駆逐して崇め奉らせるという残虐な行いを繰り返してきたのでございます!!このような非道を甘んじて享受し続ける謂れはないと!我々はアスタロス国の威信を背負い討伐にきた次第にございます!!」


「…そう。で、この布切れは?」


 私が聞きたいのはこの人の偏見的な考えや討伐の背景ではない。いや、事実を述べていたところでこの世界の知識が全くない今の私には判断できる材料がない。質問の仕方が悪かったのかと聞きたい事を端的に言いなおす。


「……口惜しいながらも、我々の力では近づくことすら、儘ならず、竜族に備わる膨大な魔力により我らが放つ、魔法も全て弾かれる、始末。ですが!!古より伝わる、我が国、秘匿の伝書を読み解き、術者の命と引換えという対価が、求められますが、使用した相手の全ての力を奪うという封具を、甦らせる事が出来たのです!」


「それがこの布切れ、基、封具ですか」


 確かに国秘匿の代物とあって『今の私』では封具の威力を軽減することは出来ても解放は出来なさそう。というのも腕を伸ばした時に気付いたのだが『今の私』は、何だか体が透けている。自重も感じないので実体ではないのは分かるが、微かに『何か』が体を巡っているのも分かる。その『何か』が十分に使えれば多分このどっかの国の秘匿の封具とやらも何とか出来そうな気もするんだけど……今は無理だということだけが脳裏に浮かんだ。

 全ての力を奪う、『全て』とは何を定義としているのか。更に詳しい事を聞いておくとしよう。そろそろこの人も限界が近いようですし。


「命という対価を求める封具を以て封じた『全ての力』とは?」


「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を封じ、魔力を封じ、四肢の神経を麻痺、また鈍痛を与え続け、個体として存続に必要とするものを、封じます。また、封具から発せられる封気は、穢れを含み、対象とされたものの周囲を朽ち果てさせます。作物は実らず、生物を寄りつかせない不毛の地にて動く事も儘ならぬ身では、長寿を誇る悪しき竜とて餓え果てることで、ござい、ましょう……」


 爛々とさせながら喜々として語っていた男の目から光が消える。穢れを放つ封気とやらに耐えきれなくなったのだろう。そもそも術者の命と引き換えの封具、いや、呪具だ。遅かれ早かれ変えられない顛末。それに憐みを向けることもなく、高度を下げて竜の顔の前まで移動する。

 竜に眉間があるのかどうかは謎だが、もしあるとするならば深く皺が刻まれていそうな表情。地を這うような低い唸り声がその苦しみを表現しているようにも思えた。

 完全なる解放は出来なくてもどうにか苦痛を和らげる事は出来ないだろうか?そう考えた瞬間、体を巡っていた『何か』が外に放出され目に見える形をとり私の体の周りを囲むように回っていた。


「これ…カード?…トランプ、じゃない。タロット・カード?」


 囲む何かを注視すると絵が浮かんでおり文字が見える。

 Ⅰ.Il Bagatto(魔術師)、Ⅸ.L'Eremita(隠者)、ⅩⅦ.La Stella()…………枚数は22枚。拙い知識を動員させてもやはりこれはタロット・カードの大アルカナと呼ばれるカードだろう。……もしかしなくともコレがオプション?え、タロット・カードなんぞ使った事ないんですけどぉ!?

 知識として名称は知っているけどもカードそのものの意味や使い方なんぞさっぱりだ。

 明らかにオプション付け間違えてるだろうあの神様もどきめ!と、まぁ、悪態を吐いていても始まらない。

 どの世界で生きていこうが自分が生きたい未来を掴むためには自分で道を切り開いていかないといけないのだ。その手段っぽいものが手の内にあるだけでもありがたいと思わねば。


「取り敢えず。話が出来ないとキャッキャウフフの交渉の仕様もないな。五感の内、視覚と聴覚だけでも解放させたい…」


 その独り言ともいえる呟きに、囲むように回っていたタロットから一枚のカードが輪から飛び出す。『任せろ』と言わんばかりにカード自身がくるくると目の前で踊っていた。


「これは、審判イル・ジュディーツィオ?……っ!!」


 カードの名称を確認するかのように手に取れば、それ(・・)は眩いほどの光を放つ。反射的に目を閉じると文言が脳裏に浮かんだ。なにこの親切設定。意味のないオプションだとかほざいてごめん、神様もどき!!ありがたく享受するよ!!


「“彼の者の視覚、聴覚を『復活』、『覚醒』させよ。

ⅩⅩ.Il Giudizio(審判)正位置、執行!!”」


 パチン、と指を鳴らすと――透けた体で鳴らせるか不安だったけど無事に鳴った!――先刻放たれた痛いほどの眩い光とは対極の、優しい、温かな淡い光が竜の顔に溶け込んでいく。鼓動しているのかも怪しい左胸の上で手を組み祈るように待つ。

 実際には30秒ほどだったのだろうか。私には1時間にも2時間にも思えたその祈りは痛みに耐えるように閉ざされていた漆黒の竜の瞼が開かれたことで昇華された。


「初めまして。私の姿見えてます?」


【…………誰だ】


 おぉ。お姿に似合いの渋いお声。どうにも私の知ってる言語ではないみたいだけどこれも転生オプションなのか転生前のプレゼントなのか脳内で日本語変換されている。超便利。

 是非とも転生後でも活躍してほしい能力である。


「見えてらっしゃいますね。声も聞こえてるようで何よりです」


【……あの術師共はどうなった】


「貴方に封具と呼ばれるものを施して一人残らず事切れました」


 倒れているローブの男たちが彼の目にも入るように、竜の目前から自分の位置を少しずらす。体を動かすのはまだ辛いらしく目線だけで彼らを認めると直ぐに視線を外した。


【封具……そうだ、この呪具に縛られて予の五感は失われたはず。何故(なにゆえ)に見え、聞こえている】


「私が貴方と交渉する為に一部封具の呪言を解放しました。お話、聞いていただけます?」


筆者、タロット・カードについては無知です。好きなように解釈して自由に使ってます。

一応カードの意味は調べて使用してますが詳細をご存じの方はスルー力発揮してくださるとありがたいです。

ちなみにイタリア語表記です。


3806字


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