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竜の掌中の珠  作者: AGEPHA
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死にました

初投稿です。ただ趣くままに書いてます。豆腐のような心臓ですので生温かい目で見てやってください。

あ、死んだ


 宙に投げ出された時に悟った。これは死ぬ、と。


 通勤の為の電車を降り、改札に向かうために階段を目指す私の目に飛び込んできたのは前輪が階段に差し掛かろうとするベビーカー。おい、親は!?と探す余裕もなく駆け出して咄嗟に手を伸ばす。

 赤ちゃんの重みと既に前輪が階段に落ち残す後輪が重力に従って下へ加速しようとする力は思いの外強く、腕に力を込めて思いっきり後方へと引き戻す。そしてその反動で私の体は階段へと投げ出され宙を舞っている。

危機的状況で周りの景色がスローモーションになる、という話があるとは聞いていたが…


(本当だったんだなぁ……タキサイキア現象だっけ?)


 目の端が捉える景色は駒送りのようで。でも走馬灯のようなものは見えない。平々凡々な人生を送ってきた私は特にこれといった不幸も特別な幸せもなく、ただ淡々と生きてきただけだったから。


(今日の活動内容でのお菓子の材料無駄になっちゃうかなぁ)


 脳裏に浮かぶのは今の職場の仕事内容だった。保育士の資格を取って3年。初めて担任として持ったクラスで、もうすぐクリスマス会があるため家の人へのお土産として子供でも作れる簡単なお菓子を皆で作る予定だった。朝の情報番組で流れる星占いでも2位で好調な一日の出だしのはずだったのだ。


『人生の転機が訪れそう!迷わず突き進むことをオススメ!!』


 ………『人生の転機』とやらが生死を問うものだったなんて誰が思うものか。しかも『オススメ』ときたものだ。え、なに?私は人生の終了をオススメされたの?意味不明なんですけど。


 確かに女としての幸せは掴んでなかった。家庭を築くどころかそのために必要な相手すらいない。いや、お付き合いをしたことがないわけではない。でも任されたクラス担任という仕事にプレッシャーを感じながらも楽しさを見出だし、少し付き合いが疎かになってしまったのは認める。私も彼も若かったのだ。相手のことを思いやる気持ちの余裕を持てなかった。恋愛関係の転機なら教育実習などで来る男性とのお付き合いへの発展だろうか、とも考えたが今時期に教育実習生など来るはずもない。即時却下された。


 人間関係も可もなく不可もなく。恨むことも恨まれることもなかったように思う。そもそも人の印象に残るような突出した人間でもなかった。

 職場では先輩や園長先生などに睨まれる事もなく和気あいあいとした環境だったし、子どもの親御さんたちとも特段衝突があったこともない。

 護身術などを習うために近所の道場に出入りし、思いのほかハマってほぼ毎日通い詰めていたが試合などの出場は全て断っていたし、試合に出なければ昇級試験も受けられないので自身のレベルはともかく、柔道で言うなら入会してからずっと白帯のままだった。道場内での組手も目立たない様適度に負けたりもしていた。まぁ、これに関しては先生から無言の威圧がかけられていたが直接何か言われたこともない。

 よって職場、道場に関しての人付き合いは概ね好調だったといえよう。


 趣味だって人様に喜々として誇れるようなものではない。貶されるようなものでもないが。休日と平日の授業のカリキュラムを組んだあと、そして道場に行く前後で時間があればスマホのゲームアプリを触っているぐらいだ。まぁ、効率重視で進めていたので短時間でトップランカーと呼ばれる組織に属してはいたが。


 ホント、そこらへんにいる人――といえば失礼になるか?――と大して変わらない、ただの一般人。


 そんな私の人生が終わる。

 駒送りにされた風景が黒に染まる。

 唯一の救いと言えばいいのか、痛みは感じなかった。




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