あなたなしじゃ生きていけない、と初恋の人に言われたくてTS転生しました
これは「俺に任せて先に行け、と幼なじみに言われてTS転生しました」のヒーロー視点のお話です。先にそちらをお読みいただいた方がいいと思います。
糖度高め、独りよがり、チョロイン、というワードで嫌な予感がした方は引き返してください。
よちよち歩きの子猫が車道を横切っているところに、トラックが蛇行しながら突っ込んでくる。
その瞬間、俺の体は動いていた。
別に子猫を助けたかったわけじゃない。
俺の大切な幼なじみ――桜ちゃんにグロテスクな光景を見せたくなかっただけだ。
こう言い換えてもいい。ここで華麗に子猫を助けて良いところを見せたい、という打算が働いた。
結果的に、それは大きな誤算になった。
猫は助けられた。でも、まさか桜ちゃんまで飛び込んでくるとは。
普段は鈍臭いくせに、こういうときだけ俊敏に動くなよ。
俺は咄嗟に彼女を止めようとした。それもいけなかった。
お互いもつれながら道路に倒れ、直後、体が粉々に砕けるような衝撃が走った。
ああ、こんなことになるなら、告白しておけばよかった。
どうして素直になれなかったんだろう。いつの間にか気持ちを隠すことばかりうまくなっていた。
情けない。多分桜ちゃんも守れなかった。
いや、他の男に渡すくらいなら、道連れもアリか……?
くそ、最悪だな、俺は! こんなんだから、桜ちゃんに振り向いてもらえなかったんだ。
こうして俺は深い後悔に苛まれながら、十八年という短い生涯を終えた。
と、思ったのだが、気づいたら白一色の不思議な空間で神様に出会った。隣には困惑気味の桜ちゃんもいる。
「小さき者を守ろうとするその心意気やよし。褒美に人生の第二ステージを与えてやろう。ただし、何もしなければバッドエンド直行の悪役令嬢とその執事に転生させる」
神様曰く、女用のゲームの悪役サイドとして、俺たちは生まれ変わる。
何もしなければ処刑台の露と消えてしまうだろう。それがいやなら、シナリオを改変して何とかしろ。
正直、意味が分からん。俺の聡明な頭脳をもってしても、神の考えを理解するのは不可能だった。
しかしせっかく与えられたチャンスだ。
桜ちゃんと一緒に第二の人生を歩めるなんて、これ以上の幸運はない。俺は目の前にいる愉快犯、もとい神様に崇拝に近い念を抱いた。あなたの慈悲を無駄にはしません。
俺は誓った。前世の反省を活かし、今度こそ桜ちゃんを守り、結ばれてみせる。
そして「あなたなしじゃ生きていけない」と言わせてやる。
甘美な妄想でにやけそうになる頬を引き締め、俺は思考を澄み渡らせた。
ふぅん。桜ちゃんが有力貴族の一人娘の美少女で、俺がその執事か。
ふざけんじゃねぇ。絶対だめだ。
百歩譲って俺が執事なのはいいけど、桜ちゃんが令嬢役なのはいただけない。
父親に政略結婚の道具として扱われ、仮初とはいえ王子の婚約者になる。
桜ちゃんをそんな目に遭わせられない。他の男に触れさせてたまるか。
いや、いずれヒロインの町娘と結ばれる王子はまだいい。
それ以外の有象無象の野郎どもの毒牙から桜ちゃんを死守せねば。
これまで桜ちゃんはあまり男に接点がなかった。
俺がそばで目を光らせてきたせいもあるが、単純に男が苦手で避けてきたからだ。
そんな彼女が貴族の麗しい令嬢になり、社交場で男に囲まれてちやほやされたらどうなるか。
まず間違いなく赤面して瞳を潤ませ、口ごもるだろう。
そのうぶな姿を見て燃えない男がいるか? いや、いない。
ちょっと待てよ。王子がヒロインに心変わりせず、桜ちゃんに夢中になる可能性すらあるぞ。
それでバッドエンドを回避しても意味がない。桜ちゃんが他の男と結ばれるなんて、俺的にはそっちの方がヤバい。
想像しただけで発狂しそうだ。もし現実になったら、俺は初恋の人を手にかけるかもしれない。デッドエンドだ。
ああ、いかんいかん。ついさっき、自分勝手さに幻滅したばかりなのに。
こうなったら、仕方ないか。
「分かった。ではその悪い令嬢の役、俺が引き受けよう」
俺はほとんど躊躇わず、涼しい顔でそう言っていた。
この際、性別なんてどうでもいい。桜ちゃんを俺を含めたあらゆるものから守り、俺のものにするためならどんな手でも使う。
桜ちゃんは細かいことを気にしない性質だったので、ちょっと手の平で転がしてやるだけですぐに口車に乗った。あまりにもチョロい。俺は密かにほくそ笑んだ。
そんな俺たちの心の中を読んでいたのか、神様は面白がってスキルをプレゼントすると言い出した。
俺は名前も知らないこの神様を生涯信仰することを決めた。
「ほら、後のことは俺に任せて先に行け」
桜ちゃんを先に転生させ、俺はじっくりと計画を練った。
とりあえず邪魔なのは父親だ。
国家転覆を企てるこいつさえ排除すれば、俺たちの処刑台行きは回避できる。同情の余地もないクソ野郎とのことなので、実の父親だろうが容赦はしない。この男とバージンロードを歩くことはない。
どうやって始末しようか。
殺してしまうのが手っ取り早い。どうせ死刑になる男なら、別にいいだろう。
前世で仕入れたミステリのトリックが脳裏をよぎる。警察の科学捜査がない異世界なら、完全犯罪も容易い。
ああ、でもなぁ。桜ちゃんにバレたら軽蔑されるかもしれない。
何を隠そう、俺が前世で人としての道を踏み外さなかったのは、彼女のおかげだ。
それだけじゃない。
勉強を頑張ったのも、容姿に気を配ったのも、徹底して猫を被って周囲の評価を高めたのも、全て桜ちゃんにアピールするためだ。
こんな優秀で美麗な男が、お前にだけ素の表情をさらけ出しているんだぞ、という優越感を彼女に抱かせたかった。
ところが、「雪雅って自分のことが大好きなんだね。すごいと思う」と桜ちゃんに悪気なく言われたときは、目の前が真っ暗になったものだ。ナルシストであることは否定しないが、ただのナルシストだと思われるのは心外だ。
俺は首を振って甦った黒歴史を霧散させる。
とにかく父親にはまっとうな手段でご退場願おう。小娘の身で父親を謀るのは骨が折れるだろうが、結末を知っていればどうとでもできる。
赤ん坊として生を受けた桜ちゃんを不思議空間から見守りつつ、俺は妄想を膨らませた。
目立つことを好まない彼女は、小さな教会での慎ましい結婚式を望むだろう。
よって身分差婚は却下。最終的に貴族の身分を捨てて、平民同士で結婚が理想だ。
俺は二人の障害を取り除くため、詰将棋を解くように策略を巡らせていった。
「神様、やはりスキルは『精神の入れ替え』でお願いします」
「ふむ。前世の宿願を果たすなら、それが良いだろうなぁ」
全てが終わって平民になるなら、本来の性別に戻れた方が良い。
女の体のままでは桜ちゃんを守れない。
「ただし、回数制限をつけたいです」
「ほう?」
「俺が男、桜ちゃんが女で固定されれば、永久に逃げられる心配がないですから」
「おー、怖。思い通りにならなくても殺すなよ? 神様からの忠告」
俺はその言葉を真摯に受け止めた。
迷いに迷ったが、やはり回数制限はつけてもらうことにした。失敗が許されない方が気合が入る。
俺の有能ぶりと頼りになる様を見せつけて、今度こそ俺のものにする。
待っていろよ、桜ちゃん。
そうして俺は悪役令嬢――プリメラに転生した。
女の体は思った以上に楽しかった。
お菓子とおしゃれと恋の話で、何時間でも過ごせる。
ただの自慢話はNG。卑屈になりすぎるのも嫌われる。失敗談や自虐ネタを面白おかしく話せる子が好かれやすいということが分かった。ただし、身を削りすぎると今度は男が寄り付かなくなって、ますます自虐ネタが増えて負のスパイラルに陥る。何事もバランスが大切らしい。
悲しいかな、「あの子最近可愛くなったからって調子に乗ってる」だの「私の好きな人を奪っておいて天然ぶってとぼけている」だの、陰湿なにおいのする話も盛り上がる。女が妬みのダークサイドに落ちると手に負えない。
俺は幸か不幸か、親の権力の影響で何をしても蔑ろにされることはなかった。もちろん下手な言動をしないように細心の注意を払っていたが。
桜ちゃんも前世で大変だっただろうな、と俺は痛感した。
自分で言うってどうなのって感じだが、パーフェクト優等生の俺と仲良くしていたのだ。
妬まれて苦労したに違いない。優越感を与えるつもりが、逆に迷惑をかけていたかもしれない。
それでも彼女は恨み言一つ漏らさず、いつも俺にふにゃっとした笑顔を向けてくれた。
やはり、俺の女を見る目に狂いはない。
女社会を体験して、俺はますます彼女への想いを燃え上がらせた。
年頃になり、プリメラの肢体が豊かな丸みを帯びてきて、俺はご機嫌だった。
自分の体の美しさに欲情していたわけではない。
そう遠くない未来、この体を桜ちゃんが使う。
それを想像するだけで背徳感を覚え、頭がとろけそうだ。
気に入ってもらえるよう美しさに磨きをかけ、大切に扱った。
反面、周囲の男どもが露骨な視線を浴びせるようになってきた。
王子の婚約者という手前、強引に口説いてくる者はいなかったが、非常に鬱陶しい。
好きな子の一挙一動をなめまわすように見つめたい、という心情は理解できる。
まぁ、プリメラの周りにいる男どもは、見た目と金と権力に目がくらんだボンクラが多かったから、あまりに鬱陶しいときは言葉の刃で切り捨てた。
俺は常に「近寄るんじゃねぇぞ」オーラを展開し、隙を見せないよう振る舞う。男に媚を売るような口調はやめ、精悍で真面目な言葉遣いを心がけた。
やはり桜ちゃんに令嬢役を任せなくて良かった。こんなこと、彼女にはできないだろう。
「見て見て、ついに腹筋が割れたよ。どう? たくましくない?」
悩み事なんてどこにもありません、という顔で桜ちゃん――執事見習いのキオンがシャツをめくって腹部を見せてきた。
俺の言いつけどおり、体を鍛えてくれている。
いずれ俺の体になるのだから、必要最低限の筋力や体力はつけておいてもらわないと、いざというときにお嬢様を守れない。
まんまと俺の策に嵌っている。しめしめと思う一方、哀れだった。
まぁ、幸せそうで何よりだ。
俺が八歳、桜ちゃんが十歳のときに一度スキルの確認のために入れ替わった。そのとき、キオンという男の子が周囲に大変愛されていることを知って安心した。
「玄関の掃除は終わった? よろしい。……ほら、休憩のときに食べるんですよ」
プリメラには厳しいメイド長が、キオンにこっそりお菓子を手渡す。庭師もコックも業者の人間も、キオンを見かけると「今日も頑張れよ」と声をかけてくる。
馬鹿な子ほど可愛いというやつか。
この様子なら心配ないな、と俺は壊れかけの家電扱いされて落ち込んでいる桜ちゃんを宥め、元の体に戻った。
キオンの体に入っていても、桜ちゃんの可愛さは全く損なわれない。
俺はやはり桜ちゃんの精神や雰囲気が好きだったのだなと納得した。
そして時は流れ、プリメラとして生を受けて十六年が経った。
人でなしの父親を合法的に駆除し、王子とヒロインの結婚式を見届け、貴族の位を捨てて旅立つ準備を整えた。
屋敷で過ごす最後の夜、俺はとうとう我慢の限界を迎えた。
俺は十分頑張った。バッドエンド回避に成功し、全ての元凶である父親以外誰も不幸にはしなかった。
ご褒美をもらってもいいはずだ。ですよね、神様?
「十八年を二回……計三十六年もこの日を待った! もう我慢しない!」
俺はスキルを使って精神の入れ替えを行い、プリメラの体に入った桜ちゃんをベッドに押し倒し、全てを告白した。
彼女の頬が桃色に染まる。
あぁ、いい! 最高だ!
怯える顔、震える声、拗ねた仕草、何もかもが俺のハートを撃ち抜いた。何年も鏡で見てきた顔なのに、見たことのない表情ばかりだ。さすが桜ちゃん。俺の理性を簡単に奪っていく。
俺は不安からじぃっと桜ちゃんの返事を待った。
早まったかもしれない。舞い上がりすぎて「拒絶される」いう可能性がすっかり頭から飛んでいた。。
いや、大丈夫だ。桜ちゃんだって俺のこと嫌ってはいないだろうし、これからの生活のことを考えれば俺の力が必要だって分かるはず。
俺なしじゃ生きていけない。そうだろ?
「まぁ、いっか。結婚してあげる」
その瞬間、彼女の全身から力が抜けた。突然のことに驚き、いろいろな葛藤があっただろうに、騙し討ちでこの状況を作り出した俺を受け入れたらしい。
俺はようやく前世からの悲願を果たし、新妻と熱い夜を過ごした。
翌朝、目覚めた桜ちゃんは、ぐったりしていた。
「死ぬかと思った……」
「ああ。俺も危うく天国に召されるところだった」
「バカ! 変態! キオンの体をあんな風に使って!」
桜ちゃんは涙目で枕を投げつけてきた。こんなにはっきり罵倒されるのは初めてだったので新鮮だ。俺が喜ぶとさらに桜ちゃんの機嫌は悪くなり、旅立ちの日は散々だった。
食後のデザートを三回譲ってようやく仲直りできた。簡単な女だな、桜ちゃん。ちょっと心配になる。
辻馬車を乗り継ぎ、俺たちは旅を始めた。
観光と新居探しを兼ねて、いくつかの町に立ち寄った。
もう貴族ではなく旅費にも限りがあるので、質素な宿屋に泊る。
公には懺悔の旅ということになっているから仕方がない。仕方がないのだが、ベッドが一つしかない部屋に泊まれる口実は素敵だ。
まぁ、両想いになって一番楽しい時期とはいえ、毎晩というのは体力的に不可能だったけど。
馬車はこの世界ではもっとも優れた移動手段だが、前世での暮らしを覚えている俺たちにとっては辛い。この世界に来て、これほど長距離の移動は初めてなのだ。座りっぱなしだと体が痛むし、悪路で酔うことも多かった。それに馬車が通れないところは、護衛を雇って山道を歩かねばならなかった。
過酷というほどではないものの、決して楽ではない。
俺としても桜ちゃんに無理をさせるのは本意ではなかった。
移動日はいちゃつくよりも旅の疲れを取ることを優先した。
そういうとき、桜ちゃんは眠る前に話をねだった。
あのとき俺はこんなことを考えていた、あのときは実は桜ちゃんのためにこんなことをしていた、そういう話を得意げに語って聞かせた。
長年の報われなかった恋心を思い知らせてやりたかった。
そうやって桜ちゃんと「それは全然知らなかった」、「それは何となくそうじゃないかと思っていた」、と答え合わせをするのは至福の時間だった。
「雪雅はいつから私のこと想っててくれたの?」
「物心ついた頃にはもう好きだったぞ。正直に言うと、俺も覚えてないんだ。一目惚れだったのかもしれない。見ているだけで楽しかった」
「変なの。前世の私なんて、どこにでもいる普通の顔だったのに」
「そんなことない。とても可愛かった」
「いいよ、無理しなくて」
そう言いつつも、桜ちゃんは嬉しそうだった。
俺も嬉しい。
宿屋の受付でいつも「どうしてこんな美少女とこいつが同じ部屋に泊まるんだ?」という顔をされる。
キオンの顔立ちは平凡だ。前世の俺より数段劣る。
桜ちゃんも俺の外見ではない何かを評価して、一緒にいてくれるのだ。
その時気づいた。
俺は今まで、桜ちゃんの気持ちをあまり考えてこなかった。
理詰めで追い込むばかりで、独りよがりだったかもしれない。
反省だ。
また違う夜、俺は思い切って尋ねた。
「桜ちゃんはどうして俺のこと受け入れてくれたんだ? どこが好き?」
「分かんない」
即答だった。顔には出さなかったが、俺は少々がっかりした。
しかし桜ちゃんはまどろみに落ちていく途中で、ぽつりぽつりと教えてくれた。
「あの夜、雪雅に告白されて……普通なら、気持ち悪いとか怖いとか、重いって感じると思うけど……私は嬉しそうな雪雅を見て……可愛いって、思っちゃったから……だから……好き」
健やかな寝息を立てて、桜ちゃんは夢の世界に旅立った。
俺はどきどきして眠れなかった。一線を越えてもさらに上がある。幸せだ。
旅を始めて一か月が経ち、俺たちは美しい湖が有名な、小さな町に辿り着いた。
空気が綺麗で、町の人も親切で、治安も抜群にいい。領主の評判も上々だ。
ここにしよう、と二人の意見は一致した。
湖のほとりにある教会を下見した帰り、寒かったから手を繋いで歩く。
式は当分先になりそうだ。プリメラの父の件が落ち着くまで待たなくてはならない。
別に構わない。
もうお互い他の相手など考えられないのだ。焦る必要はない。
俺も丸くなったもんだ、と感慨にふける。
水面は静かで、森の香りが気持ちをさらに穏やかにしてくれた。
「ねぇ、雪雅」
ふいに桜ちゃんが口を開いた。らしくない硬い表情で。
「もしかして……前世で死んじゃったの、わたしのせい?」
桜ちゃんは言う。
俺の尋常じゃない想いを知った今となっては、そう考えるのが自然だと。
子猫じゃなく、私を助けたせいで雪雅も死んでしまったんじゃないかと。
「さぁ? どちらでもよくないか」
「よくないよ。ちゃんと本当のこと言って」
「……じゃあ、教えてやる。お前のせいじゃない。自分とお前のためだ」
桜ちゃんは泣いてしまった。俺はそっと頭を撫でる。
「ごめんね、ごめんね……気づけなくて、ずっと」
「いい。離れ離れにならなくて良かった。俺はもう、桜ちゃんなしじゃ生きていけないから。今世でも一緒に死にたいな」
しまった、と俺は頭を抱えた。
「桜ちゃんに言わせるはずのセリフを、俺が言ってどうする! ああ、てか、俺、全然成長してないな……つい本音が……」
他の男に渡すくらいなら道連れでいい。そう思った前世と何が違うのか。
失敗を悔やむ俺を見て、桜ちゃんはきょとんと小動物を思わせる可愛さで首を傾げている。
ドン引きか?
桜ちゃんは戸惑いつつも、しばし考え、そして――。
「一緒に死ぬのは、ごめん。約束できない。お葬式とかお墓のこととかあるし」
現実的だな、桜ちゃん。俺が恋愛に夢見がちな分、ちょうどいいか。
しかしそこで終わらないのが彼女のすごいところだ。
とびっきり可憐な笑顔を俺に向け、そっと告げた。
「でも、今度生まれ変わっても、何度生まれ変わっても、私、雪雅と一緒がいいな!」
あまりの可愛さに俺は桜ちゃんを思い切り抱き寄せた。
聞いたか、神様!
来世もお願いします!
俺は決意する。コツコツお金をためて、あの神様のために祭壇をつくってお祈りしよう。
でも、そうだな。
来世があるかは分からないから、今世を大切に生きよう。
彼女と唇を重ねると、俺の独善的な心が安らかに死んだ。
こういうデッドエンドなら悪くない。
お読みいただき、ありがとうございました。