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犬の話

作者: ドングリ

セイジ君の家は山の裾野にあった。車で少し上に登ると避暑地で別荘が並んでいるし、10分ほど下れば町に出る所に一軒だけ中途半端に建っていた。

父親のこだわりでここに家を建てたらしく、学生の頃は通学が大変だったが、逆に社会人となった今は車が有るので、煩わしい近所付き合いもないし、騒音問題もなく快適さが勝っていた。ただ近所の目が無いので防犯には気を配る必要があり、雑種犬の銀(父命名)を飼っていた。

田舎の人里離れた一軒家なので銀は放し飼いにしており、躾も適当なので良く吠える。人を噛んだりはしないが、新聞や郵便配達の人は嫌がっているだろうなぁとセイジ君は他人事の様に思っていた。

ある日の休日、セイジ君が銀の小屋を掃除しているとハイヒールが出てきた。

「かーちゃん!これ銀が隠してたけどかーちゃんの?」

庭で花を植えていた母親に聞いたが違うとの事。ならばと銀の大切な宝物なのでそっと戻してあげた。

次の日、銀がポシェットをくわえて戻って来た。半分野生化している銀は、朝の日課に縄張りの見廻りに出掛ける。その途中で見つけて来たのだろう、自慢げにセイジ君へ見せつけて来た。危険な物は入ってないかポシェットを開くと化粧品やハンドタオルが出てきた。中身は捨て、朝露で湿ってシワが寄ったポシェットを銀に返すと早速小屋の中に隠して満足そうに昼寝してしまった。

「変なゴミを拾って来て、アイツの縄張りは何処までなんだ?」

セイジ君も家族も銀の縄張りは良く知らない。よそのお宅から持ってきてしまってないか少し心配になった。

次の日、セイジ君が仕事に出掛ける支度をしていると銀が日課を終えて戻って来た。今度は腕時計をくわえている。

「おいおい又かよ、どっから拾ってくんだお前は。」

腕時計は金の縁に革ベルトの女性物だった。

「まずいな、よそ様のお宅から持ってきてしまっているか、近くでゴミの不法投棄がされてるかも…、どっちにしても確かめなきゃ」

セイジ君は次の日の朝、銀の日課に着いていく事にした。


早朝、仕事に出掛ける前の時間、セイジ君は銀と共に縄張りの見廻りに出掛けた。小川で水を飲んだり各所でマーキングする自由な銀の行動を羨ましく感じながら、初めて見る縄張りの広さにちょっと後悔した。銀はそのうち林の中の獣道を進みだした。

「この辺は特に人が滅多に来ないから不法投棄の線が濃いかな…」

セイジ君は不法投棄を見つけた場合、役場か警察どっちに連絡すれば良いのか考えていると、銀の進む先に嫌な物を見つけてしまった。青天の霹靂、不意を突かれて凝視してしまった…。太い枝からロープでぶら下がっている…。

「マジ?…、勘弁してよ…、こりゃあ警察の方に電話だな…」


セイジ君が警察や家、仕事場に連絡を取っている間、銀が死体の側で宝物を探していた。いくら呼び戻しても一向に無視する銀に泣きたい気分だった。運良く死体までおよそ20m位の所で気づいたので、臭いや状態がハッキリと判らず少し気は楽だったが、変色した遺体を想像しただけで吐きそうになる、きっと虫もたかって要るだろう…。セイジ君が近づきたくない事を良い事に、銀の奴は好き放題。将来、自分の子供はしっかり教育しようとセイジ君は強く思った。死体は銀が届かない程度の高さなので触れられないのが不幸中の幸いだった。

到着した警察に事情を説明していると、警官達の会話が聞こえてきた。

「こりゃあ大分経ってるなあ」

「数週間経ってるかも知れませんね」

(判るんだ…)セイジ君は思った。

「発見して貰えてよかったなーあんた」

(遺体に話し掛けんなよ…)

「場所選ばないと見つけて貰えないよー」

(遅いって)

「誰かに教えとかないと」

(無理だって)

「連絡貰えれば早いのに」

(だから無理だって!)

野次馬や交通の整理が必要無いせいか、警官達はまったりしている。銀は迎えに来た父親の横で寝ているし、自分だけが非日常に取り残された様で納得出来なかった。

一旦帰宅したセイジ君は、銀の集めたハイヒールやポシェット、腕時計を取り上げてそれも警察に提出した。警察曰く、ご遺体の持ち物と確認出来たら遺族へ返すし、違ったら拾得物として持ち主が現れるまで保管され、現れなければセイジ君に返すとの事。特に腕時計は高価な物だと担当警官が言っていたがちょっと複雑だ…。


数週間後、警察から連絡が来た。個人情報は伏せられていたが、例のハイヒールとポシェットは故人の物と特定出来たとの事。腕時計も、死後に遺体がムクみ、時計のベルトで圧迫されて出来た痕が手首に残っていて、現物と一致したので全てご遺族にお返しするとの報告だった。しかし、セイジ君は今の話しに恐怖を感じて硬直してしまった。


「あの人、腕時計をしたまま亡くなっているの…?」


セイジ君は後の会話が頭に入らないまま電話を切った。



終わり


遺体は、死んだ後も腕時計をしていた筈なのに、銀はなぜ持って来られたのかを想像して貰う話しです。遺体が自分の場合を知らせる為に銀を利用したと想像して貰える様に、作中、警官達の会話を入れてみましたが強引だったでしょうか?

「つまらない」「ダメ」でも良いので感想頂けたら有難いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定は面白い [気になる点] 作者の意図がわかりにくい(警察の話からの連想に至らない)もう少し表現を考えた方がいいのかも。 [一言] 例、少し前にもう少し浅い場所での首つりはすぐわかった…
[良い点] 文章が読みやすい [気になる点] 作者の表現したい事がわかり難い [一言] 警察の掛ける言葉より、親等が昔の話だが「山で遭難して動けなくなった時に、誰かに気がついてもらえるように、物を犬に…
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