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第07話

 永き記憶の旅路の果てよりユウキの意識が呼びさまれる。

 意識を目前に向けると透明な双四角錐の水晶を挟むように立つ黒髪を編んだ少女と短い金髪の女の姿がユウキの瞳に映る。


「そうだったんですね、あの壁は本来はこの水晶が悪意に汚染された時に備えての結界だったのですね。

 あなたは愛する王の死後に水晶を封印すると共に再び人の手に触れたそのときに備えたのですね」

「私は結晶が悪意に汚染されたときにその瘴気が外へと漏れないように結界の壁を造りだすようにこの遺跡を中心に魔術式を大陸中に張り巡らしたのです」


 黒髪を編んだ少女が答える。


「ですがそのことに気付いた悪意は大陸中に張り巡らした魔術式を破壊しようとあの守護者達を生み出してしまったのです」

「そして更に私のこの世界への招還を妨害しようとした。

 そのために本来ならこの場所へと呼ばれるはずが遠く離れた東の大陸の樹海に落ちてしまった」

「本来なら結晶から瘴気が生まれると共に結界と同時に異界から浄化の力を持つ者を招く手はずでした。

 しかしそこに予想外の事態が起こってしまったのです」

「現在この結晶と繋がっているクレオはその後邪教の信徒への復讐を始めることになる。

 しかし彼1人でそれを行うのは難しくクレオは東の大陸に渡ると共に太陽神の教団を創りあげた。

 太陽神の奇跡と呼ばれる神聖魔法は全てクレオを通してこの結晶から信者達に注がれている力なのだ」


 短い金髪の女が答える。


「だがそれは同時に信者達の持つ悪意や邪念もクレオを通して結晶に注がれることになった。

 初めの頃は真摯に太陽神の力を善意に使う者達へと分け与えられていたのだがそれでは邪教の信徒と戦うのには力不足とクレオは考えざるを得なくなる。

 邪教の信徒との戦いに多くの戦士達へと力を分け与えたことと長く続く戦いが怨嗟と憎悪を呼び起こすことになる。

 クレオは己の体に魔術式を施し人々の悪意を結晶に注がれないようにしていたがこれが事態を悪化させる原因になったのだ。

 限界を超えてクレオから一斉に溢れた悪意は結晶で寄り合わさったことで魔術式に干渉できるほどに急速に成長してしまったのだ」

「それが今回の一連の出来事の原因だったのですね」

「邪神の信徒を壊滅させたあとクレオが太陽神の教団の運営を始めとした全てに興味を無くしたことで教団の腐敗が進んでしまったことも欲望と悪意を増大させることになってしまったのも一員である」

「封印と魔術式を用意すると共に私は永き刻の中で待ち続けるために自分の潜在意識を魔術式の中に複製として組み込みました」 


 黒髪を編んだ少女が答える。


「待ち続ける何を・・・」

「遥かな幾星霜の刻の彼方よりこの大地に封印された力を再び解放してこの世界から連れ出してくれる者をです。

 もうあなたには分かっているはずですよ、ユウキ」


 黒髪を編んだ少女の意識と姿はそこでユウキとの接触を終える。

 残された短い金髪の女が再びユウキに語りかける。


「あのとき私の肉体を消滅させると同時にクレオは願いました。

 その願い故に私の魂はここに留まり続けることになると共に流れてくるクレオの苦しみをただ見守る事しかできませんでした。

 お願いです私をクレオのもとに連れて行ってください、ユウキ」

「分かりました、ソルヴィさん」


 その言葉と共にソルヴィの体は仄かな灯火となってユウキの手の平におさまる。

 残された透明な双四角錐の水晶へと腕を伸ばし手が触れるとユウキの体から溢れる光が水晶へと流れ込む。




「グッワゴオオオオオオァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!」


アンデッドドラゴンが吼えるたびに大気が揺れ動く。

 巨大な翼を広げてグランシャリオ號へと迫るとその口から業火を浴びせかける。

 

「バリアはまだ大丈夫だけどお互いに決め手にかけるままね」

「太陽神殿の軍勢を喰らって随分と大きくなっとるからな。

 キャプテンの魔法弾を転送して撃っても焼け石に水やで」


 アステラの呟きを受けてヤーランが答える。

 

「アンデッドドラゴンのあの質量では生半可な攻撃をしても致命傷には程遠いからな。

 今はユウキを信じて待つしかないないか」

「ほないなら、このまま逃げ回って時間を稼ぐしかおまへんな」

「そうでもないかも、地面の下から何かがくるわ」


 その言葉の終わらぬうちに遺跡と共に大地に亀裂が走って周りへと広がっていく。

 やがて大地が崩落して沈み込んでいくと共に巨大な光り輝く双四角錐の水晶がその姿を現して宙に浮き上がる。

 水晶に亀裂が走ると砕け散って中の光が解放されて解き放たれる。

 光は徐々に薄れていくとやがてその姿を巨大な戦艦へと変えていく。


「グランシャリオ號1番艦からのデータ送信を確認。

 直ぐにでも合体できるわ」

「グランシャリオ號!合体ッ!!」


 アルクトスのその言葉を受けてグランシャリオ號の下部と前方が変形すると1番艦の上部後方が変形してドッキングする。

 グランシャリオ號内部にある中枢メインコンピューターである水晶球が1番艦内にある中央制御室へと転送されて制御コンピューターへと接続される。

 

「火器管制システムを始めとした全てのシステムを解放したわ」


 アステラのその言葉と同時に艦橋内にユウキが転送されてくる。

 アルクトスに顔を向けてユウキは問いかける。


「あなた達の目的は封印されていたこの艦だったのね。

 この艦は一体なんなの」

「この艦について分かっていることは何もない、その力の巨大さから7つに分けられ各異世界に封じられたということだけだ。

 俺がこの船の力を取り戻す理由はアステラの命がこの艦とリンクしているため艦の力を取り戻さないとアステラの命がいずれ尽きることになるからだ」

「今でも私はこの艦の外にでることはできないのよ」

「ひとまず今はあのアンデッドドラゴンを倒そう、話はそれからだ」

「マルクスなんですね」

「ああ、そうだ」

「私が倒します」

「分かったヤーラン、ユウキを頼む」


 そう言うとアルクトスは操舵輪の前に立ち手に取る。


「グランシャリオ號!発進ッ!!」




「グッワゴオオオオオオァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!」


 怒り狂うように吼えるアンデッドドラゴンに向けてグランシャリオ號の砲塔が向けられ一斉にビームが放たれる。

 ユウキの力を宿したビームはアンデッドドラゴンの胸に次々と着弾すると浄化の力を発してその質量を減らしていく。

 

「グッワゴオオオオオオァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!」


 左に舵をきって迫る炎をかわすと船体に光をまとってアンデッドドラゴンへと激突して四散させる。




 地上に降りると横たわるマルクスの側にユウキ、アドルフ、シャーロットは歩み寄る。

 傍らに膝をつくユウキに目を向けてマルクスは微笑む。


「すまなかったマルクス、私がもっと話をしていればこんなことには」

「そんなことはないさ、僕のほうこそもっと勇気を持ってみんなに本当のことを話していれば・・・。

 羨ましかったんだ、僕もみんなの仲間になれたのか・・・」


 ユウキはマルクスの目をそっと閉じて冥福を祈る。




 一際高い丘の上から町を見下ろすように太陽神殿の大聖堂は建てられている。

 今見下ろす聖地の町は炎に包まれ黒煙が天高く昇り続けている。

 太陽神の神官達が一斉にその力を失ったことは権威の急速な失墜を招くと共に高位の司祭達の不正と汚職が明るみに出たことで溢れた不満が暴動となって現れたのだ。

 大聖堂の更に上に建てられた大鐘楼。

 その塔の上から町を見下ろしながらクレオは1人待ち人の訪れを待つ。

 扉が開け放たれる音に振り向くことなく入ってきたユウキにクレオは話しかける。


「遅かったな、太陽の石は新たな主に君を選んだのかね」

「違います、彼の力は解放され永遠にこの世界から失われました」

「そうか、まあ今となってはどちらでもよいことだがね」

「初めから興味など無かったのでしょう。

 力にもこの世界にも。

 あなたにとって本当に大切なものは彼女ソルヴィだけだったのでしょう」


 それには答えることなくクレオは振り向き懐から手に収まる漆黒の珠を取り出す。

 

「最初に回収された怠惰の門の守護者のコアに僕の元に流れてくる悪意を収束させたものだよ。

 さあ決着を着けようかユウキ」


 止めることは容易なのであろうがクレオ自身がそれを望んでいないことは分かる。

 間違っているのであろうがクレオを止めることはただのユウキの自己満足でしかないのは確かであった。

 漆黒のコアを胸に押し付けて解放の呪文を口にするとコアはクレオの体へと沈み込む。

 クレオの体中から黒い泥のような汗が流れでるとやがて全身を覆いつくしてその姿を漆黒の獅子へと変貌させていく。

 ユウキはその手に力の光を燈すと共にソルヴィから託された彼女の魂を添える。

 光は剣となって迫る漆黒の獅子の口中へと突きたてられてその身に沈んでいく。




「もう、いつまでそうしているのよ」


 その言葉にクレオが顔をあげるとそこにソルヴィの怒った顔があった。


「・・・ソルヴィ」

「いつまで呆けているのよ。

 ほら早く立ちなさいよ」


 そう言うとクレオの右腕を掴んで強引に立たせる。

 まだ呆然としたままクレオはソルヴィの顔を見つめてやがて笑いだす。


「ちょっと失礼じゃないの、人の顔を見て笑うなんて」

「だってソルヴィなんだもの」

「どういう意味よ、それ」

「その怒った顔、やっぱりソルヴィだ」

「それじゃ私がいつも怒っているみたいじゃない」

「だって、そうじゃないか。

 初めて会ったときもいきなり僕の胸ぐらを掴んで」

「あれは人違いをしたからで。

 それにちゃんと謝っただろう」


 まだ笑い続けるクレオに呆れながらもソルヴィ一緒に笑いだす。


「ごめん、ずっと待たせていたんだね」

「違うよ、私はずっとクレオの側に居たんだからね」

「そうなの・・・」

「相変わらずだね本当に」


 そう言うとソルヴィはクレオを抱きしめる。


「さあ、もう行かなきゃね」

「そうだね、もう離さないよソルヴィ」


 クレオも抱きしめ返すとソルヴィの唇に自分の唇を重ねる。

 クレオとソルヴィの意識は光に包まれて旅立っていく。




 炎に包まれた大鐘楼が崩れ落ちやがて大聖堂からも炎が吹き上がる。

 聖地にある全てのものが燃え落ちていくのを離れたその場所からユウキ、アドルフ、シャーロットが見つめる。


「しばらくは大混乱になるだろうな。

 太陽神殿という重石が無くなった以上は各国も互いの利権を巡って争うことになるだろうからな」

「逃げた高司祭達もお金だけは持っているだろうからね。

 何かしでかすだけの人脈と悪知恵だけはあるって考える今後の厄種にはなるだろうね」

「まあ、だがそれは俺達がどうにかすることだ。

 最後はあまり役には立てなかったなユウキ」

「そんなことはないよ、アドルフとシャーロットが居てくれたからあきらめずにここまで来れたのだから。

 私こそお礼もお返しもできなくて」

「それこそ、そんなことはないさ。

 ユウキがこの世界を救ってくれたのは事実なのだからな」

「そうだよ、あのままだとこの世界は瘴気によって人の住めない世界になっていたんだから」

「お別れだな、ユウキ。

 ありがとう、そして健やかに」

「ありがとう、ユウキ。

 ありがとう」


 アドルフとシャーロットと抱きしめあうとユウキも別れの言葉を口にする。


「ありがとう、たくさん助けてくれて。

 ありがとう、最後まで一緒に居てくれて。

 アドルフとシャーロットも元気で」


 立ち去っていくアドルフとシャーロットを見送ってやがて2人の姿が見えなくなるとユウキの姿もその場から消える。




 半年近くも神隠しにあって行方が分からなかったユウキが突然帰ってきたことは少し騒ぎになったがやがてそれも日々の暮らしの中に紛れていく。

 少し大人びたとゆっこにからかわれることもあったがそれも束の間のことである。

 何事も無く高校を卒業し大学に進む。

 大学に入って間もなく祖母が亡くなる。

 父と母の滞在中であり一緒に看取ることができた。

 大学の卒業を見届けて父と母がまた海外へと行く前にいつもと違って3人で旅行に行こうと言われたことに驚くがあらためて考えれば気付いていたのだろう。

 その日は朝から海にでかける場所は関係ないのであろうが最後にこの世界の空と海を見たくなったのだ。

 夕刻に人目のつかないその場所で懐から金の懐中時計を取り出す中を開けると蓋の裏はコンパスになっている。

 スイッチを押して待つことになる。

 沈んでいく太陽を見つめて暗くなってしばらくすると懐かしい艦グランシャリオ號が海から現れる。

 立ち上がり懐中時計を再び操作するとユウキの姿はその場から消えてグランシャリオ號の中へと転送される。

 やがてグランシャリオ號は空へと昇りユウキの生まれ育った世界から飛び立っていく。



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