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第05話

2015/11/17 第01話~第04話 誤字・脱字・加筆修正しました。

 憤怒の門を潜りぬけて第6の壁の内側へと足を踏み入れてから間もなくユウキ始めとする全員がその姿を捉える。

 人間のように2本の足で歩いて手には槍を握っている紅い外皮を持つ蟻ミュルミドンという名の亜人である。

 それはこの世界に存在する種族では無い。

 瘴気も確かに第5の壁の内側よりは濃いがまだ魔物化するほどでは無いはずである。

 とはいえ人体に影響が無いということではない既に植物は枯れはじめており動植物の健康を害し始めている。

 出会って突然に襲われたことでミュルミドンとの予期せぬ戦いが始まることになる。

 アドルフがその手のバトルアックスを叩き込むと堅い外皮に斧の刃が弾かれてその硬さに驚かされることになる。

 アドルフのバトルアックスはドワーフの職人の一品物であり鉄さえも斬り裂く刃である。

 アルクトスは魔法銃オテル・ドゥ・ドラグーンに付与魔法の弾丸(グリモア)を込めてアドルフのバトルアックスを撃つ。

 魔法の輝きを帯びたバトルアックスをアドルフはミュルミドンの腹へと撃ちこんで胴を断つ。

 そのまま迫ってくる次のミュルミドンの頭へとバトルアックスを叩きこんで縦に斬り裂く。

 続いてシャーロットが風の精霊で絡めとって動けないミュルミドンを袈裟斬りに斬りかかって両断する。

 ユウキも剣で斬り伏せてアルクトスがミュルミドンのその首を次々と刎ね跳ばしていく。

 瞬くまにミュルミドンを倒すとその体か霧のように霧散して消え去っていく。


「どういことだ。

 手応えは確かにあったが」

「本体では無かったとか」

「ですが確かに生命の精霊は感じましたよ」


 アドルフ、ユウキ、シャーロットが困惑を言葉と共に口にする。


「今はまだ情報が不足しています。

 ひとまず町に向かって今ここで何が起こっているのかを確認しましょう」

「そうですね、アルクトスの言うとおりまずは町に向かいましょう。

 このミュルミドン達が他にもいるのなら町の方でも何かしらの手がかりを得ているでしょうから」


 全員がユウキの言葉に頷きひとまず近くの町に向かうことにする。

 第6の門から1番近い町に着いたのは夕刻でありもうすぐ陽も沈む頃であった。


「待てっ!何かがおかしい」


 御者台に座るアドルフが気付いて隣のヤーランに注意を促す。

 馬車を停めるとヤーランは双眼鏡を手に取って町の様子を確認する。

 

「これは先のミュルミドン達や。

 町を襲っとるんや」


 そう言うとヤーランは双眼鏡をアドルフに手渡す。

 あらためて双眼鏡をとおして町を見つめると門が撃ち破られているのが分かる。

 破壊されたその門の前だけではなく後続のミュルミドン達も次々と群がっている。

 車の扉を開けてユウキ、シャーロット、アルクトスも外へと出てくる。

 

「町が襲われているのなら直ぐに助けに向かいましょう」

「そうだな、すでに門も壊されている。

 急いだ方がいいだろう」


 ユウキの言葉にアドルフがそう答えると全員で馬車に乗って町の近くまで行くとそこからは馬車を降りて走ることになる。

 アルクトスが魔法銃オテル・ドゥ・ドラグーンを放つと次々と大爆発が起きて炎と爆風がミュルミドン達を飲み込んでいく。

 シャーロットが風の精霊王を招還すると吹き荒ぶ風が刃となってミュルミドン達を斬り裂きながら薙ぎ倒していく。

 ヤーランも手にした狙撃銃を構えて次々とミュルミドン達を撃ち抜いていく。

 突破口を開くとそのまま門に向かって駆け走る。

 魔法の輝きを帯びたバトルアックスを振り回すアドルフが門の前にいるミュルミドン達を薙ぎ倒しながら道を開く。

 ユウキも剣を手にアルクトスも刀を手にアドルフの左右でミュルミドン達に斬りかかる。

 周囲のミュルミドンを全て薙ぎ倒すと門を潜って町の中へと押し入る。

 そこでアルクトスは魔法銃オテル・ドゥ・ドラグーンを手にすると弾丸(グリモア)を込める。

 魔法銃オテル・ドゥ・ドラグーンの力を解放させると周囲から魔法力(マナ)喰らうように弾丸(グリモア)へと収束させる。

 龍の頭を象った銃口の中から光が溢れると町の外のミュルミドンの群に向けて撃ち放つ。

 群の真ん中に着弾すると同時に凄まじい速度でブリザードが周囲に広がっていき次々とミュルミドン達を飲み込んでいく。

 凍てつき氷に包まれた体が吹き荒れる風によって粉々に撃ち砕かれていく。

 

「俺はこのまま壁の上の応援に向かう」


 それだけを言うとアルクトスは壁の上へと続く階段に向かって走っていく。

 心配するユウキにシャーロットが追いかけることを伝えてアルクトスのあとを追いかける。

 2人を見送ってユウキ達は町に侵入したミュルミドン達に戦いを挑む。




 町には既に多くのミュルミドン達が入り込んで人々を襲い建物を破壊している。

 子供を庇う母親の背中を貫いた槍を引き抜くとその遺体にしがみつく女の子に向かってミュルミドンの手の槍が降り上げられる。

 振り下ろされる刹那に飛来する光の矢がミュルミドンの頭を撃ちぬくとその体を霧散させていく。

 駆け寄ったユウキが跪いて母親を見るが刃は心臓を貫いているのが分かる。

 

「この子を・・・」


 途切れる声でそれだけをユウキに伝えて母親は静かに目を閉じる。

 群がるように迫るミュルミドンに立ち上がりざまに剣を振って斬り伏せる。

 女の子をその背に庇いながら剣を振るってミュルミドンの首をユウキは次々に刎ね飛ばしていく。

 アドルフがバトルアックスを振り回してミュルミドンを薙ぎ払いながらユウキに駆け寄る。

 その後からはヤーランが叫びながら駆け寄ってくる。


「ユウキ、浄化の力を使うんや。

 間違いおまへん、このミュルミドンは瘴気よって創られた魔物や」


 その言葉を受けてユウキは剣を捧げるように胸の前で垂直に構えると精神を集中する。

 剣が光り輝くと溢れる光に照らされたミュルミドンのその体を次々と黒い霧へと霧散させていく。

 

「ウワアアアァァァァーーーーーッ!」


 剣を天空に向かって真っ直ぐに伸ばすとユウキの体中から光が溢れだして町全体へと広がって飲み込んでいく。

 光に照らされるとその存在をかき消されるように町中のミュルミドン達が次々と撃ち消されていく。




 火も消されてようやく町が落着きを取り戻した頃には既に暗くなった夜をまわった時間であった。

 あれからアドルフとヤーランは女の子と母親の遺体を町の避難所にまで送り届けると気絶したユウキを抱えてシャーロットとアルクトスに合流する。

 無事であった宿に少し多めに支払ってアルクトスが部屋を取るとユウキを部屋のベッドに寝かせて休ませることにする。

 医者を呼ぶことも考えたが町の惨状を考えると医者も手一杯であって気を失っているだけならばとしばらく様子を見ることにする。

 ユウキをシャーロットに任せてアドルフ、アルクトス、ヤーランはそれぞれの部屋に戻る。




 自分を呼ぶ声にユウキは振り返る。

 暗闇の中で大勢の人達がユウキを見つめている。

 自分を呼んだのは彼らであろうか。

 ふっと前列に自分が助けられなかったあの母親の顔があることに気付く。

 無事だったのだろうか。

 ならばあの子はどうしたのだろうか。

 一緒にいてあげないのだろうか。

 そしてそのことを察する。

 ああ、そうかもう一緒にはいてあげることはできないのかと・・・。

 自分を呼んだのはそうかと・・・。




 真夜中に目を覚ましたユウキは心配そうに自分を見つめるシャーロットと目が合う。


「ありがとう、シャーロット」


 そう言って体を起こすユウキに、


「無理をしてはダメよ。

 慣れない力の使い方で精神的にも疲れているそうだから」

「うん、だけどまだあの人達のためにしなければいけないことがあるんだ。

 約束をしたからね」

「・・・やくそくっ」


 怪訝に思うシャーロットに微笑むとユウキは立ち上がり部屋の外に向かって歩きだす。

 ドアノブに手をかけるユウキを見てシャーロットも連いて行くことにする。




 ミュルミドンによる破壊の傷跡をまだ残す夜の町をユウキとシャーロットは歩き続ける。

 崩れた建物と瓦礫もまだそのままで死体を片付けるのも暗くなったこともあって目に付くところ以外は翌朝以降とされている。

 まだ少し血の匂いを風が運んでくる。

 町中に幾つかある水汲み場でユウキは足を止める。

 そこは地下から汲み上げた水を筒を通して泉へと流し込んでいる。

 

「私の住んでいた国では夏の季節に死者が帰省して家族と過ごすという考えがあるんだ。

 夏に帰ってきた死者は家族が送り返してあげないとこの世を彷徨う亡者になって苦しむことになるんだ。

 だからどんなに寂しくても辛くても見送らないとダメなんだ。

 河の流れる先には死者の国へと通じているという考えのもと死者の魂を小船に乗せて迷わないように灯篭と一緒に流すんだ。

 死者への感謝と弔いの想いも一緒に乗せてね」


 ユウキはそう言うと胸に手を当てて歌を唄う。

 やがて町のそこかしこから蛍火のような灯りが燈りはじめる。

 蛍火は各々に町中を駆け巡るまるで誰かを捜しているみたいに。

 やがて眠れずにいた人々が気付いて外に飛び出してくる。

 夫を亡くしたばかりのその女の前に蛍火が1つ止まると淡い輝きとともに夫の姿が現れる。

 両親を亡くした娘の前に2つの蛍火が止まると淡い輝きとともに両親の姿が現れる。

 恋人を亡くした若者の蛍火が止まると淡い輝きとともに恋人の姿が現れる。

 やがて町中でその光景が見られるようになる。

 誰もが涙を流しそして惜しみながらも別れの言葉と感謝の言葉を口にする。

 やがて1人1人と死者は蛍火へと戻って旅立っていく。

 最後の死者が旅立つとユウキの歌もやみ街は静けさに包まれる。

 誰もが死者との別れを惜しみながらもその旅立ちを見送った。

 足音に振り向くとアルクトスがそこにいた。


「どうやら本当の自分の力にようやく目覚めたようだな」

「ええ、やっと分かったんです。

 ヤーランが巫女と言った意味はこれだったのですね。

 邪念の浄化も力の一端でしかなかったんです。

 本当の力は魂と心を通わせることだったんです。

 生者も死者もその魂に語りかけて言葉と心を受け止める。

 それが私の力だったんですね」

「そうだ、それこそがユウキがこの世界に招かれた理由だったのだろう」


 涼しげな風が吹きぬけていく。

 知ってしまった力に戸惑いが無い訳では無い。

 それでもようやく本当に自分にしかできないことに気付いたのだ。

 だからユウキは踏みだすことにする夜の先の暁にへと。




 第7の門となる傲慢の門の守護者プライドは巨大な真紅の女王蟻である。

 ひしめくようなミュルミドンの隊列を見つめてユウキが呟く。


「あのミュルミドンは死者の魂を集めて生みだした者なんです。

 守護者に捕らえられた魂を自分の命令に従って逆らえないようにして。

 そして新たな死者の魂を集めるために町や村を襲わせているのです」


 そういうとユウキはミュルミドンの隊列に向かって1人で歩きだす。

 それは既に決めていたことである。

 アドルフ、シャーロット、アルクトス、ヤーランはユウキの姿をそれぞれの想いで見送る。

 ユウキが近づいてもミュルミドンの隊列に変化は無く待ち構える考えのようである。

 最前列のミュルミドンの槍がとどこうかという距離でユウキの体から光が溢れだす。

 光はユウキの体を中心に一定の距離を覆って包み込む。

 最前列のミュルミドンがその光にふれると一瞬でかき消えて霧散していく。

 ミュルミドン達がいっせいに襲いかかってユウキの光によって霧散していく。

 悠然と歩くユウキに群がるミュルミドンは次々と霧散して仄かな灯火となって上空に集る。

 倒されたミュルミドンの魂を呼び寄せられないことに気付いてプライドに初めて焦りが生まれる。

 全てのミュルミドンが隊列を無視して一斉に動き始める。

 ユウキの光に群がるようにミュルミドン達が我先にと走り寄りそして光にかき消される。

 プライドのの巨体の前に辿りつくその頃には全てのミュルミドンが消えていなくなっていた。

 怒りに荒げるその叫びを隠そうともせずにプライドが唸りを上げてユウキに襲いかかる。

 振り下ろされたその腕が光によってかき消されると光は腕を伝ってプライドの全身へと駆け走ってその体を消していく。

 プライドの巨体が光によって消え去ると上空に集っていた灯火達もそれぞれに旅立っていく。

 それを見送るユウキの耳に軋むような音を響かせて傲慢の門が開いていく。

 駆け寄ってくるアドルフ、シャーロット、アルクトス、ヤーランに手をあげてユウキは微笑む。

 そして最後の戦いを共にする仲間達の姿をはっきりとその瞳に映すと共に彼らを迎えるべく歩みだす。



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