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第02話

2015/11/16 誤字・脱字・修正しました。

 カーテンの隙間から刺し込む太陽の温もりと眩さにようやく覚ますと時刻はすでに昼近くであった。

 寝すぎたことに驚いたが昨日の戦いを思えば致しかたのないことではあるのかもしれない。

 体を起こして寝具を整えると顔を洗いうがいをする。

 この世界では贅沢なことではあったがその誘惑には抗えず浴槽にお湯を溜めて準備をする。

 お風呂付の部屋に泊まるなどこの世界に来てからは本当に初めてのことであった。

 いつもは格安の宿の狭い部屋にシャーロットと2人で泊まっていたが今回はこの広い部屋をユウキが1人で独占していた。

 もっと安い共同の大部屋もあるにはあったが見ず知らずの男もいる部屋にはさすがに抵抗があった。

 フカフカの布団に思わず寝過ごしてしまうのもこの世界に来てからは初めてのことである。

 お湯が溜まるまでの間に部屋に置かれているハーブティーの準備する。

 それから非現実的なその豪華な部屋を見渡してユウキは少し考えてしまう。

 まだ16才のユウキが異世界に招還されて勇者になる、思えばそちらの方が現実的では無いのだろうが今はこの世界がユウキの現実であった。




 湯に浸かりながら浴槽に体を預けて昨日の戦いのあとに思わず馬車で眠ってからのことを思い出す。

 肩を揺すられて目を覚ますと隣のアドルフに寄りかかって眠っていたようであった。

 馬車は大きな宿の前で泊まっておりユウキだけでなくアドルフ、シャーロット、マルクスも目を丸くしていた。

 

「宿代はこちらでお支払いしますから。

 どうぞご遠慮なさらずにお休みください」


 アルクトスはそう言うと馬車を店の者に預けて全員を中に促してヤーランが宿代を前払いで支払ってしまう。

 少し迷ったがアドルフも大丈夫だろうと言ったので素直に礼を言って好意に甘えることにしたのである。

 昨日は疲れていたこともあってそれぞれがゆっくり休むことになり今日あらためて話をすることになっている。

 ハーブティーを口に含むと鼻を抜けていく薫りが心地よく気持ちがほぐされていく。




 ロビーに降りると見知った龍頭の亜人に気付き向こうもこちらに気付いて軽く右手を上げる。

 龍人族(ドラグナー)はその姿のとおりドラゴンの力を宿した種族である。

 大柄で平均身長も2メートルを超えて口から炎も吐く。

 アドルフというのが彼の名前であり異世界からの招還の不手際で樹海を迷っていたときに助けられたのが出会いであった。


「おはよう、アドルフ」

「おはよう、ユウキ。

 アルクトス殿が昼食を共にしたいそうだ。

 正午に彼の部屋を訪ねると伝えておいた」

「分かったわ、シャーロットとマルクスは」

「シャーロットは外に出ているが正午までには戻ると言っていたからな。

 もうじき戻ってくるだろう。

 マルクスは太陽神殿に報告に行っている。

 こちらはまあ今日は戻ってはこないだろうな」

「そう、じゃ私もここで待たせてもらってもいいかな」

「ああ、構わんよ。

 あと30分ほどだからな。

 ここに居るほうがいいだろう」


 しばらくするとシャーロットが戻ってきて3人で連れ立って約束の10分前にアルクトスの部屋を訪ねる。




 テーブルに並べられた全ての料理が平らげられるとあらためてアルクトスと向かい合って話をする。


「本日はお招き頂いてありがとうございます、アルクトスさん」

「アルクトスで構いませんよ。

 その代わりと言ってはなんですが私もユウキと呼ばせてください。

 その方が私も楽ですので」

「はい、分かりました」

「さて、まず我々はこちらに来てまだ日が浅いのであまりこの大陸のことを知らないのです。

 ですので不躾ながらまずこの世界のことをお教えくださいませんか」


 ユウキはアドルフとシャーロットに目を向けると2人が頷くのを確認する。


「あの、まずはどこから話せばいいのか」

「できれば全てをお願いしたいのですが、そうですねまずはこの大陸に敷かれている壁とあの門の魔物について教えて頂けますでしょうか。

 どのような些細なことも当たり前のことも全てです」

「分かりました。

 とはいえ私も4ヶ月前にこの世界に呼ばれたばかりなのでこの2人に補足をお願いすることもありますが」

「ええ、もちろん構いませんよ」

「まずこの世界には太陽神殿と呼ばれる神殿があります。

 太陽神殿は太陽を主神と崇める宗教団体であって各国家に強い影響力があります。

 東の大陸に全ての神殿を統轄する太陽神の大聖堂があって、そこには太陽神がこの世界に残したという太陽の石があります。

 太陽の石は人々の様々な願いを叶える奇跡の力を宿しており大聖堂によって(よこしま)なことに使われないように大切に守られていました。

 それが今から7ヶ月前に魔王を名乗る者に大聖堂は襲われて太陽の石が奪われました」


 そこで一息つくようにユウキは水を口に含む。


「そして魔王はこの大陸の中心に魔王城を築くと自身を守るために魔王城を中心に7つの壁を築きました。

 壁は結界となって越えることは不可能ですが壁には門があります。

 怠惰、嫉妬、暴食、色欲、強欲、憤怒、傲慢の各門には守護者が存在して彼らを倒さねばその先の壁の内側に行くことができません」

「なるほど、あの壁はそういうことでしたか。

 ではユウキは何故あの魔物を倒して壁を超えようとなさったのでしょうか」

「それは私が太陽神の大聖堂により異世界から招還された勇者だからです」


 そこでユウキはアルクトスの反応を見るが特に動じずに冷静に分析しているように見える。


「4ヶ月前に私は太陽神の大聖堂によってこの世界に呼ばれましたがそのときに不備があったらしく大聖堂ではなく少しずれた樹海へと落とされました。

 そのとき何も知らない私を助けてくれたのが彼龍人族(ドラグナー)の戦士アドルフと彼女エルフのシャーロットだったのです。

 2人に助けられて私は樹海を抜けて王都へとたどり着くことができました。

 王都で私は自分が勇者であることを証明してあらためて大聖堂から勇者の証と剣を授かって魔王討伐と太陽の石の奪還のためにこの大陸に派遣されたのです」

「その証と剣というのはどのようなものなのでしょうか」


 アルクトスの言葉にユウキは剣を手に取って見せる。


「剣はこちらになります」

「その剣はまだユウキには使いこなせてはいないが光を発して不思議な力を見せることがあります」


 アドルフがそう口を挟む。


「少しお借りできますか」

「ええ、どうぞ」


 剣を受け取るとアルクトスは隣のヤーランに手渡す。


「ヤーラン見てもらえるかな」

「はいな、キャプテン」


 ヤーランはまず鞘をじっくりと見つめてそれから柄を見る。

 剣を抜くと刀身に目を凝らし。


「ああ、なるほどな。

 これは歩行器みたいなもんやな。

 これ自体には何の力もあらへん」


 その言葉にユウキとアドルフそしてシャーロットが驚く。


「つまりアドルフが言った剣の力はユウキ自信のものということかね」

「おそらくやけどな。

 これは力の使い方を教えるためのもんでしかあらへん」


 ヤーランは断言してそう言う。


「この剣の由来はご存知ですか」

「確か太陽の石と共に発見されたと。

 詳しい由来までは分かりません」

「となると剣は大して重要ではないのかも知れない。

 その授けられた勇者の証とは」

「私の胸の鎖骨の下辺りにあります」

「このヤーランは優れた錬金術師です。

 魔法と科学に関しては類まれな知識と才能を持っています。

 どうせしょう、不躾ではありますがヤーランに勇者の紅し見せてはもらえないだろうか」

「分かりました、私の方からもお願いします」


 ヤーランはユウキの元まで歩み寄りまず剣を返す。

 ユウキは椅子から降りると膝を床についてヤーランに勇者の証を見せる。


「こりゃまた、えげつないな。

 各種加護の魔法はええとしても呪いはどないやろうな」


 呪いという言葉にユウキが驚き目を見開く。


「どういうことだ」


 アドルフが尋ねる。


「ケガの治りが早かったりダメージが少ないんは加護の魔法のおかげやな。

 いうてもそない大げさなもんやなくて雀の涙ほどのもんや。

 あとは追跡の魔法で現在位置の特定やとか意識を強制的に奪おうたり。

 えげつないんは体を蝕んで殺すこともでける呪いやな。

 徐々に体が腐りおるんや」

「アドルフが言うような効果はどうだ」

「そんなん、ありゃしませんで」

「ならば、それはユウキ自身の力ということか」

 

 アドルフがヤーランに尋ねる。


「待ってくれ、勇者の証に何故そのような呪いがあるのだ」

「恐らくは裏切ったりしたときや魔王討伐後にユウキが魔王以上に危険な存在となった場合の保険ではないだろうか」


 問いかけに答えたのはアルクトスだ。


「ユウキが魔王以上に危険な存在なった場合って、そのような場合はユウキを元の世界に返せばよろしいのではないでしょうか」

「いや、招還だけならそない難しゅうないんやけどな。

 元の世界に送還するのは簡単やないんやで。

 招還はできても送還はでけへんなんてのはようある話なんや」


 シャーロットの問いにヤーランが答える。


「待ってくれ、私は太陽神殿の教皇から魔王討伐の話を聞かされたときに確かに元の世界に戻れると聞かされたのだが」

「送還にはまず元の世界の場所を特定する必要があるんや。

 だいたいの招還は強制的に無理やり行うもんやからな。

 元の世界の場所を特定するのに必要なもんの準備ができておらんのや。

 数あるの世界の中から目印もないんのに捜すなんて無茶な話なんや」

「何か方法はないのか。

 ユウキを元の世界に戻せる方法が何か」


 アドルフの問いかけにヤーランは少し考える。


「その招還術がどないなもんか分からんことには断定はでけへんけど」


 そう前置きをしてからヤーランは話をはじめる。


「招還術で呼び出す場所が固定されておれば逆探知もでける可能性はあるんやけど。

 こないな場合の招還術はたいていは特定の人物を呼び出すための特徴を一定範囲から無作為に捜すもんやからな」

「垂らした釣り糸の先の半径で捉えられる異世界から目的の人物を捜しだす訳か」


 アルクトスが確認する。


「そないなりますな」

「ならば、その範囲が分かれば可能性はあるということか。

 とはいえ、そのような術を勇者の証と偽って持たせる連中ならば。

 普通に尋ねても教えてもらえそうにはなさそうだな」

「正直、太陽神殿にはきな臭い噂もありますからな。

 500年前に太陽の石を手に入れた経緯も神から授かったといいますが。

 そもそも太陽の神などそれ以前には聞いたこともありませんからな」

「そうね、エルフの間でも胡散臭いって言う人は多いわね。

 大聖堂も禁欲をよく口にするけれど寄進と言って金銭や宝石を要求するし、お酒だって運びこまれているみたいよ」


 アルクトスの言葉を受けてアドルフとシャーロットが疑問を口にする。


「これは少し不安にさせすぎたようだ。

 申しわけない、ユウキ」

「いえ、謝られることではありませんので」

「万が一の話だが太陽神殿が送還術を知らなくても招還術を詳しく調べれば手がかりは見つかるかも知れない。

 そこで教えて欲しいんだが、ユウキ。

 あなた自身の目的は元の世界に帰ることですか。

 それとも魔王を倒すことですか」

「その両方です。

 魔王の存在がこの世界の脅威であり、それが私にしか倒せないのなら私はまずそれを成したいと考えます。

 それがこの世界で出会い私を助けてくれた人達に対してほんの少しでも私自身ができることなら私はそれを成し遂げたいです。

 元の世界に返るのはそれからだと思います」

「分かった、ならば我々も微力ながら魔王討伐に協力させてください」

「あなたがですか・・・」

「ええ、我々では不安に感じるかも知れませんが」

「いえ、そのようなことは・・・」


 そこでユウキはアドルフとシャーロットと顔を合わせる。

 昨日のことを考えれば心強い味方なのであろうが。


「俺はいいと思うぞ。

 正直先ほどの話以前にマルクスはそれほど信用できないからな。

 この先3人で戦うのも新しく仲間を見つけるのも難しいだろう」

「私も賛成。

 アドルフと同じ考えになるわ。

 昨日も助けられた訳だし心強いと思うの」


 アドルフとシャーロットの言葉を受けてユウキも決断する。


「アルクトスさん、ヤーランさん、あらためてお願いします。

 私達と共に魔王と戦ってください」

「喜んで、ユウキ。

 アドルフ、シャーロットもよろしく」

「よろしくやで、ユウキ、アドルフ、シャーロット」

「ああ、よろしく頼む、アルクトス、ヤーラン」

「よろしくね、アルクトス、ヤーラン」

「ではその証はどうしようか。

 ヤーラン外せそうか」

「ああ、問題ないで」

「それならお願いすべきかな。

 だが、そうなるとマルクスが黙ってはいないか」

「いっそ、置いていってもいいかも。

 戦いのときも安全な場所から動かないか逃げてるだけだし」

「そうだな、もはや太陽神殿自体が疑わしい状況だからな」


 その後に全員で宿を引き払う準備を終えてからユウキの胸の証をヤーランが取り除く。


「ちょっと細工しますわ。

 こっちの珠に移して見当違いの方向に飛ばします。

 これで時間稼ぎにはなりますやろ」


 そういうと勇者の証を珠に移してヤーランは珠を空に浮かせる。

 珠は漂いながらどこかに飛んでいく。


「では、ユウキあらため皆に言葉を」

「行こう、みんな魔王を倒しに」


 ユウキの言葉を受け取って全員が馬車に乗り込むと町をでて第4の門へと出発する。



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