第01話
2015/11/16 誤字・脱字・修正しました。
魔王城を守る第3の壁に築かれた暴食の門の前では守護者グラトニーと異世界から召還された勇者である少女ユウキとその仲間達の死闘が続いている。
守護者グラトニーは体長100メートルを超える艶のある桃色の鱗を持ち12の頭を持つ蛇の魔神である。
ユウキの仲間は龍人族の戦士アドルフ、エルフのシャーロット、太陽神官のマルクス、ガンナーのイドそして魔法使いのアインである。
アインが古代語魔法を詠唱してアドルフのバトルアックスが光り輝く。
頭上に振りかぶったバトルアックスを振り下ろさすとグラトニーへとの首の1本を両断する。
断たれた首から溢れるように迸る血が瞬くまに頭の形を模ると蛇の頭が再生されていく。
「やはり、ダメか。
魔法の加護を受けた武器でも倒せぬとはな」
アドルフがいったんその場から離れながら呟く。
「アイン!氷の魔法で奴の頭を凍らせられるか」
ユウキの言葉を受けてアインは再び古代語魔法を詠唱する。
イドが構えた連射式弩からたて続けに矢を放ってグラトニーの頭の1つの目を潰す。
もがくように首を持ち上げるその頭にアインのブリザードの魔法が放たれる。
瞬くまに凍りつくと頭が地面へと叩きつけるように落ちる。
「やったわねっ。
このまま全ての頭を凍らせましょう」
シャーロットが嬉しそうに言う。
「マルクス!アインの精神力の回復をっ。
アドルフと私が前にでて奴を押さえる。
シャーロットとイドは後方からの牽制を頼む」
ユウキが素早く指示をだして全員が直ぐにそれに合わせて動く。
シャーロットが精霊語で語りかけると土の精霊ノームがグラトニーの体の下の地面を沼に変える。
沈み込んで思うように動けなくなったグラトニーにユウキとアドルフが走る。
イドが次々と矢を射かけてグラトニーの目を潰していく。
「ウオオオォォォッ!」
アドルフがバトルアックスを蛇の頭の1つに振り下ろして眉間を叩き割る。
ユウキの剣が蛇の顎下を刺し貫きそのまま紙の如く首を斬り裂いていく。
マルクスの声にユウキとアドルフがその場を離れるとアインの魔法が発動して瞬くまに3つの首が凍りつく。
「残り8つだっ!まだ気を抜くな。
シャーロット風の精霊王を呼んでくれ」
ユウキの言葉を受けてシャーロットが精霊語で語りかける。
アドルフが再びグラトニーへと走るとユウキもそれに続く。
グラトニーの首がアドルフに伸ばされるのをイドの矢がその鼻を撃つことで阻止をする。
思わず頭を持ち上げるグラトニーの隙だらけの首をアドルフのバトルアックスが一閃する。
首を断っても再生するだけなので今度は斬り裂くだけに留める。
それを見ていたユウキが気付いて叫ぶ。
「アドルフ!今まで斬り落とした奴の首はどうなったッ」
その言葉に全員が気付いて魔法を詠唱しているアイン、シャーロット以外の全員が周りを見渡す。
「無いぞ!どういうことだ砂になるか霧散するかしたか」
マルクスが叫ぶ。
「油断するな!まだ何かあるかもしれない」
「ッグアアアァァァッ!」
ユウキの言葉に悲鳴で答えたのはアインである。
地面の下から飛び出した蛇の頭がアインに喰らいつくとその胸に牙を突き立てている。
「っあああぁぁぁ」
マルクスがアインから逃げだすように距離をとる。
「何をしているマルクス!アインを助けるんだ」
アインに駆け走りながらユウキが叫ぶ。
イドが弩を構えてアインに喰らいつく蛇の頭に矢を射かける。
狙い違わず蛇の頭に次々と矢が突き立てられる。
「ッ!こんなとときにか」
空になった矢箱を外して新しい矢箱を装填する。
素早くそれらの動作を終えて再び構えたとき足元から地面ごと飲みこむようにもう1つの蛇の頭が現れる。
「ッガアアアァァァッ!」
胸に牙を突き立てられてイドが叫ぶ。
長い語りかけを終えてシャーロットが魔法を発動させると風の精霊王が招還される。
「シャーロットッ、奴の本体を抑えこんでくれ」
ユウキの叫びにシャーロットは精霊語で風の精霊王に語りかけて大気を圧力に変えてグラトニーの本体を押さえ込む。
並みのモンスターなどではこれで押し潰されるほどの圧力であるがグラトニーは抗うように暴れる。
「ッグアアアァァァーーーッ!」
ユウキがたどり着く前に噛み千切られてアインの体が両断される。
「ダメだ!間に合わん。
ユウキ今は助けられる者を優先するんだッ。
イドの方に向かうぞ」
アドルフがユウキを諌めてイドを救いに走る。
アインの下半身を咀嚼し終わると蛇の頭はその上半身に喰らいつく。
イドに喰らいつく蛇の頭に向かってアドルフのバトルアックスが振り下ろされる。
ユウキの剣が光輝き貫くともがき苦しんだ蛇の頭がイドの体を離す。
アドルフがイドの腕を抱えあげて引っぱる間に蛇の頭は霧散するように掻き消えていく。
「毒だ!マルクスどこにいる」
「アドルフ、イドを頼む。
私は残った頭を倒す」
「1人でか無理はするな!」
「シャーロット、すまんがもう少しだけ押さえていてくれ」
アインの上半身をまだ咀嚼している蛇の頭を目指してユウキが走りだす。
「マルクス!何をしている早くこい。
ユウキ待って!1人では危ないぞ」
イドに毒消しのポーションを飲ませるがやはり効果は無い。
守護者の持つ毒や麻痺などは魔法でないと対抗できないのである。
アドルフは背中に手をまわすと腰から投擲用の小ぶりの斧を手に取って蛇の頭に向かって投げる。
両手2本の斧が命中するとその隙を狙って刺し貫いたユウキの剣がによって蛇の頭は霧散するようにかき消えていく。
ユウキの剣の光がおさまるのを見てアドルフは考える。
魔法使いのアインが倒された以上は有効な攻撃手段を失ったことになる。
シャーロットの魔法だけで倒すのは厳しいと考えざるを得ない。
「ユウキ退却だっ!
これ以上戦っても有効な攻撃方法が無い以上は勝ち目がない」
「何を言ってるんだ。
守護者を倒さなければ先には進めないんだぞ」
「マルクス、お前は早くイドの解毒と回復を」
「もう手遅れだよ・・・」
マルクスの言葉にイドへと目を向けるとアドルフもそれを悟る。
「ユウキ、4人では無理だ」
「分かった、シャーロットそのまま精霊王に抑えさせたまま後退はできる?」
「ええ、大丈夫よ」
「だから、アイツを倒さないと先に進めないんだよ」
「お前は黙っていろ。
太陽神殿の見届け人なのは分かるが戦う意思の無い者に判断を委ねることはできん」
「ちょっ!ちょっと待って、圧力が押し返されている」
その言葉にアドルフとユウキは同時ににグラトニーへと目を向ける。
全身の鱗に血管が浮きでており桃色から徐々に赤みが増している。
首を持ち上げると一斉に凍った4本の首を喰い千切り始める。
血が噴き出ると首に変わり新たな顔が現れる。
「ヤバイな、ユウキ、シャーロット撤退だッ!」
その言葉にアドルフ、ユウキ、シャーロットが走り遅れてマルクスが逃げ走る。
グラトニーが古代語を唱えるのを背中で聞きユウキが驚いて後へと目を・・・。
「振り向くなッ!」
アドルフが叫ぶ。
「恐らくは首を一定の数斬り落とすなどで力を解放するんだろう」
「どのみち今の状況じゃ勝てないわね」
シャーロットはそう言うと風の精霊王に守りの風をお願いする。
守りの風が張られた数瞬のあとにグラトニーから火球が放たれて守りの風にふれて爆発を起こす。
「さすがに12本の首で一斉に魔法を撃たれたらもたないわ」
「今は走るしかない。
アドルフ、マルクスを抱えてあげて」
「承知」
それだけを言うとアドルフは振り返って遅れるマルクスの腹を受け止めるとそのまま肩に担ぎ上げて再び走りだす。
「っああ、急いで魔法の・・・」
シャーロットの言葉が終わらないうちに前方の大地が隆起して壁になる。
「間に合わんかッ!」
周囲の大地が次々と隆起し壁がユウキ達をとり囲む。
「取り囲まれたわね。
シャーロット魔法でなんとかできる?」
「こんなに高いと無理ね」
獲物を捕らえたグラトニーの12本の首が一斉に古代語の詠唱を始める。
火球が生まれると徐々に膨張をはじめて熱量が高まる。
シャーロットが風の精霊王を大気の塊にするとグラトニーと大火球へと向けて放つ。
放たれた大火球は風の精霊王を飲みこむようにかき消して尚も直進を続ける。
刹那、壁を撃ち抜いて伸びる光が大火球を貫いて霧散させるとグラトニーを撃つ。
「こちらで援護をする。
奴の体のむき出しになったコア、紅い珠を破壊しろ」
不意に大音響となって壁の向こうから放たれてくるその言葉に駆けだしながらユウキはグラトニーに目を向ける。
真ん中の首の根元に穿たれた肉の間に紅い珠が確かに見える。
「アレかっ!」
シャーロットが精霊に語りかけると風の精霊がユウキの周りを取り囲みその身を軽くする。
アドルフがイドの弓を構えてユウキの援護をしながら走りだす。
グラトニーの頭部が再生を繰り返すたびに伸びてくる光に次々と撃ち砕かれていく。
頭部が再生するたびに紅い珠が明滅を繰り返しているのをユウキの瞳が捉える。
「アアアァァァーーーッ!」
剣が光り輝くと共に跳びあがって紅い珠に向かってユウキは剣を突きだす。
「グワオアアアァァァーーーッ!!」
紅い珠が砕け散り霧散していく。
ユウキへと迫る首に追いついたアドルフがバトルアックスを叩き下ろして眉間をかち割る。
そのまま再度首を斬り落とすが再生はしない。
「よしっ、首はあと3本だ。
このまま倒すぞアドルフ」
「オウッ!油断はするなよユウキ」
「ああ、分かっているさ」
ユウキとアドルフがグラトニーの首を斬り落とすのをシャーロットが魔法で援護をする。
全ての首を斬り落とされてようやく動かなくなったグラトニーの前でユウキとアドルフはそのまま座り込んでしまう。
「さすがにもう動けないな」
その場で仰向けで眠りたい衝動を抑えてユウキがアドルフに語りかける。
「ああ、さすがに今回は危なかったな」
その言葉にユウキはイドの遺体へと目を向ける。
「アインとイドを助けられなかったな」
「気にするな。
といえば非情に思うかも知れんがアインとイドも覚悟のうえでのことだ。
考えるなとは言わんが背負うことはない。
先はまだ長いんだからな」
「そうだな門はあと4つある。
そして魔王との戦いも。
まだまだ先は長いんだな」
アドルフの見つめる先で1台の馬車が姿を現す。
「先ほど助けてくれた者であろうか」
ユウキもその馬車を見つめている。
二頭立ての黒塗りの大型の馬車である。
途中でシャーロットとマルクスを御者台に乗せて馬車はユウキとアドルフの前で停まる。
「大丈夫ユウキ、アドルフ」
「ああ、大丈夫だ」
「こちらもケガと言うほどのものはないな」
アドルフはそう言うと素早く御者台に目を走らせて驚く。
1メートルに満たない大きさの黒猫である。
手は人間のようになっており手綱を握っている。
ふくよかなその体には人間のように服を着ており頭には麦わら帽子を被っている。
「この世界にはあんな種族もいるのか」
ユウキの言葉に我に返ってアドルフは考えるが聞いたことの無い種族である。
「う~ん、私も聞いたことはないな」
シャーロットも考え込みながらそう答える。
アドルフは落ち着いて馬車をあらためて見て気付く馬は鋼のゴーレムである。
車も4輪車両の大型で髑髏の紋章が描かれている。
車の扉が開かれて降りてきたその人物はフロックコートもズボンも手袋やブーツまで着ている服は黒一色であり首にネクタイの変わりに紅い布を巻いている。
首の布のピンとやコートのボタンにベルトの金具は黄金であり髑髏の紋章が描かれている。
右肩の飾緒は鮮やかな金糸であり左肩の片かけのマントは表地は黒で裏地は赤である。
右眼のモノクルの縁も黄金で垂れ下がっている紐は金糸で先に龍の飾りがある。
漆黒の髪と瞳のその男はユウキとアドルフに微笑むと挨拶をする。
「はじめまして、アルクトスと申します。
ご無事で何よりでした。
詳しいお話を中でしたいと考えますがよろしいでしょうか
冷たい水などもご用意しています」
アドルフと目を合わせて任せるという意思表示を受け取ってユウキは立ち上がる。
「失礼しました、私はユウキ。
こちらは龍人族の戦士アドルフ。
そしてエルフのシャーロット。
それから向こうにいるのが太陽神の神官のマルクスです」
マルクスはグラトニーの遺体の傍で観察をしているようだ。
「できれば仲間の遺体を弔いたいのですが」
「分かりました、それでは我々もお手伝いをさせてください」
少し迷ったがユウキはあらためてお願いすることにする。
マルクスが正直当てにならない以上はアドルフ以外は女2人であったからだ。
「ありがとうございます。
アルクトスさん、ではよろしくお願いします」
そこで助けられたお礼を言い忘れていたことを思いだす。
「お礼がまだでしたね。
助けて頂いてありがとうございました」
「それならば彼にお願いします。
先ほどの射撃は彼によるものですから」
そう言うとアルクトスは御者台の3頭身ほどの黒猫を手で示す。
「やあ、上から失礼するで。
ケットシーのヤーランといいます。
よろしゅうな」
そう言ってヤーランは麦わら帽子を脱いで軽く会釈する
「ユウキです。
先ほどは危ないところをありがとうございました。
挨拶とお礼が遅れて申しわけありません」
「気にせんでええで。
危ないとき困ったときはお互い様やからな。
それにワイらもここを通りたかった訳やからな。
こっちこそおおきにやで」
陽気にそう言うとヤーランはアドルフとシャーロットにも会釈をする。
その間にアルクトスは馬車の後部の物置からスコップを取り出してくる。
マルクス以外の全員で穴を掘るその間ユウキはイドとアインとの出会いを想いだす。
イドと出会ったのはユウキがこの世界に呼び出されて落ちた樹海であった。
その頃シャーロットのエルフの集落では樹海で突如発生した木々が枯れ死する疫病の調査を行っていた。
そのときに疫病を蒔いた容疑者として疑われたのがイドである。
ユウキがイドの言葉を信じると言ってエルフ達に猶予をもらいアドルフと調査にあたったのだ。
このときエルフの集落から同行させるようにと言われシャーロットとも出会うことになる。
疫病の原因が魔術実験で死亡した魔獣の死体であると知って樹海から近い魔術学院のある町に赴むくことになる。
このときに魔術学院から調査許可をもらう際にお目付け役としてつけられたのがアインである。
アインの協力もあって事件の原因を解明し無事にイドの無実を証明することができたのである。
それからアドルフ、シャーロット、イド、アインはユウキの言葉を信じて元の世界に戻る方法とこの世界に来た理由を捜してくれたのである。
2人分の穴を掘り終わるとアドルフとアルクトスが丁寧にイドとアインを穴の底に寝かせると聖別した油をかけて火をつける。
この世界ではアンデッドも存在することから火葬が一般的なのである。
イドとアインの体を燃やすその炎を瞳に映してユウキはあらためて2人に誓う。
必ず魔王を倒してこの世界に平和を取り戻すことを。
炎が治まって土をかけ終わるとユウキは膝を折って両手を合わせる。
この世界の祈りではないことを承知しているがそれでも自分の心を一番伝えることができると想いそうする。
イドとアインの弔いを終えると全員で馬車に乗って既に開いている暴食の門を潜り抜ける。
時刻はすでに夕刻近くであって不覚にも疲れもあってかユウキは馬車の中でそのまま寝入ってしまうことになる。




