第 28話ドラゴンハンティング
監視塔 屋上
優は壁の裏に隠れ、MP7の弾数を確認していた。装填されている弾倉には一発、ベストには予備マガジン一本とかなり厳しかった。
「頼みのミサイルも無い…。どうする?」
今の装備ではドラゴンを倒すのは難しい。ましてやMP7の4.6×30ミリ弾ではMBT(主力戦闘戦車)並の強度を持つドラゴンの鱗を貫通することなど出来ない。他にベストには手榴弾がある。
「手榴弾をドラゴンの口の中にいれることが出来れば…いや、ダメだな」
手榴弾を投げる前に背中にいるハリーに魔法攻撃を食らってお陀仏だ。
「おいおい、もうおしまいかい?残念だな~久しぶりに骨のある奴と戦えたと思ったんだけど。まあ、結構楽しめたかな」
ハリーはケラケラと笑いながら言う。
「さてと…もう終わりにするか」
ハリーは杖を壁に隠れている優の方に向けて、再び呪文を詠唱し始めた。
「万事休すか…くそ!」
優は毒づき、死を覚悟した。が、その時だった。何処からかポン、ポンと何かが発射される音がなると、屋上に黒い球のような物が次々と落ちてきた。
「な、何だこれ!?」
ハリーが突然の事に詠唱を止め、驚く。ハリアーも同じように動揺している。すると黒い球からは煙が出てるではないか。
「ゲホ、ゲホ…痛てぇ!」
ハリーが苦しみ始めた。それと同じくドラゴンもむせ始めた。
「もしかしてこれは…催涙弾か?」
優は黒い球の正体が催涙弾だと気付いた。暴徒鎮圧に用いられる催涙弾はCNガス、CSガスと言った催涙ガスを放出する非殺傷兵器の一つでもある。これらのガスを吸い込んだ場合、目の痛みや吐き気、さらには呼吸障害を誘発させる。優はガスを吸わないようにスカーフで鼻と口を覆うよう巻き、ゴーグルも装着する。
しかし、かなりの量を撃ち込んだのだろうか、屋上は催涙ガスのせいで霧に包まれたように真っ白になった。
「ゴホ…さすがに撃ちすぎじゃないのかな?」
丁度、無線機が鳴った。
「こちら優。どうぞ」
「優、アレックスよ。大丈夫?」
「アレックス、催涙弾を撃ったか?こっちはガスまみれだ」
「今、グレネードランチャーで撃ち込んだのよ。」
「ケホ、ケホ…助かったけど、量多すぎないかい?」
「弾薬箱一つ分使ったからね。それと、今フェルクがそっちに武器を持ってくるわ」
「フェルクがか?随分頼もしくなったな、アイツ」
すると屋上の入口付近に尖った耳の人影が見えた。フェルクだ。フェルクは優を見つけると、素早く近付いてきた。
「フェルク、大丈夫か?」
「ゲホ、ゴホ、優…これを使ってくれ」
ガスを吸い込みながらも、フェルクは背中に背負った長い筒を優に渡す。
「これは…カール・グスタフM2!?」
「アレックスが…あんたに渡せって言って…う、ゲエェェ!」
フェルクは催涙ガスを吸い込みすぎたのだろうか、口から吐瀉物を吐き散らした。そのまま座り込み、たくさん吐いた。
「大丈夫か!?」
「鼻と目がおかしくなりそうだ…。気持ち悪りぃよ」
よく見るとフェルクの顔は涙と嘔吐物まみれで、ぐちゃぐちゃになっている。
「無理もない、これだけのガスだ。狼であるお前には辛いだろうな。何か布で顔を覆うんだ。それなら多少は楽になるはず」
「分かった…」
フェルクは着ている上着を少し破き、狼の鼻と口を覆った。
「よし、それだけ巻けば大丈夫だ。しばらく物陰に隠れていろ、俺はあのイカれ野郎に止めを射す」
「優…俺、役に立てたかい?」
「十分過ぎるくらいさ、フェルク」
優はカール・グスタフM2を肩に担ぐと、ドラゴンに向けて構えた。
「グホ!ウゲ…!ハリアー、空に上がれ!!この煙が来ないところまでだ!!」
ハリーの指示にハリアーは赤い翼を広げ、空に上がろうとしていた。翼をゆっくりと羽ばたく度に、催涙ガスが飛ばされていくが一刻も速く逃げ出したいのだろう。優はそれを見逃さなかった。
「くそ!こうなれば塔ごと吹き飛ばしてやる!!」
ある程度の高さに上がった途端にハリーが怒鳴り散らす。それが命取りになるとは思いもよらないはず。
「吹き飛ばされるのは…お前の方だ!!」
ドラゴンに向けて優がカール・グスタフM2の引き金を引く。発射口から榴弾が高速で発射されると同時に、発射器の噴射口から強烈な後方噴射が吹き出し、辺りに漂っていたガスが一瞬で消えた。榴弾はそのままドラゴンに飛んでいくと、運悪くハリアーが口を開けており、榴弾が口の中に命中し、爆発を起こした。
朝日が昇る中、空に激しい爆発と黒煙が広がる。
「ケホ、ケホ、何なんだ一体?」
ハリーが煙を払い辺りを見回した。
「クハハハハ!!な~んだ?外れかよ。残念だったな?今度はこっちの番だぜ!!」
「いや…お前の番は来ない」
「あん?」
ハリーが大笑いする中、優は静かに言い放つ。
「なんだ?負け惜しみかよ。今さら…うわ!?」
突然ハリアーがバランスを崩した。ハリーが手綱を強く掴みハリアーに怒鳴る。
「この野郎!!何バランス崩して…!」
ハリーの言葉が止まった。それもそのはず、ハリアーの頭がなんと跡形も無くたっていたのだ。首の骨と肉が剥き出しになり、鮮血が噴き出している。辛うじて条件反射で翼は羽ばたいているが何時までも持たないだろう。時間が経てばーいつかは止まる。
「うわ、あ、ああ!」
ハリーが手綱にしがみつく。だが、先程の爆発のせいで今にも手綱は切れそうだった。ハリアーの体がぐらぐらと揺れ、翼の羽ばたきも弱くなっている。そしてハリアーが大きく傾いた時、手綱がぶちぶちと千切れた。
「あ、あ、ああああああああああああああああ!!!!!!!!」
ハリーは数十メートルもある高さから落ちていき、真下にあった木箱の山に豪快に落下する。
「グホ…!」
体中を強打し、ズタズタになったハリーは身動きすら出来ない。するとその後にハリアーが同じく落下を始め、その巨体もろとも木箱の山に落ち、ハリーを押し潰す。ズーンと地の底から響いてくるような音が砦全体に伝わるようにこ聞こえた。
「終わった…」
土煙が上がる中、優はカール・グスタフを壁に立て掛けてた。




