第27話 ミサイルの弱点と84mm無反動砲カール君
女性は時に恐いものです…。
「ん?」
ハリーはあのドラゴンに似た物体が再びこちらに近づいてることに気が付くと、残忍な笑みを浮かべた。
「くく…。またあの物体来んのか?まあ、ハリアーのスピードと互角みたいだけど、そんなことをしても挑発してるようにしか見えないのにな~」
ハリーがそう言ってる間にイワンの乗るグラーチェはスピードを上げ、接近していく。
「ほらほら、こっちに食い付けよ。ドラゴン!」
イワンは挑発するように機関砲をドラゴンに向けて撃ち、わざと外す。ドラゴンも今の攻撃で腹をたてたのかだろうか、またグラーチェを追いかけ始めた。イワンはそれを確認し、グラーチェのエンジンをフルスロットルさせる。
「そうだ!こっちに来い」
グローム砦 監視塔屋上
一方、屋上にいる優はFIM-92Bの起動準備を行っていた。
「よし、SAM-2(91式携帯地対空誘導弾)と構造は変わらないな」
そう言うとスティンガーを構え、ランチャーに搭載されたIFF(敵味方識別)スイッチを押す。これもグラーチェに誤射しないための予防策だ。そして安全装置を解除し、缶詰めに似ているBCU(バッテリー兼冷却剤)を装着させた。そしてランチャーの先に取り付けられた開放スイッチを押すとランチャーが起動する。
「これでよし、後は目標を狙うだけだ」
優はグラーチェを追いかけてるドラゴンを狙った。スティンガーから標的を捕捉中を知らせる電子音が小刻みに鳴る。優は息を整えながら集中し、ミサイルが発射可能になる時を待った。
「フー、フー」
息を整えるたびに、優は獲物を狙う獰猛な肉食獣の気分になっていくような気がした。が、ドラゴンにとって自分は逆の立場、格好な獲物なのだ。気を抜けばあの化け物の胃袋に収まる。
その時、スティンガーがけたたましくブザーが鳴り響いた。ミサイルが標的を補足した合図だ。優はすかさず無線機を入れる。
「こちら優。イワン!」
「同志、準備完了か?」
「ああ、待たせたな」
優は某スパイゲームの主人公が使う決め台詞を言う。それを合図に戦闘機が勢いよく旋回し、優のいる監視塔に飛んでくる。その裏からドラゴンが猛スピードでやって来ていた。数百メートルまで来るとグラーチェがさらに加速し、監視塔を通りすぎる。
「あん?何だ急にスピードを上げて…」
ハリアーの背中に乗るハリーはグラーチェがスピードを上げた事に疑問を感じた。するとハリアーが地上に向けて吠える。
「ハリアー、どうした…な!?」
ハリーはハリアーの吠えた方向をみると、監視塔にさっきの男が何か筒のようなものでこちらを狙っているのが見える。
「発射!!」
優がスティンガーの引き金を引くと、誘導ミサイルが煙を上げて発射された。ミサイルが上空にいるドラゴンに向けて行く。
突然のことに、ハリーは慌ててハリアーを操りミサイルを回避する。目標にそれたミサイルは再度、目標を狙い接近して来たがハリーはそれを見逃さなかった。
「来るんじゃねえよ!ゴミィィ!」
杖をミサイルに向けた瞬間、ドラゴンが放つ火炎球よりも小さな炎の玉が現れ、ミサイルに向けて放たれた。すると急に出現した炎の熱源に牽かれ、ミサイルが突っ込んだ。それと同時にミサイルが爆発してしまう。
「くそ!!」
優は悪態をつく。
「あの野郎…一旦見逃していたらコソコソとあんな物を用意しやがって。ハリアー!あいつを先にやるぞ!」
ハリアーは吠えるとグラーチェの追跡をやめ、優のいる監視塔に向かった。その光景をイワンは気付く。
「しまった!優、ドラゴンが行ったぞ!」
イワンの警告虚しく、ドラゴンは監視塔の屋上にまた降り立つ。
グローム砦 中庭
中庭での戦闘は鎮静化しつつあった。それもそのはず、大口径の機関砲と機関銃の両者による制圧射撃、戦闘機の航空支援を前に異世界の盗賊たちに敵うわけがない。圧倒的な力で蹂躙し、攻撃させる隙さえ与えずに、盗賊を次々と無力化させた。今ではストライカー装甲車の回りには彼らの大量の死体が転がって、死臭を放っている。装甲車の銃座にいるアレックスは周囲を見回す。
「かなり片付けたわね」
アレックスが言うと装甲車の前にいたスティーブが答える。
「その様だな。でも油断は出来ん」
「ええ、まだ上がいるのよね」
アレックスの言う通り、まだ上空にはドラゴンが飛んでいる。先ほどスティンガーミサイルが発射されたようで、監視塔からまだ煙が薄く漂っていた。
「でも命中したわよね?あの爆発音」
アレックスが言い掛けたときに頭上にドラゴンが飛んでいった。
「ん?まだ生きてるだと!?」
すると二人の無線機に通信が入った。すかさず応答ボタンを押す。
「こちらアレックス」
「アレックス、こちらキメラ01」
「イワン、何かトラブル?」
イワンに無線機越しに焦った口調で言う。
「まずい事になった。ドラゴンの背中に乗っている騎手がスティンガーミサイルを撃ち落としやがった!」
「何ですって!?じゃあ今監視塔にいる優が危ないじゃない‼」
「イワン、すぐにドラゴンを戦闘機のミサイルで撃ち落とせるか?」
スティーブが提案するがイワンは駄目だと言う。
「無茶だ。優も巻き添えになってしまう」
そのはず、戦闘機に搭載されているミサイルはかなりの威力を持つ。グラーチェに搭載されているミサイルならドラゴンを倒す事は出来るものの、近くにいる優もろとも吹き飛ばしてしまう。
「いったいどうすれば良いの?今から私たちが代わりのミサイルであの化け物を倒すには間に合わない…」
アレックスはふと下を見た。
「そうだわ!」
「どうした?」
スティーブが驚く中、アレックスは突然ストライカーの下に飛び降りた。アレックスが向かった先にはまたもぐったりとしたフェルクが横になっていた。その近くにはティナが周囲を警戒しながら座ってる。
「彼、死んだの?」
アレックスが言うと、ティナが首を横に振って否定する。
「死んでないわ。錯乱したから眠らせただけ」
「そう、じゃ平気ね」
アレックスはフェルクの近くまで行くと、上着を掴み、何と勢いよくフェルクの顔を平手でひっぱたいた。突然のことにティナが驚く。
「ちょ、あなた何してんの!?」
「起こすのよ、多少の暴力なら問題ないしね。それに彼、男だし」
「…まあ、タフだしね」
ティナと話ながらでもアレックスは往復ビンタでフェルクの顔面を叩きまくった。さすがに叩きすぎるのでは?とティナは思ったが何も言わなかった。フェルクの顔が叩かれた反動で動きまくる。
「痛!!やめ、ひ!?」
「まだ起きないのね?仕方ない…ここは私の愛のパンチで-」
「やめて!起きた、起きましたよ!!!!」
アレックスが拳を固め、振り上げた所でフェルクが目を覚ました。
「やっと起きたわね?フェルク、ご機嫌はいかが?」
「……腹と顔が痛む。酷いよ、こんなに叩かなくてもよ」
フェルクはぐちぐちと文句を言った。
「しょうがないでしょ?緊急だったから。動ける?」
「う、うん…」
「そう、起きたところで悪いけど、手伝ってくれる?」
「な、何を?」
フェルク起き上がった途端に、尻尾を抱えてひどく震えていた。まるで道の端にいる子犬のようだった。アレックスはそれを気にすることなくフェルクに話を続けた。
「あなた、前に速く走れるって言ってたわよね?」
「あ、ああ。馬よりも速く走れるけど…。それが?」
「今からあの塔のーつまり屋上にこれを届けてくれる?」
アレックスはストライカーの中から緑色の太い筒を持ってきた。それはなんと無反動砲の一種であるカール・グスタフM2だった。スウェーデンの兵器メーカーが開発した対戦車兵器で、戦車すら破壊する威力を持つ強力な対戦車榴弾を発射することができる。アレックスはM2をフェルクに渡す。
「おっと…これは?」
フェルクは渡されたM2をまじまじと見た。独特な色、火薬に似た臭いもする。
「いいフェルク。それをあの塔の屋上にいる優に届けて。彼はそれの使い方を知っているから渡すだけで良いわ。お願い」
「…俺に?でも…」
「うじうじ言ってる場合じゃないわ!急がないと優が殺されてしまうのよ!?それでいいの?」
アレックスの渇にフェルクは少しの怖じけたが、暫く考えた後覚悟を決めた。
「分かった、届けるよ!」
「その意気よ!私たちは可能な限り援護するわ。さあ、行って!!」
フェルクはM2を担ぎ、急いで塔に走り出した。




