第20話 召喚制限
グローム砦 牢屋
「大丈夫なのか?ティナ?」
優が心配してティナに声を掛けた。彼女は盗賊達に奪われた軽装鎧と武器を身に付け始めた。
「平気よ、これぐらいたいした怪我じゃない。」
「そう言うがな…。」
彼女の体は酷い暴行を受けており、立っているだけでもかなりの激痛が身体に襲っているはず。念のため優は装備品の痛み止めのモルヒネを打ってあげた。異世界人の彼女にモルヒネを与えるのは不安になるが、何もしないよりマシなはずだ。
その時優とスティーブの無線機が鳴った。優は耳に着けたヘッドセットの通話ボタンを押した。外にいるアレックスからだ。
「こちら優、どうぞ。」
『私よ。優、不味い事になったわ。』
「アレックス、不味い事とは?」
『今、砦にドラゴンが着陸したわ。』
ドラゴン。
優は耳を疑った。まさかドラゴンが出てくるとは予想外だった。テレビゲームのRPGではドラゴンは大ボスに近い存在、低レベルで挑めば一瞬にパーティー全員が教会送りにされてしまうほど強大な戦闘力を持 つ。大抵は高いレベルや最強装備があれば難なく倒せる。
しかし、相手はリアル空飛ぶ化け物。優達の持つ現代兵器で倒せるか分からない。しかしなぜ砦にドラゴンが降り立ったのか分からない。もしかしたら盗賊団の航空戦力の一部なのか。
「だとしたら俺達の武器じゃ無理かもな。もっと高威力の重火器があれば対処できる。」
『そうね…相手が空を飛ぶから携帯式地対空ミサイルがあればいいんだけど。』
携帯式地対空ミサイル、通称"SAM"と呼ばれる、歩兵が一人で運用可能な対空ミサイルランチャーだ。代表的な物としてアメリカのFIM-92Bスティンガー、ロシアの9K32ストレラ2などがある。どれも一発で航空機を撃墜出来る能力を持つ。
「でもよ、ドラゴンにロックオン出来るのか? 」
スティーブが言う。
『ドラゴンが航空機並みの熱を出していれば問題ないはずよ。』
「出していればな…。」
航空機並みの熱。スティンガーミサイルはIR(赤外線)ホーミング誘導方式で、目標の熱源をミサイルが感知させて追尾する物だ。本来は航空機専用の武器であるため生物の発する熱に反応するかどうか解らない。
「やってみる価値はある。スティーブ、召喚してくれ。」
優が自信を持って言うと、スティーブは心が折れたようで。
「お前さんに言われちゃ、仕方ないな。」
スティーブはバックパックからマルチツールを取り出し、兵器召喚アイコンをタップする。ジャンルのランチャーの中からFIM-92スティンガーを選択し召喚アイコンをタップした。
「?」
「どうした?」
「あれ?おかしいな…召喚されねぇ。」
スティーブが何回も召喚アイコンを押すが何の反応すらない。優は自分のマルチツールを取り出すと同じ様にスティンガーを召喚してみた。それでも反応はない。優はマルチツールの画面をみた。
「えっと…戦闘エリアの為、武器・兵器類を召喚する事が出来ませんだと?」
マルチツールの画面には注意文が赤い文字で表示されていた。
「どう言う事だ?さっきまで召喚出来たのに。」
すると二人のマルチツールにメールが届いた。
「神の代行者からだ。」
優はメールを開くと、また華やかさのない文章が書かれていた。
皆さんへ。
説明し忘れていた事があります。皆さんの持つマルチツールは実は制限があります。
一つ
戦闘中の召喚は使用不可。
二つ
戦闘エリアから10㎞内ではマルチツールは使用不
可能。
以下の二つが制限となります。今後任務を遂行していくと制限が増える可能性も有るので悪しからず。それでは盗賊団をぶちのめしてください。
温かい目の神の代行者より。
「制限を言うの遅い…。」
「つまり武器も兵器も戦闘エリア内では出すことは出来ないんだな。」
『困った人ね、神様も。』
アレックスがため息混じりに言った。
この温かい目の神の代行者は完全に自分たちを弄んでいるのだろうかと思った。だが一つ気になる事がある。なぜ代行者は任務の内容を知っており、たびたび優達の動向を知っている。今更だか不気味に感じてしまう。
「では戦闘エリア外に出れば使用出来るのかな?」
「マルチツールのGPSマップで調べてみるか。」
「了解。」
二人はマルチツールのGPSマップを起動させた。マップにはグローム砦の周辺地図が表示されている。地図を見ると青い点が5つ発光していた。これは味方と言う意味なのか。他に赤い点が複数動いていたり、止まっていたりしていた。赤い点は敵のようだ。
「この砦周辺は完全に戦闘エリアだな。敵ばかりいやがる。」
「ちょっと待てくれ、スティーブ。装甲車の置いてある場所を見てくれ。」
ストライカーの置いてある場所を見てみると非戦闘エリアと表示されていた。
「ウ~ム、俺達がいる場所からじゃ無理だな。」
確かにそうだ。今からストライカーのある場所まで戻ってしまったら確実にドラゴンの攻撃をもろに食らってしまう。その前に盗賊団総出で優達を潰しに来るはず。
『優、私が行くわ。』
アレックスが言った。
「アレックス…頼めるか?」
アレックスが無線機越し苦笑した。
『大丈夫よ、スティンガーを召喚すればいいのよね?』
「ああ、頼む。」
『了解。任せて直ぐに持ってくるわ。それとイワンから連絡があっていつでも離陸出来るそうよ。』
「分かった。俺達は首領確保に…。」
その時牢屋の入口の方から声がした。さっきの銃声で盗賊達が調べに来たようだ。
「優!」
「アレックス、敵が来たみたいだ。後で連絡する。」
『了解。』
優は無線を切ると銃の安全装置を解除し、物陰に入ると89式改を牢屋の入口の方に向けて構えた。スティーブも同じく壁際の積み上げられた木箱の裏に隠れる。
フェルクとティナも牢屋の中に隠れて息を潜めた。入口の方から盗賊二人が入って来るのが見える。優は引き金に指を置き、いつでも発射出来るようにした。
「さっきの音は何だ?」
「なんか爆発したみたいな音だったな。」
盗賊の二人は辺りを見回し、調べ始めた。
「おい!死んでるぞ!?」
「何だって!?」
二人は仲間の死体を見つけ、驚いた。すかさず優は89式改の3点制限点射に切り替え引き金を引く。89式改の銃口から5.56mm弾が計6発吐き出されていく。
「グエ!!」
「ギャ!?」
弾丸は盗賊二人の胸や頭に命中した。それを確認すると優とスティーブが物陰から出て、銃を構えて盗賊達に近づく。スティーブがイサカの銃身で盗賊の男の死体を返す。
「ヒュー!すげぇな、全弾命中かよ。」
盗賊の男達の体に優の放った銃弾は的確に急所をい抜き、倒していた。
「特殊作戦群で徹底的に射撃を叩き込まれてね、一時期射撃大会で一位を取ったこともある。」
「さすが日本のデルタだな。」
「いや…まだまだ未熟…スティーブ!裏だ!」
優が叫んだと同時に、スティーブの裏を見ると、突然男が襲い掛かって来た。
「死ねぇー!!!」
男は大声でサーベルのような剣を切りつけてきた。だが、スティーブの体を切りつける事はなかった。何故なら男の腹部に二本のナイフが突き刺さってあるのだからだ。男は腹部を見ると一人の猫人族の女が両手にナイフを持って腹に刺していた。ティナがいつの間にか盗賊の男に近づいていたのだ。
「やあぁぁぁぁ!!」
ティナは勢いをつけて、二本のナイフを真下に向けて男の腹部を切り裂いた。大量の血がティナに掛かる。男はそのまま裏に倒れた。
「悪いな、助かった。」
スティーブが言うとティナはナイフに付いた血を振り払う。
「礼には呼ばないわ。あたしはやるだけのことをしてるだけだから。」
黒い尻尾を揺らしながら言った。その間に通路の方から次々と盗賊達が武器を持って現れた。
「よし、このまま突破するぞ!」
「了解!」




