冬の森
童話……童話のつもりです。
会話文が多いです。
ギコギコギコギコブィーン……
森に木を切る音が響いています。
「あの木はどこに行くの?」
「さあ、僕にはわからない」
「不思議だね」
「不思議だ」
ズィーンギリギリギリ、木はだんだん切られてゆきます。
「痛いのかなあ」
「そうじゃないの?」
「僕はあの木じゃないから、わかんない」
「そっか」
「でしょ?」
ハサハサハラハラと木屑が木の周りに飛び散っていきます
「さみしくなるね」
「ほかにもたくさんあるのに?」
「ずっといたしね」
「そうか」
「そうだよ」
「泣きたい?」
「それはどうだろう」
「僕わかんないや。なんだかよくわかんない」
「なにが?」
「色々」
「僕もだ」
「そう」
ギシギシギシッ
ミシッドッズサーン
周りの草木を巻き込んで木が倒れていきます
「倒れちゃった」
「倒れちゃった」
「……どこに行くんだろう」
「わかんない、わかんないや」
「さみしいね」
「泣きたいの?」
「さあね、どうだろう」
「僕、今だったら泣こうと思えば泣けるよ」
「そう」
「君はどうなの?」
「教えない」
「教えてよ」
「やだ」
「なんで?」
「秘密だから」
「けちんぼ」
「べつにいいもん」
「どこにいくんだろうね」
「……」
「なんで切られたんだろうね」
「…なんでだろうね」
「あんなにかっこいい木だったのに」
「あんなに、立派な木だったのに」
「勝手だね」
「そうかもね」
「『かも』?」
「うん、『かも』」
倒れてしまった木は運ばれていきます。鉄でできた機械でつり上げられ、動かされ、これまた鉄でできた入れ物に置かれます。
「さみしいな」
「やっぱり、泣きたい?」
「しつこいよ」
「ごめん」
「……ぼくね、知り合いから聞いたことがあるんだ」
「なにを?」
「寒い時期になるとね、人間たちは木を切ってお祝いするんだ」
「怖いね」
「うん。それで、その切られた木はギラギラ光るもので飾り付けられるんだ」
「綺麗なの?」
「あいつによるとさ、普通に森の中にあるほうが綺麗だって」
「だったらなんで切るんだろう」
「人間たちにとってはそっちのほうが綺麗なんだろ」
「ふうん」
「あの木も、飾り付けられるのかな」
「もうとっても寒いしね」
「その、ギラギラしたものって綺麗なのかな」
「お日様みたいなのかな?」
「そうかも」
「飾った木も綺麗なのかな」
「そうかもね。ぼくの知り合いとぼくらの見方は違うから」
「……怖いけど」
「かわいそうだ」
「うん」
「飾り付けられるためだけに切られるなんて」
「うん」
「でも、やっぱり気になるな」
「なにが?」
「痛がってたのかな」
「僕らはあの木じゃないから」
「そうだよね」
「でも、きっと僕が切られるんだったらとっても痛いだろうね」
「痛いのは嫌だなあ」
人がまた木を切り始めました。
「まだ切るんだ」
「また……また切るの?」
「怖い」
「……うん」
「またドッザーンって倒れるのかな」
「だろうね」
「あの木たちは飾られるのかなあ?」
「ギラギラで?」
「ギラギラで」
「多分そうでしょ」
「いい匂いだったよね。優しくてスっとする」
「もう残ってくれるのは切り株だけだね」
「あいつらがどっかいったら話してこようよ。切り株が残ってるんだから」
「そうだね。早くいってくれないかな」
「色々お話ししたいのに」
「色々聞きたいのに」
パキパキッミシシッズシーン
「また倒れちゃった」
「やめてほしい」
「本当に」
「切り株だけはまだ残ってるけど、どうせもうじき死んじゃう」
「きょうはあそこにいるよ、僕。あそこで寝る」
「僕も」
「最後にたくさんお話ししよう」
「そうしよう。とっととあいつらどっかいけばいいのにね」
「ほんとうに」
「邪魔だね」
「なんであの木なんだろう」
「目に入ったからでしょ」
「そんなものかな」
「そうさ」
また木は鉄の機械で運ばれ、鉄の箱に入っていきます
そして、また人は木を切ります。
切った後にまた運ばれ、切ったあとに運ばれ、切ったあとに運ばれ……何回繰り返されたでしょうか。終わったときにはもう夕方でした。真っ赤な色した太陽がが辺りを照らしています。
「やっと終わったね」
「長かったね」
「早くいこう」
「うん」
彼らは急いで切り株だけが残ったみんなの場所にいきました。
「大丈夫?」
「大丈夫?」
『お前たちにはどう見えるかな?』
「大丈夫じゃない」
「ごめんね。何もできなかった」
『いいよ。もう終わったことさ』
『もう夕暮れだな』
「そうだね」
「赤いね」
『ふふっ、そんなのは見てわかるわよ』
『……あたしたちは、いつ……いつ、いくんだろうねえ』
「わからないの?」
『だんだん眠くなってくるんだ』
『ちょっとずつだけれどね。ほんのちょっとずつ、ほんのちょっとずつ…』
『苦しくなくってよかったよ』
「怖い?」
『いいや。もう、あたしはだいぶ生きたから。ほかのやつらはどうかわかんないけどね』
「みんなはどうなの?」
『そりゃこわいよ。少なくとも私はね』
『でも早かれ遅かれみんないくじゃないか』
『それにあんたらの方が心配だ』
『……心配しないで、あたしたちにまかせとけ』
「……切られたとき、いたくなかったの?」
『そりゃもちろん痛いさ。心の中で、この人間が私が倒れたときと一緒に潰れればいいのになっておもったさ』
『でももうこんな切った跡しか残ってないもの。仕返しできないわ』
『おらたちがうごけりゃな…』
「……ごめんね」
「僕らは動けるのに、何もできないや」
『んなんあったりめえさ。おめえら、ちっちぇーんだもん』
『気にすんなよ。木だけにな』
「今も痛い?」
『いんや、いまは全くだ』
『大丈夫よ』
「ねえ、今日ここで寝ていい?」
「いいよね」
『おまえらがいいんだったらいいぞ」
「ありがと」
「ありがと」
『……もう多分、夏にあんたらを木陰で休ませてやれないね』
「そんなことないよ」
「そうさ」
『そうだといいわね、ありがとう』
「なんで」
『色々あるの』
「わかんない」
『まあいいわ』
「寝るの?」
「……いなくならない?」
『大丈夫、いかないから』
「本当?」
『本当」
「それじゃあおやすみなさい」
「おやすみなさい」
『うん、おやすみ』
『いい夢を』
『『『いい夢を』』』
「そっちもね」
「いい夢を」
「嘘つき」
「いなくならないっていってたのに」
「最後にみんなで話したこと、覚えてる?」
「うん」
「ぼく、質問ばかりしてた」
「うん、ぼくもだ」
「気を、使わせてばっかりだった」
「情けない」
「情けない」
『…仕方ないよ』
『そうさ』
「…またあいつらくるのかな」
『それはわからん」
「…そりゃそうだよね」
「なんにも、できなかった」
『そりゃ俺たちだって』
「僕らは動けたのに」
「歩けるのに」
「走れるのに」
「爪もあるのに」
「…かすり傷もつけなかったなあ」
「つけようともしなかったなあ」
『なあ』
「ねえ、朝焼け、綺麗だね」
『……ああ、そうだな』
「見せれたらよかったのにね」
「ね」
『大丈夫よ、向こうは満足だった』
「だといいんだけど」
『きっとそうよ』
『そうだよ』
「ごめんね、また迷惑かけた」
「ごめんなさい」
『いいの、いいのよ』
「お願いだからいなくならないで」
『うん、うん』
「いっちゃだめ」
『わかってる』
「ぜったいだめ」
『ああ』
「……ごめんね、我がままいって」
『大丈夫さ』
「登ってもいい?」
『いいよ』
『私にしておきなさい』
『俺でもいいぜ』
「ありがとう」
彼らは一番近かった木に登りはじめました
「けっこう高いんだ」
『そりゃそうさ。俺を何だと思ってんだ」
「いがいだった」
「もうちょっと低くてもよかったな
「登るのつらい」
「もうここでいいや」
「だね」
『諦めんのか』
「みんなの枝が伸びてて綺麗だね」
「だね」
「こっから見ると葉っぱがたくさん落ちてるよ」
「毛布みたい。ふかふかして見える」
『……そうか、よかった』
「なんでみんなこんなに高いの?」
『知らん。気づいたらこうなってたんだから』
「そっか」
「僕らはちっちゃいね」
「だね」
「それなのに人間はこんなに大きなものを殺せるんだね」
『怖いよな』
「やっぱり?」
『あんなギュイギュイグワグワいってるもので切られるんだぜ?そりゃ怖いに決まってら』
「……そうだよね」
「……こっから見たお日さんも、綺麗だね」
『そうか、よかった』
木の黒いかげのすきまから赤い光が差し込んでいます。枝にはまだ少し葉っぱが残っていて、空を見ると赤く染まった雲が、青と赤が混ざった空の上にふかふか浮かんでいます。
「今日は、だれか来るのかな」
「来るのが刃物を持ったやつじゃないといいんだけど」
『だな』
「もう、僕らいくよ」
『おう、気をつけておりろよ』
「分かってる」
「ありがとうね」
「ありがとう」
二人は最後に空を見てから、ほわほわした落ち葉の上におりていきました。
もう、冬です。
最後までお読みいただきありがとうございました。