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こんな夢を観た

こんな夢を観た「スーパーバイザーに会いに行く」

作者: 夢野彼方

 友人の桑田孝夫とわたしとで、互いを心理分析してみよう、ということになった。

「その前に、スーパーバイザーから指導を受けなくちゃね」わたしは言った。

「青森におれの知り合いの心理臨床家がいるぞ。その人に頼むとしようか」

 そんなわけで、わたしたちは青森へ向かった。


 レンタカー・ショップで、店員お勧めの最新車種を借りる。三菱のハイブリッド車で、ギャランドゥExcelという名前だった。

「なんだか昭和臭えネーミングだな。ほんとに三菱なのか?」桑田が疑わしそうな顔をする。

 正直、わたしもダサい名前だとは感じていた。ただ、ルックスはなかなかだ。プリウスとコルトを足して2で割ったよう、と言えば、だいたいの雰囲気がつかめるのではないだろうか。


 休憩ごとに、交代で運転をしようと話し合って決めた。最初はわたしだった。

 ところが、いざ運転席に座ってみると、このギャランドゥ、なんとマニュアル車だった。わたしの免許はAT限定なのである。

「ごめん、桑田。こいつマニュアルだった。悪いけど、行きも帰りも、ずっと運転を頼むねっ」

「まったく、しょうがねえなぁ。それにしても、今どきマニュアル車って……」


 高速道路をひたすら走って、思ったよりも早く目的地に到着した。

「ICを降りてすぐのところだ」桑田はテキパキとギアを変えながら言った。「えーと……ほら、あの林の近く。見えるだろ、水色の城みたいな建物」

 地方でよく見かける、ラブ・ホテルのようなあれがそうか。

「ユング派だって、言ってたっけ? なるほどねー、フロイトじゃ、あんな診療所は建てないだろうね」わたしは思ったことを、ありのまま口にした。

「だな」桑田も同調する。


 「水色の城」は、近くで見ると、いっそう奇抜だった。入り口付近にはパルテノンのような石柱が並んでいたが、表面に施してある彫刻は、デフォルメされた可愛らしい動物たちなのだ。キリンもいれば、ライオンもいる。亀や魚、鳥や昆虫、本来の棲み分けなど一切関係なく、無秩序に並んでいた。

「本当は心療内科なんかじゃなく、幼稚園だと言われても、きっと信じてしまいそう」とわたし。


 桑田は戸口の呼び鈴を押した。

「はい、どちら様でしょう?」神経質そうな男の声が応対する。

「あの、東京の桑田ですが、スーパーバイザーをお願いしたいのですが」

「桑田? 東京の?」インターフォンの向こうで首をかしげている様子が見てとれた。「うーん、悪いが思い出せないよ。また今度、来てくれないかな」

 えー、遠路はるばる青森までやって来たのに。


「桑田、ちゃんとアポ取ったの?」わたしはいくぶん強い口調で聞いた。

「いや、そんなのは。変だなあ、おれが子供の頃は、よくお互いに行き来をする間柄だったんだけどな」桑田も、すっかり困りきっている。

「仕方がない、帰るとしようよ。ドライブに来たと思えばいいじゃん」

「そう言ってもらえると、気が楽になる。そうだな、帰るか」

 わたしたちはクルマに戻った。


 走り出してしばらくすると、カックン、カックンと揺れ出した。初め、桑田がふざけて運転しているのかと思い、

「ねえ、やめてよ。乗り物酔いするじゃん」と文句をぶつけた。

「違うんだ、どうもエンジンの調子が悪いらしい」

 その言葉を証明するかのように、間もなくしてクルマは止まってしまい、それっきりうんともすんとも言わなくなった。 

  

「どうしよう……」わたしは途方に暮れた。

「最新のクルマが聞いて呆れる。ギャランドゥだっけ? そもそも、お前がこんなわけのわからんクルマなんて借りてくるからだぞっ」桑田もかなり、カリカリしている。 

 トランクを調べてみると、2人乗り専用の自転車があった。

 わたしと桑田は顔を見合わせる。

「これに乗るしかなさそうだね」

「ああ、仕方ねえな」


 わたしが前に乗り、桑田は後ろにまたがった。

「行くよ」わたしはペダルに足を掛ける。

「いいぞっ」

 自転車はゆっくりと進み始めた。

 もう、日が暮れるなぁ。今夜は野宿か。


 言い知れぬ敗北感が全身を包む。どうやら桑田も同じらしく、背後からはため息ばかりが聞こえてくる。

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