夜空の何処かでの巻
一方、ジェイムは馬車の荷台で満天に広がる星空を眺めていた。
「クレア……すまない……俺が油断したばかりに」
ジェイムは、ひたすらに自分を責め続けた。
この夜空の何処かで、クレアが待っていてくれてることを考えると、いたたまれない。
やがて、ジェイムを乗せた馬車は人里離れた盗賊達のアジトへと辿り着いた。
「おい、ペルシャ猫。着いたぞ。ここが俺様達のアジト、マッドマックスだ。大切な品物だ……お頭に会わせた後、飯ぐらい食わせてやる。おっと、言葉がわからないか……今だけコイツは返してやる」
ジェイムを拐った男は、猫耳バンドを返し縛り上げた縄をほどいた。
「おっと、逃げようなんて野暮な考えはやめろよな。俺たちゃ、大盗賊だ。地獄の果てまで追い掛けるからな。ついて来い」
男はそう言うと、葉巻に火を着け歩き出した。
「俺は逃げも隠れもしない」
ジェイムが男に返すと、男はニヤリと笑った。
「お前、威勢がいいな。俺様のコードネームは、弾丸。宜しくな」
「俺はジェイム。それより弾丸とは珍しい名だな」
「俺様に本当の名前はない。幼い頃、親に捨てられ身寄りのない俺様を、お頭が拾ってくれたんだ。弾丸とは、ヤンチャで無鉄砲な俺様にお頭がつけたアダ名……」
「弾丸……苦労したんだな……俺も身寄りがない。似たような境遇だな」
「ジェイム、お前もか……なんかすまなかったな。だが、これはビジネスだ。わかってくれ」
「あぁ」
弾丸は、ジェイムと同じ状況下で育ったことに、心を動かされていた。
しかしながら、ビジネスとなると話は別だ。
弾丸はお頭にジェイムを献上するべく、屋敷の中に入った。
屋敷の中は、これまで奪ったお宝の山がところ狭しと積み上げられ、足の踏み場もないくらいだ。
「弾丸さん、お疲れです」
何人かの舎弟が、弾丸を迎え入れる。
「お頭はいるか?」
「はい、先ほど食事を済ませ、今は寛いでいらっしゃいます」
弾丸は舎弟からそう話を聞くと、ホッとした態度を見せる。
お頭は空腹時には、機嫌が悪くマシンガンをぶっぱなす性質があったのだ。
「お頭、弾丸です。入ります」
弾丸は、お頭の部屋に続く扉を開けた。
「おや、弾丸遅かったわね。その子は何?」
「上等なペルシャ猫です。これなら、高値で売れますよ」
「私が言いたいのは、何故この部屋に猫を入れてるのと言ってるの!」
「す、すみません。今、出て行きます」
「もう、汚らわしい」
弾丸はジェイムを抱え、慌て部屋を飛び出し自分の部屋に駆け込んだ。
「弾丸、まさかあのオカマ野郎がお頭か?」
「しっー! ジェイム、それは禁句だぜ。間違っても、お頭の前で言うんじゃねぇぞ」
「わかったよ」
ジェイムが返事を返すと、弾丸は小さな容器にミルクを開けた。
「こんなモンしかねぇが、とりあえず飲んでくれ」
「弾丸、お前いい奴だな」
「何言ってんだ。俺様は、大盗賊マッドマックスの一員だ。冷酷、非情が合言葉だ……なんつっても、説得力ないな。まぁ、売りに出されるまで宜しくな」
ジェイムは、この弾丸という男が、どうしても悪い奴に思えなかった。




