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消え去りたい過去の巻

 ジェイムは寝付けず、一人夜風に吹かれていた。


「ふぅ……」


 ジェイムは、深い溜め息を付くと昔を思い出した。


 今でこそ孤独には慣れたが、もともと彼は一人ではなかった。

彼には、主人と呼べる存在がいたのだ。




◇◇◇◇◇◇




「ジェイム、おいで。ほら、ボールだよ。上手い上手い!」


 ジェイムは、この主人と呼べる女性と遊ぶのが好きだった。

主人は、時が経つのを忘れるほどジェイムと戯れ、誰よりも大事にしてくれていた。

 しかし、ある雨の日の朝、主人はジェイムに言った。


「ジェイム……ごめんね……今度引っ越しする街ではペットを飼えないの……許して……」


 主人は涙ながらにそう言い放つと、見知らぬ土地にジェイムを離した。

幼いジェイムはその涙の訳がわからず、降りしきる雨の中、主人を見つめた。

 やがて捨てられたことに気付き、生き抜く術を学んだ。


『誰も信じてはいけない。誰も味方はいない』


荒んだ考えが、ジェイムを染め上げていった。

 そして、人間と魔王軍との戦いが始まり、更に人間を憎むようになったのだ。

 だが、そんな荒んだジェイムを変えたのは他でもない、クレアだった。

なんとも懐かしい触れ合う心。


「クレア、ありがとう……」


 ジェイムは寝息を立てるクレアのおでこに、優しくキスをした。




◇◇◇◇◇◇





 翌朝、太陽が昇るのを待たずにクレアとジェイムは、猫耳バンドを探しに旅立った。

猫耳バンドを探す手立ては、ジェイムの優れた嗅覚のみだ。

ジェイムは、限りなく消えかかった匂いを頼りに慎重に辿る。


「ジェイム、どう? 見つかりそう?」


 クレアの問いに反応することもなく、ジェイムはひたすら匂いを辿った。


「駄目だ……ここで途切れている。どうやら、何者かに拾われたらしい」


 ジェイムがようやく口を開いた場所は、人間達が生活の基盤を築く小さな村だった。


「ここは危険すぎる……万が一、人間に見つかりでもしたら、間違いなく殺される……」


 脅しではない。

真剣な眼差しで、ジェイムはそう言った。


「じゃ、どうすれば……」


「わからない……」


 完全に手詰まった状態のまま、ジェイムは天を仰いだ。


「俺が一人で……いや、一匹で突入する」


「一人にしないでよ。あたしも行くからね」


「駄目だ……クレアを危険な目に合わすことは出来ない……クレアは生きなきゃ駄目なんだ」


「ジェイム……わかったわ。必ず戻ってきてね。絶対だからねっ!」


「あぁ……」


 クレアが同意するとジェイムは振り返りもせず、人間のいる住み処へ駆け出して行った。


「ジェイム……必ず戻ってきてね……」


 クレアは、ただただ小さくなっていくジェイムを見守ることしか出来なかった。



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