見ないでよっ! の巻
ジェイムは、クレアを押さえ付けていた化け猫に飛び掛かった。
「フギャギャ――っ!」
ジェイムの鋭い爪が化け猫の体をかっさばくと、悲鳴をあげながら逃げていった。
「クレア、すまない」
「もう、一人にしないでよねっ! それよりステーキは?」
「これだ……」
――ドサッ――
ジェイムは、口に加えていた物をクレアの前に放り投げた。
「何よ、これ」
「どぶねずみだ。美味いぞ」
「こんなもの食べられるわけないじゃない。アンタ、頭……可笑しいんじゃない?」
「なら、俺一人で食うからいいよ」
ジェイムは、そう言うとどぶねずみに食らい付いた。
「ねぇ、ジェイム……」
「何だ? ムシャムシャ……」
「何で、ジェイムには言葉が通じるのに、あの化け猫には言葉が通じなかったの?」
「言ってなかったっけ? これのお陰だ」
ジェイムは食べるのを一旦やめ、前足で器用に耳に付いているものを指差した。
「何よそれ。可愛い~」
「知らないのか? これは『猫耳バンド』と言って、人間や他の動物と話せるようになるアイテムだ」
「すご~い。私も欲しい」
「あぁ、いいぜ。確か背中にもう一個あったはずだ。ちょっと見てくれ」
ジェイムはそう言うと、クレアに背中を向けた。
――モフモフ――
――モフモフモフモフ――
――モフモフモフモフモフモフ――
「くすぐってぇよ。早くしろ」
「ないけど?」
「そんな筈は……ない……ない……何処かに落としたか」
クレアは冷たい視線を送りながら、大きな溜め息をついた。
「使えないわね~」
「探しに行くしかないな」
「え~、めんどい~。そんなことより、早く人間に戻りたいだけど……。ナップも心配だし……」
「気持ちはわかるけど、人間に戻りたいなら猫耳バンドは必須だぜ」
「もう、わかったわよ」
クレアはジェイムに説得され、猫耳バンドを探すことに同意した。
空腹のまま地下水路から這い出ると、外はすっかり夜になっていた。
街灯もなく、二人の足音だけが辺りにこだまする。
「とりあえず、夜も更けて来たことだし、俺の縄張りに案内するよ」
「う~ん……」
ジェイムの背中で、クレアは曖昧な返事をする。
「おい、どうした? 眠いのか?」
「違うの……月の明かりが眩しくて……」
クレアは短い前足で目を擦りながら答える。
その間にも、雲の切れ間に見える月の明かりは強い物になっていった。
と、次の瞬間である。
ここまで確実な歩みをしていたジェイムが、よろめき始めた。
「ク、クレア……何か、重いん……だけど……」
「失礼ね。あたし、太ってない……あれ? あれ?」
クレアは月の明かりを吸収し、眩い光を放つと人間の姿に戻っていった。
「こ、これは?」
ジェイムは、人間の姿に戻っていくクレアを見て腰を抜かしながら、更に言い添えた。
「ひ、貧乳だな……」
衣服を纏わないクレアは、ジェイムの前に全てをさらけ出していた。
「ちょっと、見ないでよ。人が気にしてることを……」
クレアはジェイム引っ張りあげ、膝蹴りを食らわした。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「わかればいいのよ。それより、何で人間に戻れたのかしら……」
「謎だな。強いて言えば月の明かりが怪しいな。ていうか、前……隠せよ」
「ジェイムっ!」
再び、ジェイムが引っ張りあげられたのは、言うまでもない。




