表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/48

モフモフしちゃうぞの巻

――困ったわ。こんなになっちゃったし、言葉は話せないし……――


 クレアは困り果て、一旦歩くのを止めた。


――ぐぅぅぅ――


――お腹も空いたわ。ん? くんくん……何かいい匂い――


 クレアはその匂いに釣られ、オイルにまみれた石畳を通り抜けた。

白い毛並みも、オイルですっかり薄汚れてしまった。

 しかし、そんなことはお構い無しに、慣れない手足で匂いの方向へと急いだ。


――何だろう、このいい匂い。お肉かなぁ――


 クレアがそんなこと思っていると、不意に何者かがつまみ上げた。


「おい、気を付けな。ここは人間共の住みかだ。逃げるぞ」


「ば、化け猫~、離してよ」


「失礼な、俺はペルシャ猫のジェイムだ。助けてやって、それはないだろう」


「アンタ、あたしの言葉がわかるの? あたし、人間よ」


「可笑しなことを言う奴だな。俺には、お前がハムスターにしか見えないけどな」


 クレアは、ハムスターにされたのを忘れ、自分が人間だと言ってしまった。

ジェイムはそれを信じるはずもなく、鼻で笑う。


「あたしを何処に連れて行く気?」


「うるさい、姉ちゃんだな。ほれ」


 ジェイムはクレアを放り投げ、背中に乗せた。


「うわ~。モフモフしてる」


「お前だって、モフモフしてんだろ?」


「お前じゃないもん。クレアだもん」


「それはそうとクレア、何でこんな危険な所にいるんだ?」


 クレアは、ありのままをジェイムに話した。


「にわかに信じがたい話だけど、信じるよ」


「何よ、せっかく話してあげたのにその態度」


「シッーっ! 人間だ。隠れるぞ」


 ジェイムはクレアを背中に乗せ、人通りの少ない路地裏まで駆け抜けた。


「ここまで来れば、安心だ。そういや、腹減ってないか?」


「うん……少し」


「じゃ、飯にしよう。とびきり美味いステーキをご馳走するぜ」


「本当に~。ジェイム、ありがとう」


「腹減ってると、やけに素直だな」


「うるさいわね~。さっさとご馳走しなさいよ」


「へいへい」


 ジェイムは再び駆け出し、オイルが流れ出る水路へと足を運んだ。


「ちょっと、ここで待ってろ」


 場所が場所だけに不安はあったが、行く宛のないクレアは、一人ジェイムの帰りを待った。


「おっそいわね。何分待たせるつもり?」


 ジェイムが姿を消して五分も経たないのに、クレアは苛立っていた。

その苛立ちが頂点に達した今、クレアから平常心というものを奪っていた。

 暗がりにポツンと光が二つ。


「ジェイム? ジェイムなの?」


 クレアはその光に向かって呼び掛けた。


「フギャー」


 しかし、その先にいた何者かは、クレアの姿を見るなり飛び掛かって来た。


「ちょ、ちょっとぉ、ジェイム~! 助けなさいよぉ」


「フギャー、フギャー」


 クレアは、その何者かに両手を押さえられてしまった。


「アンタ、何なのよ。あたしなんか食べても美味しくないわよ」


「フギャー」


 クレアが言うも、ジェイムのように言葉が通じないようだ。

見方によっては猫にも見えるが、それこそ化け猫だ。


「もう……助けてよぉ……」


 クレアは諦めにも似た言葉を発すると、抵抗するのを止めた。




――タッタッタッ――


 何処からともなく、力強い足音が聞こえてくる。


「やめろ――っ! クレアを離せ――っ!」


 足音の主はジェイムだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ