自論だが正論…だろ?
できれば偽霊媒師シリーズのはじめから読んでいただけるとよりわかりやすいかと思います。
今回は偽霊媒師な俺の先輩の続きになります。
人生とは山あり谷あり落とし穴ありな、休憩所のない過酷なマラソンコースに似ている。
予想外の出来事や、出会いにある日突然遭遇することも珍しくはない。
しかし、そういった予想外があるからこそ人はその都度何かを学び、成長して行くのだろう。
つまり、人生で起こりうるありとあらゆる想定外な出来事は全て試練なのだ。
これからの人生でよりよい選択をし、よりよい回避能力を身につけ、対応していくための生きる力を養うための試練。
俺は少なくとも、道すがら外国人に道を聞かれたり、横暴教師の理不尽な生徒いびりに合うたんびにそう自分に言い聞かせ、ありとあらゆる試練を耐え抜いてきた。
そして、今…俺はかなり難解な試練に遭遇している。
「えーっと、はい?」
「…だから…本当に、その、この間はあなたに対して失礼だったと反省したの。ごめんなさい」
ここは俺の所属する一年二組の教室を少し過ぎた廊下で、時間はホームルームも終わり、さあ帰ろうとしていた矢先のことだった。
教室を出たすぐ後に誰かに呼び止められ、振り向いた先にはこの間、いろいろと騒動があったばかりの宮井米子先輩が気まずそうにこちらを向いていた。
ひょっとしてまたなにかあったのだろうかと不安になる俺に向け、先輩はぺこりと綺麗なお辞儀をしてきた。その後にいきなり先ほどのセリフを言われては俺が試練だと思うのも納得だろう?
ちなみにこの間というのは、俺が巻き込まれた先輩の家の事情に関してなのだが、あの時の自分は振り返れば振り返るほど恥ずかしくて死にたくなってくる。
なんだろうなぁ。
賢者タイムとでも言おうか…ものすごく頑張ってエロゲーをクリアした後の達成感後の脱力感というか、盛り上がって『我が憎しみの劔をとくと味わえ!』とか1人でキャラに合わせた叫びをアフレコしてるところを弟に見られた後というか、とにかく俺の中では先輩の家でのやりとりはそのくらい、思い出したくない出来事となっている。
ひとまず先輩に顔をあげてもらい、俺はこの場におけるベストアンサーを導き出した。
「いえ。俺は全然気にしてませんよ」
よし。
完璧な模範回答だ。
後腐れなく、変に気取ってないし、包容力も見せたなかなか素晴らしい返しじゃないだろうか。
俺的には実際、本当にそれほど気にしていなかったし、むしろ問題があったにしても、先輩の弟に無体を働いたことに関しては申し訳なかったと謝りたいくらいだった。
諭すにしてもアレは熱過ぎだと自分でも思う。
もう後藤にお前は修造かと罵れないなぁと内心思いながら、頭をかく。
しかし、俺のベストアンサーに対し、先輩はまだ納得していない顔で首を降った。
「それでは私の気がすまないわ。弟があなたたちに迷惑をかけたこともあるし、きちんとお詫びとお礼をさせてもらいたいの」
先輩は本当にすまなそうにもう一度頭を下げた。
どうやら、先輩は俺が思っていたよりもずっと優しい部類の人間らしい。
てっきりあのSな性格から我が道をゆく!と他人にお構いなく突っ切るような人だと思っていた。
不器用にぎこちなく謝る先輩が前より近くに感じて少し胸がぽやっとする。
「いやぁ、本当にいいのに…俺や後藤なんて全然使いっ走りにさせて構いませんよ」
軽く笑ってそう言うと背筋にぞわっと寒気が走り、慌てて背後を確認する。生徒が何人か廊下を歩いて帰っている姿があるだけで、悪寒の原因は発見できなかった。
「……?どうしたの?」
首を傾げる先輩になんでもないですと返すもなんだか誰かに見られているような鋭い視線が肌にチクチクと刺さるようで嫌な気分を味わった。
誰だ?
なんだって視線は感じるのに、気配はないんだ?
あたりを見渡してもやはり視線の主は見つからなかった。
周りを警戒する俺に先輩が少し戸惑いながら声をかけた。
「そ、それで…私言ったじゃない?終わったら、なんでも言うことを聞くって」
俺はとりあえず警戒したまま先輩の話を思い出していた。
「そういえば言ってましたね。あー、でも依頼成功とは言えませんし…」
苦笑いでそう言うと、先輩はきょとんとした顔でこちらを見た。
「え?成功じゃない。怪奇現象の原因を突き止めてくれたし、弟の本音も聞き出せた。
全部あなたのおかげよ。山手くん。
私だけだったらきっと、ずっと弟の気持ちがわからないままだったと思う。内海があんな風に思っていたなんて私、少しも気がつかなかったもの。
ダメな姉よね…一緒に暮らしててそんなこともわからないなんて」
俺はなにか言うべきだと口ごもったが、先輩は特に意見は求めていなかったのか、苦笑いして続けた。
「だから、気づかせてもらったあなたには本当に感謝してる。ありがとう。
あなたの説教で内海も少し、変われた気がするの。
まだ少し距離を感じるけど、前より明るくなったと思う。吹っ切れたような顔をしてるもの。
本当に悪いものを払ってもらった気分よ」
「いえ、俺は別になにも…」
完璧人間な美人に褒められては顔が緩むのも仕方がない。
俺はにやけるほおを抑えて先輩の誉め殺しを無難に流した。といってもそれほど余裕があったわけでもない。
うお…やべ。顔熱い。
ぶっちゃけ褒められ慣れていない俺は赤面するのをなんとか堪えながらもういいですからと先輩を止めた。
先輩は少し不服そうだったが、なんとかやめてくれた。
ふう。
ヤバイヤバイ。
これ以上褒められ続いたら先輩のことを好きになってしまい卒業と同時に勇気を振り絞って告白してフラれてしまい、しょっぱい失恋を味わうところだった。ちなみにフラれるところまでがデフォルトだ。
今まで一体何人の男たちが俺が今渡りかけた橋を渡っては、蹴落とされてきたのだろう。
先輩は不器用なだけで優しい人みたいだから気をつけなければ俺も彼らが渡ってしまったデットエンド橋に足をかけかねない。
気持ちを落ち着かせるため一息つく。
再び自論だが、人生はいつだって痛みを伴う。それは精神的にだったり、身体的にだったりと様々だが、普通なら痛みというものは味わいたくはないものである。
自分に甘い奴ほど逃げることで自分を守ることに全力を注いでいるものだ。
俺がまさにそうだ。
世間は世知辛く、そういう人間に対して『ヘタレ』という不名誉極まりない名称をあてるが、少し考えてみて欲しい。
よく傷つくことが怖いから逃げていると非難されるが、実際はそうではない。
俺のような非モテ人間は、傷つくことが怖いからではなく、確実に傷つくから逃げるのだ。
逆に問おう。
確実に痛い思いをするとわかっていて、がむしゃらに突き進めるか?
無理だろう。
ようするに、こういう逃げの姿勢をとる行為をヘタレと罵るのではなく、むしろ賞賛すべしと思うわけだ。
逃げの姿勢というのではなく戦略的撤退と呼んで欲しい。
先輩への不毛な恋慕に身を焦がし、廃人への道を進むよりか友好的関係への発展の方がより人生を謳歌できると踏んだ俺は即座に気持ちを切り替えた。
そういえば俺のこうゆう思考回路を友人の後藤は変だと言っていた。
山手は惚れっぽい。可愛けりゃだれでもいいのか、と。
ふむ。
俺なりに自分を分析してみたが、その答えは未だに出ない。
可愛い子を可愛くて好きだと思うのは男に生まれたなら当然の感情だろうし、なるべくハズレくじはひきたくはないものだ。
たぶん、俺はまだ本気で誰かを好きになったことがないのだろう。
諦められないほどの恋愛感情をまだ知らないのだろう。
「えぇっと、それで先輩はわざわざそれを言いに俺に会いにきてくれたんですか?」
思考が泥沼にはまっていくのを感じ取り、俺は無理やり考えることを放棄して先輩に問いかけた。
先輩は少し自信なさげに下を向いた。
「だから、その…約束を果たしにきたのよ。私にできる範囲でなら、えっと、な、なんでもするから…」
少し恥ずかしいのか顔を赤らめる先輩の破壊力は相当のものだったが、すでに気持ちを切り替えていた俺は邪な感情を持つことなく、先輩の言葉を受け取った。
「うーん…といわれましても、今欲しいものもないですし…うーん、なにも思いつきません…」
なんでもいいですよ、と答えると先輩はムッとした顔になった。
「それが一番困るわ」
「そう言われましても…あ、なんかお菓子詰め合わせとかでいいですよ。俺、甘いもの結構好きですし」
「…………」
「せ、先輩?」
先輩が押し黙ったままこちらを見つめるだけなので俺はどうしたらいいのかわからず固まってしまった。
なんだろう。なにかマズイことでも言っただろうか。
「あー…えっと、なんなら別になにもしなくてーーー」
「それは嫌」
「は、はぁ…」
な、なんなんだ一体。
なぜお礼をされる側の俺が気を使ってるんだ…
ふと、周りのざわめきの中に俺の名を呼ぶ声が聞こえ耳を傾ける。
押し黙ったままの先輩になにか言うべきか、でもなにを言えば…と頭を悩ませていた俺の元に救いの手が差し伸べられ、俺はかなりホッとした。
まぁ、普段は疫病神だけどな。
一言付けたしてから俺は声のした方を向いた。
「よう!山手!良かった、まだ帰ってなかったんだ!あ、先輩、探しましたよ」
にこやかに笑いながら爽やかな登場をしたのは、最近の俺の不幸の種、諸悪の権化の後藤その人だった。




