湯けむり旅慕情 舞台と役者篇
電車に揺られること暫し。一行は長野原草津口に到着した。ここからはバスで目的地を目指すことになる。
「あぁ……長かった。腰が痛いよ」
年相応な足名稚。軟らかすぎる座席というのも考えものだ。
地元にあまり鉄道が走っていないホミカからすれば電車でここまで遠出するのはかなり貴重な経験だ。その余裕からか顔色の悪い青野を気遣う優しさも見せる。
「青野さん、さっきから大人しいけどどうしたんですか?」
「酔った……うっぷ」
見かねた足名稚に連れられて青野はトイレへ。
晴れ晴れとした青野がトイレから戻ってくるのとほぼ同時にお目当てのバスがやって来た。
バスといっても観光バスのような規模の大きいものではなく幼稚園の送迎バスに近い。つまりしょぼい。
「さあ乗るよ」
乗り込む一行。
どうやら客は前田荘の七人だけ。貸し切りだ。
「こっちこっち。ガールズトークするぞ」
ホミカは補助席に座ろうとしたのだが、それより先にハカナに捕まってしまった。松風とマーも交えて女子力の向上に努めようということらしい。
斎籐はというと足名稚と青野の三人で腰かけてそちらはそちらで何か話している。このような場合は男女で別れたほうがスムーズなのだろう。
「さあホミカ。教えてもらおうか。最近の東凰生にはどんな女子が人気なんだ?」
「ハカナさン、そノ歳で女子を自称すルのは苦シむぐ」
強烈なラリアットでマーはダウン。
動き出したバスの中でさっそくハカナが最近の男子の動向を訊ねる。あの後も数多くの合コンに参加していたらしいのだが全敗だったようだ。
「ハカナちゃんは大学生の彼氏がほしいの?」
年上好きの松風からすると理解不能らしい。
「いや、もう誰でもいいんだ。下は高校生、上は会社の課長くらいまでだけどな」
「どんだけ生き急いでるんですか!」
ホミカもつっこまざるをえない。
車道をサルが横切ったがトークに夢中のホミカたちは気がつく由もない。
「いや別におかしなことじゃない。ただ私は互いを想い合える相手がほしいだけなんだ」
「ハカナさん……」
これはいいことを言ったムード。人間は一人では生きていけない。支え合える存在が必要なのだ。よってハカナはただの男好きではない、ホミカはそう理解した。
既に対向車線に車が見られなくなっていた。行き先は相当な僻地とみて間違いない。
「そんなこと言ってても彼氏がこのままできないんじゃあ……」
松風はなぜか不安を煽るようなことを言う。
「心配するな。その気になれば中学生もオッケーだ」
「さっさと捕まってしまえ!」
いいムード帳消し。ツッコミという名のラリアットがホミカによって放たれた。
マーは旅行先でもやっていることが普段と変わらないのではないかと主張しようとしたが、諦めて酢こんぶを咀嚼する作業に専念することにした。
バスはさらに通りのない方面へと走っていく。




