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前田荘777号室  作者: 吉岡 澪
前田荘に忍び寄る影
84/100

湯けむり旅慕情 発端篇

 温泉。この言葉に心が踊らない日本人はいない。もしいたとしても気にしない。


 自宅とは違う広い風呂にこんこんと湧き出る湯。湯けむりにつつまれてどこかノスタルジック。本当に素晴らしい。


 そしてそれは北関東の某所、前田荘においても同じ。

「今度の三連休どっか行こうか」

 朝食後の斎藤の一言に居間にいた全員が反応した。


「グアム! グアムにしまシょう!」

 やたらとグアムを推すマー。行きたい気持ちは分かるがパスポートは持っているのだろうか。


「いや、グアムもいいんだけどね。二泊だから国内がいいかな」


「それならハワ」

 青野が何か言おうとしたようだがハカナの裏拳によって阻止された。哀れである。


「ホミカちゃんはどこ行きたい?」


 話をふられそうですね、と考えるホミカ。すぐに頭の中の地図にダーツが刺さった。

「関東に出てきたので草津に行きたいです」

「おお草津か! 俺もまだ行ったことないなぁ」

 喜ぶ足名稚。中年の鑑だ。


「温泉か……新しい出会いがあるかもしれないな」

 喜ぶハカナ。まだ見ぬ男性を想像している。鑑でもなんでもない。



 草津といえば群馬県が誇る全国的に有名な温泉地。昔流行った温泉の歌にも登場するくらいメジャーな存在といえる。温泉がボッコボッコと湧き、その効能から湯治の要所としても知られている。


「他に行きたいところある人?」

 一応松風らにも意見を問う。


「私はほみほみの案がいいです」

 松風はホミカの意見にのるようだ。


 たしかに草津なら前田荘からそう遠くない。電車にしろ車にしろストレスを感じることはないだろう。


「じゃあ決まりだ。宿は私がとっておくからみんな用意をよろしく」

「はーい!」

 全員揃っていい返事。小学生かとツッコミたくなる。


「たしか湯畑のほうに美味しい饅頭屋さんがあったよな」

「温泉饅頭! たまラない響キじゃないでスか」

「群馬方言の彼氏ってのも悪くないな!」


 旅行の計画で盛り上がる前田荘の面々。

 しかし彼らは知る由もなかった。この旅行でまさかあんなことが起ころうとは……

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