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前田荘777号室  作者: 吉岡 澪
前田荘に忍び寄る影
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リ・ターン

「ただいま戻りました」

 ホミカと松風が帰ってきた。


「お帰り。どうだったんだ?」

 煎餅を前にハカナと牽制し合いながら尋ねる青野。年齢差を考えてはいけない。


「なんともないそうです。診察前に帰されちゃいましたよ」

 一介の大学生にとって医療関係の支出はあまりにも痛い。逆に考えればよかったのかもしれない。


 痺れを切らしたハカナが見事な速業で煎餅を勝ち取った。崩れ落ちる青野。


「そうかそうか。なんともないならそれに越したことはない」

 足名稚は青野の態度に白々しいものを感じたが、あえて何も言わなかった。


 ホミカに茶を持ってくる斎藤。

「講義が午後ならゆっくりできるじゃないか」

「はい。ここのところ立て込んでいたので助かります」


 食後の一服。麗しのの時間だ。

 つかの間のインターバルだがそれを享受できない者もいる。


「そんじゃいってきます」

 ホミカの無事を確認して、足名稚はいそいそと出掛けていった。働く大人は忙しいものだ。


 バイト休みの松風と大家の斎藤は仕方ないにしても前田荘にはニート気味の者が多い気がするのは錯覚だろうか……。


 暇をもて余したマーがホミカに絡む。

「ホミカさンホミカさん。講義ガ午後からならソれまで私とツインファミコソでもしまセんか」

「今どき電気街でもなきゃ見かけないですって」


 諦めないマー。粘りが彼女の武器だ。

「ソれが嫌なラびゅう太でもいイですヨ」

「お母さんがファミコソと間違って買ってきちゃうやつでしょ」


 粘りというより単なるしつこい人。

「ジゃあゲームクロックデスコア合戦ヲ」

「なんでチョイスがことごとく昭和なんですか!」


 きちんとつっこむあたりホミカはもう大丈夫なようだ。


 二人のやりとりを眺め、満足げに頷くハカナ。


 ホミカたちに聞こえないようにひそひそと話しかける青野。

「どうした。昔を思い出してるのか?」

 煎餅の仇とばかりに彼女を押し退けようとする。張り手でねじ伏せられるお約束も忘れない。


「まあそうだな。青野も分かるだろ」

「青野さん、な」

 ここぞとばかりに年長者のしょぼくれた威厳をみせる。スルーのハカナ。


「青野。せっかくだし私たちも交ざろうか」

 青野の腕をひっつかんでホミカとマーのところへ行く。


「私たちも参戦するぞ! バトルフォームやろう!」

「超インタラスティング!?」


 ホミカの午前中がどこか懐かしい球転がしに費やされたのは言うまでもない。

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