敵と書いてエネミーと読む 前田荘裏話
「あー楽しかった。またいつか試合しようぜ!」
ある程度予想できたことではあるが、三木の強さはあまりにも圧倒的だった。
破滅的大差から試合をひっくり返し逆転勝利をもぎ取ったのだ。
「勝者、三木孝介!」
本城の高らかなコールとともに前田荘の勝利が決まった。
「うおおおお! 勝ったああああ!」
万歳で迎えられる三木。何もしていない足名稚と松風が一番はしゃいでいるのはなぜだろう。
「三木ならやってくれると信じてたぞ!」
タオルを渡そうとしたホミカを押し退け、ハカナが三木の手を握る。
「見事な勝利だ。どうだろう、今夜は祝いもかねて私の部屋に」
「行かねーよ!」
前田荘サイドで茶番が繰り広げられているなか、隅で桐山荘の面々は帰り支度をしていた。
そこへ歩み寄る斎藤。
「いい勝負だったよ。一歩間違えていれば負けていたのはこっちだ」
「くっ。秀……今回は運がよかったね。次はこうはいかないよ」
桐山をはじめとしたチーム桐山荘は典型的な悪役のセリフとともにそそくさと帰っていった。
その夜、ついに全員揃った前田荘では斎藤が勝利を記念してすき焼きを振る舞った。T県では祝い事があるととにかくすき焼きという決まりがある。
すき焼きを皆で平らげ、一服の一時。ホミカと斎藤だけが居間に残った。
この機会を逃すホミカではない。
「斎藤さん」
「なんだい?」
これは私の想像なんですけどと前置き。
「もしかしてこの試合、最初からこうなることを分かってたんじゃないですか? 相手が色々と作戦を講じてくることまで」
彼女は逆転勝利は仕組まれていたのではと疑っている。
「どうしてそう思うんだい?」
「大将戦での三木さん登場といい、なんだかこの勝負は出来すぎてたんです。相手の手を読んださらに上をいくことができるのって前田荘では斎藤さんだけですよ」
一瞬驚いたようだが、斎藤はニヤリと笑う。
「ほほう。ホミカちゃんには隠し事ができないな。その通りさ」
斎藤は淡々と語る。
「桐山荘の入居者を調べれば相手がどんな勝負でどんなオーダーを組んでくるか分かる。また、桐山さんが美大出身と知っていれば彼女が絵画対決に登場することも予想できる。私が自ら出ることで相手に作戦通りいっていると思わせることもできるしね」
ホミカは言葉も出ない。
「二回戦もそうだ。桐山荘にはクイズ番組『丸Q』でチャンピオンを防衛し続けているクイズ王がいる。この試合ばかりは仕方ない」
「三回戦はどうなんです?」
「あれは事前に青野さんと打ち合わせしていた。桐山荘の近くには養鶏場があってウコッケイがたくさん飼育されている。おそらくその卵が食材に選ばれるだろうと践んでいたんだ」
ここまでくると軽く恐怖すら感じる。
「じゃ、じゃあ四回戦は?」
「ここまで私の作戦を話してきたが相手も色々と考えていたんだ。腕相撲といった力で決まる勝負ならまずハカナさんが出てくる。相手もそれを読んであんな手を使ってきた。ハカナさんのG嫌いはもう仕方がないレベル。だから彼女には気の毒だけどああなった」
確かにハカナを倒すにはそれしかないだろう。
「それともうひとつ、ホミカちゃんの試合。相手がアリテレ選手を出してくるのはわかっていたから一番楽だった」
「三木さんを呼んだのは?」
「対決が決まった晩に電話したんだ。さっき言ったようにどんな試合がどんな順番で行われるか分かっていたからね」
三木登場のタイミングすらシナリオ通りだったというのだ。
また笑顔に戻る斎藤。
「質問は以上かな?」
「はい。おやすみなさい……」
狐につままれたような気分で部屋に戻ったホミカ。斎藤に説明を受け納得したような気になっていたがどうも腑に落ちない。彼の話はあまりにも想像に頼りすぎている。
そもそも斎藤という人物はどこか怪しい。彼のすることや考えることはあまりにもうまくいきすぎている。天才だからの一言では片付かないレベルだ。
桐山荘を見事退けた前田荘。しかし、これをきっかけにホミカは斎藤に対して疑惑を抱くようになった。




