ハカナの黄金伝説~with剣 その頃の巻
ところかわって、前田荘。こちらもちょうど夕食を終えたところだ。どうやらお楽しみがあるらしい。
「今日は、デザートにパンナコッタを作ってみたんだ。よかったら食べてな」
斎藤の言葉に一同は歓喜する。デビルコックのハカナがいないため、食卓の未来は当分明るいのだ。青野に至ってはライスを三杯おかわりしたくらい。
「デザートか。よっ、待ってました!」
足名稚が感嘆の声をあげる。アルコールが入っているせいか赤ら顔だ。
現れたパンナコッタはまさにプロの味。とろけるような味わいだ。
「美味シい! こレは本場のパティシエも一糸纏ワぬ感じデ逃げ出しマすよ」
「服は着ていてほしいけどね」
マーにすかさずツッコむ松風。ホミカもいないため、ツッコミ担当の穴を補う必要があるのだ。
「マーさんの言うとおり。大家さんすごいですね」
ちゃっかり夕飯の席に紛れ込んでいる店主。いつの間にか人数が増えていても気にしないのが前田荘だ。
「もっと食べたい人は冷蔵庫の中に残りが入ってるからね」
パーフェクトな大家、斎藤。抜かりがない。
デザートも終え、松風とマーは風呂。青野は部屋で論文を書き、足名稚は原稿の整理。居間には斎藤と店主だけになった。
「そういえば、ハカナさんと剣さんは今日はどちらへ?」
「二人は太平洋沖の無人島へキャンプに行ったんだ。ハカナさんがホミカちゃんを無理矢理連れ出したんだけどな」
「そうですか。どのあたりなんです?」
斎藤はチラシの裏に海図を描いて説明してやる。海軍出身なのではと疑うほど上手い。
「ここ。矢形島というらしい」
「こんな辺境……大丈夫でしょうか……?」
冷や汗を垂らす店主。その反応が普通だ。
「大丈夫さ。ハカナさんはロビンソンよりずっと優秀なサバイバーだ。何があってもモーマンタイさね」
なぜか、斎藤はハカナに全幅の信頼を寄せているらしい。ゴキブリ事件を解決した功績はそれほどまでに大きいのだろうか。
「いやいや、私が心配なのは剣さんです。あの方はごく普通の大学生じゃないですか」
「大丈夫だ。実はハカナさん、矢形島には縁があってな。島で迷うことはまずない。よってホミカちゃんも大丈夫」
店主はほっとした表情を見せた。
ただ、斎藤も店主もあえて口にしなかったことがある。言うまでもないが、料理……




