ハカナの黄金伝説~with剣 歳月と鬼スミスの巻
周りを見渡せば海、海、そしてカモメ。
本当に来てしまった。人の住んでいる気配が全く感じられないほんまもんの無人島だ。
中央にほどほどの高さの山、細く流れる川に森。年末の特番のロケでも使われていそうだ。
「嘘でしょ……」
いくら瀬戸内の出身といえど、こんな場所は初めて。リュック一つで来てしまったことをホミカは後悔した。もちろんもう遅い。
「いやー、ハカナくん。この島を紹介してくれてサンキューねぃ!」
スミスはずっとこのノリでいくらしい。
グロッキー状態のホミカにはハカナとスミスの会話もよく分からない。
しかし、この島を推薦したのはハカナらしい。
そして、スミスが全員を集めてオリエンテーション。日本語がとてもうまい。
「ここからは自由行動。好きな場所でキャンプを設営してねぃ。明後日の正午、ここに集合! まぁ、その前に戻ってくる人も多いかと思うけども」
なんとも分かりやすい説明である。
やがて、参加者たちは思い思いの方向へ散って行った。
「よっし、私たちも行くか」
「三日間、三日間耐えるんだ私……」
ここまでくるとホミカも気の毒だ。スミスの発言について深く考える余裕もない。
歩きながら尋ねる。
「それで、ハカナさんはどうしてこの島のことを知ってるんです? 無人島なのに勝手にキャンプしていいんですか?」
「あぁ、それなら大丈夫。権利関係の問題はない」
ハカナはさりげなく前者への回答を避けた。何か真意があるのだろうか。
「とにかく場所を見つけて居住スペースを用意しよう」
移動はさほど苦ではなかった。
土地勘のあるハカナのおかげで森を抜けた先にある、おあつらえむきの場所を見つけることができたのだ。
「ここなら川も近いし、見晴らしもいい。なかなかだな」
「そうですね」
ホミカとしては帰りたい一心だが、ここまできたら仕方ない。
「あとは、早くスミス教官に見つけてもらわないとな。今年もビシバシ鍛えてもらわないと」
「え?」
やっと。やっと気づいたホミカ。
「ちょっと待ってください。ただの無人島キャンプではないんですか?」
「敵が上陸してきたという設定のちゃんとした演習だ」
「それはつまり分かりやすく言うと?」
「ズバリスミス教官との鬼ごっこだ。教官にタッチされたらアウト。捕まると軍隊式トレーニングを体験させてくれる」
化け物じみたハカナは毎年そのトレーニングを体験するためにわざとスミスに捕まっているらしい。
「とにかく、もっと分かりにくいところに移動しま」
「うわああああ!」
ホミカが言い終わる前に遠くからかすかに聞こえる悲鳴。参加者の誰かのようだ。
「さっそく脱落者が出たか……今年も楽しめそうだ」
ハカナの前田荘では見せない表情にびびるホミカ。無事に帰れるだろうか。




