人付き合いの一歩
とにかく挨拶は大事だ。
「こんにちは。引っ越してきました剣ホミカと申します。本日よりお世話になります」
礼儀正しいがやはり能面なホミカ。
老人は笑顔で答える。好好爺とはまさに彼のことだ。
「大家の斎藤です。まぁ、そう硬くならなくたっていいよ」
そう言われても硬いのがホミカ。自分の道を突き進むタイプの典型である。
「これ、地元名物のうどんです。よかったら皆さんで食べてください」
かといって人見知りをするわけでもないようで、物怖じすることもなく親に持たされたお土産を斎藤にまとめて渡した。
「ありがとう。私もうどんは大好きなんだ」
斎藤がうどん愛を語る前にホミカは次を見据えていた。
「私はどこの部屋ですか?」
「あぁ、777号室だよ。陽当たりは良好なはずだ」
「そうですか。では、荷物を置いてきますね」
斎藤は777と書かれた鍵をホミカに渡した。
「そうそう、荷物を置いたらまたここに来てな。みんなに挨拶に行こう」
ありがたい申し出ではあるがホミカからすれば多少お節介ともとれなくはなかった。
「1人で行きますので大丈夫ですよ?」
困った顔で頭をかく斎藤。
「いや、私が行かないとちょっと変わった人ばかりだから大変かもよ?」
「……分かりました」
ホミカは部屋を出て、3階の777号室を目指した。