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いざ前田
4月某日。ついにホミカの前田荘入居の日がやってきた。
北関東の空は晴れ渡り、彼女の新生活を温かく迎えているかのようだ。
空港でよく見るトランクをゴロゴロしつつ、店主から言われた住所を目指す。大学までは電車とバスで40分。講義の始まりの遅さを考えると万々歳だ。高校時代より、よっぽど楽ちんなのが田舎育ちのホミカにとって嬉しい。
面倒なあれやこれやは全て店主がやっておいてくれたとのこと。意外にサービスは良かったのかなとホミカは菊地不動産を見直した。当日は丸投げではあるが。
前田荘とはどんな所なのか。ホミカは今にも崩れそうなボロアパートを何となく想像した。多分大家は脱サラしたおやっさんだろう。どうせ家賃目当て。もっと洒落た所に移れるようになったら、引っ越せばいい。この時ホミカはそう考えていた。
「もうすぐね……」
小さく呟き、あと少しの道のりを歩む。目の前のなだらかな坂を越えれば前田荘はすぐそこにある。果たしてその実態は。