鳴くまで待とう
444号室。折り返し地点である。斎藤がチャイムを鳴らす。
オープン・ザ・セサミ。
40代くらいの男性がせかせかと現れる。きっちりとした背広を着て、右手にカップ麺の『トン吉』を持っている。なんだか慌ただしい。
「あ、せ、いや大家さん!ん?じゃあこの人が前に言ってた剣さん?」
「そうだよ。説明の手間が省けたなぁ」
男性はホミカに笑いかけ、二人は握手した。
「足名稚です。よろしく」
あしなづちとは珍しい名字だ。
「剣です。よろしくお願いいたします」
やはり、律儀なホミカ。斎藤は彼女のカチカチは暫く続くだろうなと確信した。
足名稚はしばらく早口で喋っていたが.その後の立ち話で足名稚が雑誌の編集者をしていることを知った。
「ところで君は漫画は好きかい?」
唐突に聞かれた。
「はい、特に東洲斎先生の漫画が。『シダースの冒険』、『トンマのトン吉くん』、『バードマンとりひこ』全部読んでます!」
ちなみに東洲斎とは週間・月刊でいくつもの連載を持っている超人気漫画家である。
すると足名稚はニヤリと笑った。
「そうかそうか。東洲斎さんか。俺は会ったことがあるな」
なんと、このおっさんは編集の仕事の都合でホミカの憧れである東洲斎に会うことがあるらしい。画像検索でも本人の顔は公開されていない。
世の中何があるかわからないものだ。
完全に蚊帳の外になってしまった斎藤に構わず、ホミカと足名稚は漫画について語り合った。




