同族 vol.2
「はあ? どうせ、自分が告る勇気がねぇだけだろ?」
そんな自分の気持ちが恥ずかしくて、それを誤魔化したくて、悪態。罵倒を浴びせてしまう。咄嗟に出た、その心無いセリフはきっと、自分自身に問いかける言葉。
「……そうかも知れません。けど、告白しないって結論はどっちにしても同じでしょ。だったらいいじゃない」
意外。あっさりと答えた海野に拍子抜けしたが、不協和音が生じないで良かった。どうやら、気にしていないみたいだな。
「そっちこそ、工藤さんとはどうなってるんですか?」
「んげぇ!」
思わぬ海野の反撃に面食らう。
「な、なんで?」
それを知ってんだ。
俺が工藤を好きってことは誰も知らない筈。とゆうか、知る術がない。なぜならなあ、俺には相談できる友達がいないからだよおおお!!
俺以外に知っているとすれば、姉貴ぐらいだ。
どこから嗅ぎ付けて来たのか、お前、好きな奴いんだろ? と十八番である関節技を駆使し、俺に拷問をかけ、無理やり吐かせた。
それなのに、一体どうして?
「別に知りたくもなかったんですけど、傍から見ればバレバレですよ。宮崎さんの絵を描くときほとんど片桐さんが近くにいるので、しょうがなく毎回描いてしまうんですけど、あなた、工藤さんの方ばっかり見てますから」
「うぐわああああああ」
片桐は砂浜に膝をつき、髪をくしゃくしゃにする。
は、はずかしいいいいい。しかも、よりによってこいつに知られたあああ。このネタで脅されて、俺はおそらく一生奴隷。どんなことをされるか解らない。
よろめきながらも、何とか立ち上がる。
「ふっ、言っておくが俺はお前に一方的に脅されたりなんてしねぇ! 地べたを這いづって、ワン! だとかいうかと思ったか? お前が好きな奴だって、俺は知ってんだからな!」
「いったい何を想像したら、そんな突飛な話が出てくるんですか。ただ私は、あなたのことを心配しているだけですよ」
海野の顔から火が出るぐらい、恥ずかしがっている。
なんでだろう。そんなに図星をつかれたのが、堪えたのだろうか。
制服のスカートを手で掴みながら、海野は落ち着きなさ気にもじもじしている。
「海野、お前……」
「いや、そういう意味で言った意味じゃないですよ。ただ、単純に――」
「頭大丈夫か?」
「大丈夫です! すこぶる正常です。あなたって人はいつも失礼なことしか言いませんね! 私は見知らぬ人間を心配するほど人間できていませんけど、ここ最近一番話しているのは、あなたなんです。私だって、少しは心配だってします」
憂いを帯びたその顔は、真っ直ぐ俺に向けられていた。それを直視できる程、俺は綺麗な心の持ち主じゃない。
「……友達いないのか。可哀そうだな、お前」
「あなたに言われたくないです! あなただって宮崎さんと、工藤さんしかいないでしょ!」
それから臍を曲げた海野は、俺が話し掛けても一切無言になった。
すまん、悪かったと五分間くらい拝み倒したら、海野に、そこに立ってとか、もうちょっと口角を上げて! と、意味不明の指令を受けた。
そして、少しだけ中身のない談笑をして、途中の帰路で別れた。
一度もお互いの家に行ったことはないが、詮索する程のことでもないだろう。
そんな言い訳じみたことを一人ぐだぐだ考えていた。




