ライスギャング
もう俺はだめかもしれない。
今までに、こんなことは何度でもあった。
その度に俺は機転、時には気合いで強引に乗り越えてきた。でも、今回ばかりはそれも無理そうだ
今、俺の目の前には水の渦巻く白い淵が見える。そして俺は、その前に這いつくばってる。言わば、俺は崖の真ん前に立たされているのだ。
「はあ、はあ、ちくしょう。」
俺は情けない声を上げる。頭がクラクラする。
一歩も動けない。小便が出そうだ。
くそ、くそ、くそ!何で俺はいつもこうなんだ。
今回は少し深入りしすぎたようだ。反省はしてる。後悔も。 そもそも、俺はいいところで手を引くべきなんだ。わかってる。頭じゃわかってるんだ。でも、この取引はやめられない。奴らは、金と引き換えに快楽をくれる。全てを忘れさせてくれる快楽を。
しかし、それに溺れるとどうしようも無くなる。何も打つ手が無くなる。だから、今の俺はここにこうして這いつくばらせられている。
後ろで笑い声が聞こえる。アイツだ。 俺のパートナー。仕事仲間の男。
アイツはヘマを踏まない。踏むことも無いだろう。滅法タフな奴なんだ。
俺が取引をするのは、大体コイツに声をかけられた時だけ。なのに、俺だけいつもこんな目を受ける。ひどい話だ。俺が何をした?一体俺とお前の何が違う?
…こんなこと考えても無駄だ。アイツと俺の立場は決定的に違う。俺は床に這いつくばり、アイツはそれを見下ろしてバカ笑いをしている。アイツも相当キてるのはわかる。でも、こんな時くらいは助けてくれ!くそ、頭が痛い!
頼む!このままじゃ殺されちまう!
奴らは、悪意を持って俺の体を蝕んでるんだ!
いつもとは違うんだ!今度こそ、俺は死んじまう!
それでも、アイツは動かない。アイツもわかってるんだ。こればっかりはどうしようも無いことを。
「うー、ちくしょう。」
俺は力を振り絞って仰向けに転がる。
天井が見える。ライトも。
白い淵も。
もうだめだ。
意識が保てない。
「う…。」
俺は声にならないうめき声をあげた。薄れゆく意識の中でアイツの笑い声が聞こえた。
なんでだろう?なんで俺は、いつもこうなんだろうな?わからない。もうわからない…。
「ぎゃはは!まさか便器の中に頭突っ込むとは思わなかった!たく、お前ホントに酒癖悪ぃな。特に日本酒と相性悪すぎ。ま、見てるこっちはおもしろいけど。おおい、ちゃんと自分の足で歩けって!たく、ホントに世話の焼ける…お、タクシー!!」