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戦記 短編

第二次大戦の騎士道

作者: 橘花

バトル・オブ・ブリテン 


それは、第二次大戦で独逸空軍が大英帝国の制空権を握り、計画されていた本土上陸作戦の前哨戦であった。この話は、その戦場で実際にあった真実の話である。



-イギリス本土上空-


「喰らえ。」


エンジン音を轟かせ、Bf109の最も得意とする一撃離脱で迎撃に昇ってきたスピット・ファイアーを撃墜する。


「ど、独逸空軍だ!!」


突然の攻撃で英国空軍はパニックになる。そこを突いて、列機が追撃を仕掛ける。


「ぎゃああ!!。」


追撃を仕掛けられたスピット・ファイアーは燃えながら落下していった。


「よくやった。」


列機を集合させ、フランスの独逸空軍飛行場へと戻り始めた。Bf109は圧倒的な空戦性能を誇っているが、その弱点として独逸空軍の戦闘機には陸地の上空で戦うという設計理念がある。その為、航続距離は短く、約20分程度しかイギリス本土に留まれないのだ。


「ドーリッシュ、あんたの努力には感謝するが、こっちは10機もやられちまった。」


「ああ、分かっている。」


(この損害は全部ゲーリングのお陰だな。速度を生かす戦闘機なのに、爆撃機から離れずに護衛しろだの無茶苦茶言ってくれるよ。)


「だが、一番損害が出るのは爆撃隊だな。」


「そうだな。」


別の編隊とドーリッシュは会話する。実際にその通りなのだ。護衛機の居ない爆撃機隊など、戦闘機隊にとってこれ以上の獲物はいない。


「ドーリッシュ隊長、今のに気づきましたか?」


「え?」


突然、僚機のエイミールから無線が入る。


「あれはスピット・ファイアーですよ。丁度いいですね隊長。あれを落とせば20機、勲章が貰えるんでしょ?」


「ああ、ありがとう。」


当時、20機を落とせば騎士十字章が授与される事になっている。ドーリッシュは迷わずに操縦桿を敵機の居る方向倒して旋回する。



「よーし、後ろに付いたぞ。」


ドーリッシュの乗機、Bf109はスピット・ファイアーに気づかれる事なく後ろに付いた。


「は、」


機銃を放とうとした時、敵の様子がおかしい事に気づいた。


「ま、まさか。」


ドーリッシュは乗機をスピット・ファイアーの横に付けて、操縦席を覗いた。


「やっぱり。」


パイロットは原因は分からないが気絶していた。スピット・ファイアーは非常に安定性が良く、パイロットは気を失った後も飛び続けていたのだ。


「どうしたんですか?」


僚機からの無線が入り、ドーリッシュは


「こいつは敵じゃ無い。パイロットは戦える状態ではない。」


ドーリッシュはスピット・ファイアーに少しずつ乗機を寄せて行き、主翼を相手の主翼に軽くぶつけた。こうする事で、機体は揺れ、気絶しているパイロットも高確率で目を覚ますのだ。案の定、パイロットは気が付き、辺りを見回した。


「な、独逸軍機!?」


パイロットは慌てて操縦桿を引いて、逃げようとするが、


「え?」


ドーリッシュはスピットのパイロットに基地への無事なる帰還を祈ると手で合図をする。スピットのパイロットは驚きはしたが、すぐに感謝すると手で合図を送り、離脱した。



-北フランス 独逸空軍基地-


帰還したドーリッシュはすぐさま大隊本部への出頭を命じられ、大隊本部へと入った。


「ヴォン・ドーリッシュ中尉、入ります。」


「ああ、入れ。」


大隊長のアドルフ・ガーランド少佐がドーリッシュの入室を許可した。


「今日の帰り、敵を見逃したそうだな。」


「は、仰るとおりであります。」


「貴様の撃墜記録は・・・19か。あと一機で騎士十字章の授与資格があるのに、何故敵を見逃した?」


「敵機のパイロットは戦闘を行える状態ではありませんでした。そのような者を撃墜などできません。」


ドーリッシュは声に迫力を含めて言う。


「騎士道という奴か?だが、貴様の見逃したスピット・ファイアーが今度は味方を殺すぞ。」


「それが甘いのであれば処罰を受けましょう。少なくとも私は戦闘不能の敵を落として勲章など頂けません。」


ガーランドは葉巻に火をつける。ドーリッシュは最悪銃殺も覚悟した。敵を見逃すという行為は本来なら銃殺でも済まされない行為である。


「ははは、よろしい。それでこそ真の勲章を授与する資格のある者だ。」


ガーランドは突然笑い出し、ドーリッシュの肩を叩いた。


「次の出撃で戦闘可能な敵機を撃墜して来い。そうしたら、誰が何と言おうと勲章を授与してやる。だが、今日のところはこの葉巻で勘弁してくれ。」


そう言ってガーランドは自分の葉巻ケースから葉巻を取り出し、ドーリッシュに渡した。


4日後、ドーリッシュは再び僚機を率いてイギリス本土を爆撃する爆撃隊の護衛に就いた。


-イギリス本土上空-


「敵機接近。スクランブル、スクランブル。」


英国空軍は侵入した敵機迎撃の為に離陸を開始した。



「繰り返す、ゲーリングの馬鹿が言った言葉は無視しろ。直援機以外は自由に戦闘を行え。」


ドーリッシュの所属する部隊の部隊長は指示を出し、独逸空軍お得意の2機編隊に分かれた。


「会敵!!。」


空戦は始まった。この日、独逸空軍は総力を上げた航空戦を展開し、一気に制空権確保に乗り出した。


「なかなかスピットは来ませんね、隊長。」


「あせる事はない。」


そこへ、別の編隊から救援の要請が入り、ドーリッシュは僚機を率いて救援に向った。



「全機へ、急降下で一気に仕留めるぞ。」


僚機を遣られ、いつの間にかドーリッシュの指揮下に入っていた編隊を率いて急降下をかけた。


「喰らいやがれ!!」


機銃を放ち、スピットを上方から襲い掛かった。機銃は外れ、格闘戦へと移行した。


「ち、ちょこまかと。」


ドーリッシュは回避運動を取るスピットの後方には居るが、なかなか射線に付けない。スピットは急降下に入る、これをチャンスと見たドーリッシュは一気に速度を上げて距離を縮めた。


「今だ!」


機銃を放ち、念願の20機撃墜を達成する。


「やりましたね隊長。」


「ああ、ありがとう。次は君の。」


突然、隣に居た僚機は攻撃を受けて撃墜されてしまった。


「仕舞った!」


急いで操縦桿を倒して回避しようとするが、ドーリッシュの機体にも機銃弾が放たれ、被弾してしまった。


(さ、最大のミスだ。勝利におごって、僚機を失うとわ。)


ドーリッシュはそう思いながら戦闘空域からの離脱を始めた。


「こちら、ドーリッシュ。敵機にやられて任務続行不能。帰還する。」


そう基地に言い、必死に飛んだ。そこへ、レーダー管制を受けて迎撃のスピット・ファイアーが来る。


「こちらブルー隊。敵機を確認した。これより迎撃する。」


スピット・ファイアーはドーリッシュの乗機に接近を始める。ドーリッシュもスピット・ファイアーを見つけ


「ここまでか。」


覚悟を決めて、自分の居る操縦席に機銃弾が入ってくるのを待つ。


「貰った。」


射撃位置に付いたスピット・ファイアーは機銃を放とうとしたが


「ま、待ってください。攻撃中止!!。」


突然、編隊3番機に止められる。


「あれは、俺を助けてくれた敵です。」


編隊3番機はブルー・リーダーに伝えた。


「OK。騎士道には騎士道で答えよう。全機、奴をドーバーまで護衛するぞ。」


ブルー・リーダーは編隊全機に伝え、前後左右でドーリッシュの乗機を取り囲んだ。



「な、何だ?」


ドーリッシュは突然、自分を囲んだ戦闘機に疑問を抱くが、その戦闘機を見渡すと


「あ、あいつは。」


4日前の戦闘で気絶しているところをドーリッシュが助けたスピットのパイロットが居た。


「そうか、あいつは無事に戻れたのか。」


(それにしても、不思議な光景だな。地獄のような戦場で、ここだけは平和だ。)


ドーリッシュはこのままスピット・ファイアーに護衛されてドーバーまで到達、護衛してくれたスピット・ファイアーのパイロットに最敬礼を行って別れた。



ドーリッシュの回想


それは、あの悲惨な戦争の中で唯一素晴らしいと思える体験だった。私は、僚機を失ったミスを問われて騎士十字章を40機撃墜までおあずけとなった。だが、私は騎士道があの悲惨な戦争でも生き残っていた事を知った。それだけでも、私は満足だった。あの戦争が終わって半世紀になるが、その体験だけは恥ずることなく思い出にできる。





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[一言] 昔、漫画で読んだぞこれ
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