キラキラ 1
「いってきます」
彼女は家を出る時、決まって声をかけて出て行く。
そして私は何も言えず、少し寂しい気持ちになりながら、黙って彼女を見送る。
「ただいま」
つかれたあ、なんて言いながら彼女は電気をつけて、荷物を置く。私のほっとする瞬間だ。
この部屋は小さいけれど、朝や昼には大きな窓から光が差して、反射しながらキラキラと輝く。光に満ちた世界で、私はその心地好さにまどろみ、静かに呼吸する。
そして夜には彼女がいる。電灯の灯の下でも、それだけで昼間のように輝いて感じる。
この部屋は小さいけれど、私にとってとてもとても大切な空間だ。
彼女が私を見つけたのは、良く晴れた気持ちの良い午後だった。
私は光を浴びながら、店頭で道行く人を眺めていて、そこへ彼女がやってきた。
「観葉植物の世話をするのは初めてなんです」
彼女はそう言って、店員にあれこれ質問していた。
これなんかいいんと思うんだけど、とその時選ばれた私が、今ここにいる。
家に帰った彼女は、テレビ横の窓側に私を配置して、誰かに電話で私の話をした。
「前に植物も人間の話がわかるから、話しかけたほうが元気になるってテレビで言ってたけど、本当かなあ。へえそうなんだ、すごいねえ。じゃあこれから、私もこの子に話しかけて大事に育てよう」
それから、彼女は毎日私に他愛もない話を聞かせてくれた。
「買い物に出たのにお財布忘れて、レジで慌てちゃって恥ずかしかった」
「満員電車に乗り込めなくて、学校に遅れたよ。都会の電車はこわいね」
「買い物の帰りに、いつもと違う道を通って帰ってたら、迷子になったよ」
などなど。
私は彼女のそんな小さな失敗話を聞くのが好きだった。
「大変だった」そう言って朗らかに笑う彼女は、とても素敵な女の子だと思う。