開始
三題噺もどき―はっぴゃくじゅうはち。
まだ教室は閑散としている。
机の上に物が置かれているので、何人かは来ているようだが、教室にはいない。
閑散と言うよりは、しんとしていると言う方が正しいんだろうか。
廊下に出ればそれなりに話し声は聞こえたりするけれど。
「……」
並んだ机の隙間を縫いながら、自分の席へとたどり着く。
誰もいないから出来るちょっとした遊びだ。普段はもっとシンプルに行く。
綺麗に整頓されているのだから縫って行く必要なんてない。
「……」
重たい鞄を机の上置く―前に、まだ少し濡れていたのでタオルで拭いておく。
家を出た直後は降っていなかったのだけど、丁度学校につく直前くらいのタイミングで雨が降り始めたのだ。
まだ小雨だったので、少々急ぎめでこれば平気だったが、濡れるものは濡れる。一応、駐輪場で拭いてきたが、甘かったらしい。
「……」
外を見れば、どんよりと重い雲が空を覆っている。
まだ小雨のようだが、これから本格的に降るのだろうか。
視界に見える校門近くでは、送迎をしてもらっている生徒もチラホラ。傘の列も見えてきたので、そろそろ騒がしくなる頃だろう。
「……ぅ」
突然、吐き気が襲ってきた。
胃がぐるぐると気持ちが悪い。
……昨日のショートケーキがかなり効いたらしい。
「……、」
嘔吐まで行くことはないにしても、今日はあまり調子が良くないかもしれない。
昨日、節分を迎えた我が家では、恵方巻となぜかショートケーキを食べたのだ。
祝い事=ケーキを食べる、と我が家では当然のように決まっている。
「……」
昨日は、いつもより部活が長引いたせいで、自分で選ぶことはなかったのだ。
ホールケーキではなく、それぞれ小さいケーキを選ぶのが家のルールである。それぞれ好みがあるからな……面倒な好みが。妹とか、アレは食べないコレは食べるが激しいのだ。
「……」
それでまぁ、いつもとは違うケーキ屋さんに行ったらしく。
そこで、私の分はショートケーキを買ってきてくれていたのだけど。
これがまぁ……甘すぎてものすごい胸焼けを起した。
「……、」
甘いものは嫌いとまでは行かないが、それにも限度というモノがある。
甘すぎるものは誰にでも、毒薬並みによく効くと思う。それが良い方向でも悪い方向でも。
私の場合今回は、悪影響が強く出た。
「……」
それに、最近朝食を食べるのも一苦労になってきて……空腹ではあるのだけど、口が受け付けないのだ。どうにかこうにか食べはするけれど、吐き気が襲うことが稀にある。
それに胸焼けも重なって、今日は最悪のコンディションだったりする。
何度も這い上がってくる吐き気を殺しながら、登校してきた。
「……」
こんな状態で、登校時にあの子に会わなくてよかった。
ヘンな心配をかけることが目に見えている。
どうせそのうち治まるものだし、最悪保健室にでも飛び込むことにしよう。
まぁ、ここの保健室使いにくいことこの上ないのだけど……あと単にあの先生が苦手だ。
「……」
……とりあえず、一旦は治まった。
背負ったままになっていたリュックを一度降ろし、中身を取り出す。
鞄に入りきらなかった数冊の教科書と、筆箱。飴の入った袋。
何か必要になったらまた取りに行くとして……一度これはロッカーに入れて置く。
「あ、――ちゃんおはよう」
「ぁ、おはよう」
どうやら、もう人が集まりだす時間らしい。
時計を見れば、もう数10分で授業が始まる時間だった。
我が校には、何のためにあるのかゼロ時間目というモノがあるので、それが始まる時間だ。
「てか、なんで電気つけてないのw」
「あ、忘れてた、」
そういいながら、教室の前にあるスイッチを入れる。
一気にパッと明るくなり、少々眩しく感じた。
雨のせいで多少暗いとはいえ、なにも困ることはないのでつけるのを忘れていたのだ。
先に来ていた生徒もつけていないという事になるが、もしかしたら教室を出るからと消したのかもしれないし。まぁ、私の不注意だ。
「おはよー「おはよ~「はよーー」」」
「……」
一気に騒がしくなる教室に、少しげんなりしながら、席に戻る。
今日も授業が始まる。
お題:毒薬・雨・ショートケーキ




