昼ドラどろどろ婚約破棄劇場
「君との婚約を破棄して、僕は真実の愛を選ぶ」
王子が私への婚約破棄宣言をして、私の周りが爆笑する。
「王子の婚約者じゃなくなったあなたと、お付き合いするメリットはなくなってしまいましたね。私は新しい王子の婚約者とお友達にならなくては」
「私達のグループからとっとと出ていってくださいますか。王子の新しい婚約者を歓迎する準備をしなくてはいけませんので」
と、私の友人達がにやにや笑いながら言った。
正義感が強い王妃が、私の友人達の言葉に激怒する。
「あなた達は損得で友人を切り捨てるつもりですか」
王妃の前で神妙な顔をするが、にやけ笑いを押さえることができない私の友人達。
「それはしょうがないですよ。王子が弓の乙女とどうしても結婚したいと言っているんですから」
「あなた達は友人が王子の婚約者から外れたからと言っ、んんっ?弓の乙女?」
「はい。王子は婚約破棄をして、弓の乙女と結婚したいそうです」
吹き出す友人達。
「んんんんんんっ?」
王妃は、私の身体を掴み移動して、王子から距離を開けてから小声で聞く。
「もしかして、私の息子は、あなたが弓の乙女だって知らないの?」
二年前、隣国の勇者が魔王討伐にいくさいに、弓の名手である私も同行することになった。
各国の精鋭が勇者のサポートとして、魔王討伐に参加する。
単純な話だったが、それを成立させるためには、いろいろな面倒な手続きが必要だった。
私が王国の伯爵令嬢の立場で、勇者が隣国の偉い地位にいたことが問題だった。
私が魔王に殺された場合、国同士の責任問題に発展する可能性があるのだ。
馬鹿馬鹿しい話かもしれないが、世の中はけっこう建前が必要なことがあるのだ。
私は伯爵令嬢ではなく弓の乙女として魔王討伐に参加した。
私が死んでも一般市民の弓の乙女だから問題ないですよ、との建前だ。
魔王討伐がなされて、私は褒美に弓の乙女の生活を続ける権利をもらった。
魔王討伐仲間のドワーフなどは、一生遊んで暮らせる大金ももらえるのに、そんなどうでもいい権利を手に入れるのはわけがわからんと首をひねっていたが、ガチガチの階級社会のこの王国で、伯爵令嬢と一般市民の二つの生活ができることは特権中の特権だった。現に、この王国の人間は王族も含め、私の特権をうらやましがった。
そして、弓の乙女として、一般庶民の生活をしているときに、お忍び中の王子と出会った。
「それで、私の息子は、あなたが自分の婚約者だって気がつかなかったわけね」
「はい。私も面白くなっちゃって、黙っているうちに、そのまま恋愛が発展しちゃって」
「私、次の公務の準備があるから、あとは勝手にやってちょうだい」
「見捨てないでください」
「あほらしくて、つきあってられないのよ」
「助けてください」
「本当のこと話せばいいじゃない。私が弓の乙女ですって」
「それが、王子と仲良くなるために、前に聞いた他人と仲良くなるためには共通の敵を作るといいってテクニックをきいて実践しちゃったんです。他人の悪口言うのは失礼だから、伯爵令嬢の私がめちゃ悪い奴だって」
「馬鹿じゃないの、あなた」
「王妃様」
王妃はため息を吐いて、賢者を呼ぶ。
「悪いけど、この子のために知恵を貸して」
賢者はあらかさまに不満な顔をする。
「私は、そんなくだらないことに関わるために雇われているわけじゃないんですけど」
「あなたの言い分はもっともだけど、この子は一応世界を救った一員なのよ。お願い」
「それじゃあ、このまま婚約破棄して、王子は弓の乙女と結婚してもらうでいいんじゃないですか」
と、賢者は投げやりに言った。
「それでいいわね」
と、王妃も投げやりに言う。
「待ってくださいって。王子と私の結婚は、王族と伯爵家のつながりを強化する目的だから、伯爵令嬢の私を婚約破棄するのはまずいですって」
賢者が、私の意見を潰しにくる。
「弓の乙女に伯爵家の養女に入ってもらって、王子には今現在の伯爵令嬢は追い出したって言っとけばいいんじゃないですか」
「それでいいわね」
「て、ことが二十年前にあったのよ」
「んんんんんん?」
娘は私の説明に変な声を出す。
「それで、伯爵令嬢でなくなった私は、元伯爵令嬢が作る高級定食屋のお店を出して、大繁盛したってわけなのよ」
「ち、ちょっと待ってください、お母様。私は王妃であるお母様がたびたびお城から抜け出しているのを心配して、尾行してみたら、この王国一の商会の社長をしている衝撃的事実を知ったばかりなんですけど」
「ようは二重生活を続けているわけよ。婚約破棄の時に、肩書が入れ替わっただけで」
「お母様、王妃の仕事、めちゃくちゃしてますよね」
「そうね。自分で言うのもなんだけど、すごく働いているわね」
「この商会、ここまで大きくするのに、相当な苦労したでしょう」
「あの小さい定食屋から初めて、ちょっとずつ大きくなったから、苦労はなかったけど手間はかかったわよね」
「なんで、そんな大変なことしているんですか?」
「いや、どっちも楽しいのよ。強制されていたら地獄でしょうけど、自分で選択した上で好きな階級で働ける。この王国では私だけの特権よ」
「でも、両立なんて無理でしょう。先月なんて、国際問題の処理で、お母様がお城から出られる時間なんてなかったじゃないですか」
「基本、どっちも私がいなくても回るようなシステムにしているから大丈夫なのよ。この商会の部下達も頼りになる人ばかりだし。さすがに、近所の子に弓の指導してくれってのは断ったけど。年に一度の大祭りの時は、この商会の社長で弓の乙女として、弓の腕前を披露しているわよ」
「あれ?こっちは元伯爵令嬢じゃなかったですか」
「国民はみんな、私が王妃でこの商会の社長で弓の乙女で元伯爵令嬢だと知っているわよ。婚約破棄の真相も知られているし。知らないのはあなたのお父様ぐらいよ」
「それじゃあ、お父様はまるでバカみたいじゃないですか」
私は娘に真実を告げる。
「バカみたいじゃなくて、バカなのよ」
おわり




