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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

ドールは人間を夢見る

作者: 氷桜 零


鉄錆の匂い、煙の匂い、怒号、悲鳴、哀願…。

私にとっての日常。

慣れた匂いに、聞き慣れた声。

いつもは私に対して向けられるそれが、今日は少し違った。

何が違ったのか、よくわからない。

 

私たちは考えてはならないと、そう教育されたから。

だから何があっても考えない。

その答えはきっとすぐにわかる。

そんな気がした。


いつもは、命令があれば外に出ることができる。

でも今日は、いつまで経っても命令が来ることがない。


どうしてだろうか?

いや、私にはどうでもいいことだ。

私が考える必要はない。


音はまだ続いている。

けれど大きな声は止んでしまった。

遠くから聞こえる足音と、爆発音だけが支配していた。


足音は、私のいる前で止まった。

私は顔を上げて、彼の顔を見た。

室内は暗いけれど、私には関係ない。

濃い色の髪と目をもつ、顔の整った男性。

 

彼は片眉をあげると、側の男性と話をし始めた。

どうやら私の処遇を相談しているらしい。

会話から、なんとなくわかった。


私はどうなるのだろうか?

処分でも構わないのだけど。

できればこの世界を、もう少し見てみたかったと後悔はある。

彼が私に向き直る。

処遇が決まったのだろうか?


「ここで死ぬか、一緒にくるか、どうする?」


選択肢だろうか?

私は今まで、選択肢を提示されたことがない。

どちらを選べばいいのだろう。

どちらが正しいのか、わからない。

今までこんなことはなかったから、考えたこともなかった。

選ぶと言うのは、とても難しい。

私はどうしたいのだろうか。

ここで処分されるか、ここから外に行くか。


私は……


「一緒に連れて行って。」


「わかった。」


男性が、ふっと笑った。

私はこの時、生まれてから初めての選択肢を、自分の意思で選んだのだ。




ーーーーー


私は朝日に釣られて、目を覚ました。

昔の夢を見た。

私が、私自身の未来を、初めて選んだ日。

ボスに拾われ、私にフィオラという名前をくれた。

名前というのも初めてだった。


ボスに拾われてあから、新しいこと、初めてのことばかりだ。

好意も、敵意も、嫉妬も…。

人の感情というものは、とても複雑なのだと学んだ。

これが人の社会かと思うと、疲れないのかなというのが正直な感想だった。


ファミリーというのも、初めて知った。

ここは普通のファミリーではないようだけど、普通を知らないから、私の普通はここのことだ。

ファミリーの大半は、幼い私を可愛がってくれた。

頭を撫でてくれたり、新しくできたことがあると、必ず褒めてくれた。

ここに来て、嬉しい、楽しいという感情を学んだ。


私はあの時、一緒に行くことを選択肢て良かったと思う。

違いが大きすぎて戸惑うことも多い。

けれど何よりも、新しく知ることがとても楽しい。

だから私を拾ってくれたボスと、ファミリーのことは大好きで、私の持てる全てで、みんなを守ろうと思った。


だから、ファミリーに仇なすものは、私が粛清する。

ファミリーを傷つけるものは、絶対に許さない。


私はボスに拾われて初めて、ナイフを両手に握った。

蘇るのは、かつての私。

ボスに拾われる前の、本来の私。

最凶のキリングドールと呼ばれた、私の姿。


すれ違う敵を、全て一撃で急所を刺す。

手の感触、血の匂い、酷く懐かしい。


私は淡々と、作業をするように殺していった。

そして辿り着いたのは、玄関ホール。

多くのファミリーと敵が、倒れて血を流している。


私が足音を立てて近づくと、ホールにいた敵も味方も全員が、私を見た。


「おまえ、何やってる!?逃げろと言っただろうが!」


自身の血と返り血で服を赤く濡らしたボスが、私を見て怒鳴る。

確かに逃げろと言われた。

けれどそんなこと、できるはずがない。


首を横に振って、拒否を示す。


「おまっ…ゴホッ、ケホッ。」


ボスの傷が深いようだ。

早く終わらせて、手当しないと。


「…キリングドール、ナンバーゼロ、殲滅する。」


かつての感覚に身を委ねた。

数メートルを一歩で接近。

急所を次々と刺していく。

喉、頭、心臓、血管が多い場所ばかり狙うので、あっという間に血濡れになった。


銃弾も敵のナイフも、私を掠めもしない。

むしろ私に敵の居場所を知らせることになる。


トンッと床に足をついて止まった時には、ファミリー以外の人間は生きていなかった。


「ボス、私はファミリーが好き。私にも、守らせて。」


私の決意を伝えた。

唖然と見ていたボスは、次の瞬間、突然大声で笑い出した。

それには、今度は私が唖然とする番だった。


「ボス?」


「ああ、そうだな。お前もファミリーの一員だもんな。」


ボスがそう、認めてくれた。

ボスに認められることは、何よりも嬉しかった。



 


私はキリングドール。

殺しのための人形。

けれどそんな私でも、人間と同じような感情を学んだ。

ボスが、新しい感情をくれた。

普通の人間になれなくても、ボスを守れるのならいいかと思った。




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