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そいつはばりばりとおせんべいを食べると言った。
「おいしい。ありがとう」
そう言うと、庭から出て行った。
こうきは動けなかった。
あまりにも信じられない光景。
あまりにも信じられない存在。
人間は本当に驚くと、なに一つできないのだ。
そいつがいなくなると、ばあちゃんは居間に戻り、テレビを見だした。
こうきも戻った。
そして言った。
「今のは?」
「お友達」
ばあちゃんはそう答えた。
それだけだ。
もう会話はない。
テレビを見ながらこうきは考えた。
いまのはなんなんだ。
妖怪? 化け物? 幽霊?
答えはない。
ばあちゃんに聞いてみようとおもったが、やめた。
ばあちゃんはそいつをお友達だと言ったし、そいつを見る顔は、幸せに満ちていたからだ。
こうきはテレビを見ていたが、もちろん内容は全く頭に入ってこなかった。
夕食、テレビ、お風呂、テレビ、そして寝た。
こうきは満足に寝られなかった。
目を閉じればあいつの姿が脳裏に嫌でも浮かぶのだ。
――明日の昼過ぎには、父さんが迎えに来る。
そしたら帰ろう。
そして二度とここには来るまい。
そんなことを考えていたら、ようやく眠りについた。