扉が開いた2
無音で開いた扉の向こうに懐かしい空間が広がる。覇を競い小惑星帯の資源を奪い合う勢力のどれにも属さない弱小コロニーだ。軍の上層部が正体不明と判断するのも無理はない。
先輩と組んで故郷への斥候を命じられた私は恐怖し狂喜した。
軍人になれないはずの野良コロニー出身であることがばれたのかもしれない。先輩を故郷へ連れ帰ることができるかもしれない。だが、それでは拉致とかわらない。私の出自を明かすべきだとは思った。結局、騙していたと思われることが怖くて、何も言えないまま今になった。
(おかえり)
軍のそれとは違う周波数から聞こえてきたのは父の声だ。
(素敵なお婿さんだね)
父の言葉に私はよろめいた。
「悪い。無理させてたか」
先輩のたくましい腕が私を支えた。ヘルメット越しでも先輩がどういう顔をしているかくらい、私にはわかる。
「すみません」
「ほれ」
一瞬で、軽々と背負われてしまった。
「先輩! 」
「ん、ちょっとくらい俺に先輩面させろ」
「危ないですよ。降ろしてください」
先輩と私の使命は、正体不明のコロニーの斥候だ。故郷だからと油断して、先輩に怪しまれては元も子もない。
「俺はお前の腕前を知っているつもりだ」
人工知能を乗っ取るくらいは、私には簡単だ。今回は特に故郷だから、何もしなくても警備システムが私達を排除することはない。
「ありがとうございます」
この先に何が待ち受けているかを知らない先輩の声は明るい。宇宙服越しでもわかる厚い筋肉が覆う背の、規則正しい歩みにあわせた揺れに、私は身を任せた。
着いてしまった。
「ようこそ」
父の声がした。先輩の逞しい背から滑り降りた私は顔をあげられなかった。
「随分と選定に時間がかかったね」
先輩が気に入ったらしく父は機嫌が良い。
「どういうことだ」
「すみません」
「コロニーはそれぞれの問題を抱えている。このコロニーでは遺伝子プールが不足し、多様性の喪失が間近だ。ようこそ、我々のコロニーへ。君を新たな仲間に歓迎しよう」
「は? 」
不信感に溢れた先輩の声が、心に痛い。
「先祖にならって言えば、君はこの子のお婿さんだよ」
単刀直入な父の言葉に、私は自分の頬が紅に染まることがわかった。
「あの、嫌でしたか。でしたら元のコロニーに帰っていただいても」
任務のついでに何も言わずに先輩を連れてきてしまったのは私だ。
「大歓迎だ」
私を抱きしめる先輩の顔を隠すヘルメットが、少し憎らしかった。