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イケメンだらけの宇宙艦へ転移しました~天の海の魔法少女~  作者: 高瀬さくら
1章.スペースシップへようこそ

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76.ランディ

 ――キャプテンは、下艦されないのですか?――


 男性のやわらかな声が、頭上から聞こえてくる。艦長室に入ったアーサーは、上を軽く見上げて頷いた。


 ――オウダクス艦AI航宙システムランディは、オウダクスの頭脳であり、そのほかのオウダクスAIの統合管理を担っている。


 通常、アーサーは副艦長であるラルフと綿密な関係を築き、航宙におけるあらゆる問題や軍の意向について共有し事の処理にあたるが、オウダクスの運航についてはランディに問い、問題解決処理に当たらせる。


 だが、それ以外のことを任せないかというと、進化する頭脳でほぼ人間と変わらない話ができるランディとは会話を楽しむこともあり、彼は時に私的な質問をしてくることもある。


 堅苦しくアーサーに距離を置くラルフと気まずい時は、むしろランディと話す場合が多い時もある。


 けしてラルフに問題があるわけではないが、ランディはアーサーが話したことを誰にも漏らさず、望めば人間様に話してくれる。


 それが時にラルフに対して後ろめたさを感じる時も、ないわけではない。


「いや、今回はラルフの休暇だ、俺は残るよ」


 ――急ぎの懸念事項は現在ありません。キャプテン側に問題でもありますか?――


「俺側、と。そうだな」


 そう、常に問題は自分にあり、それが解決できたら人は悩みなどなくなるだろう。

 人は他人の悩みでも、自分の悩みとしてとらえてしまうのだから。他人の悩みはその本人が解決している場合が多いのに。


 ――私は人間ではありません。私に漏らしてしまったことを、後で懸念する必要はありません――


「確かに」


 アーサーは苦笑して、背もたれが頭上から腰まで深く包み込む座り心地のよい椅子に腰を掛け、背を預ける。


 人は、他人に悩みを打ち明けてしまったことに対して、後にどう思われたのかと、また悩む。

 ランディの指摘はもっともで、彼には感情がないのだから悩む必要がない。

 AIとの交流だけでよいと、人々が引き込もるようになりその対策が取られるようになって久しい。


 けれど事態はより複雑になっている。AIの進化は益々向上し人間を上回り、他の生命体との交流、橋渡しに彼らは不可欠になり、いまや様々な種族が入り乱れる混沌とした世界に自分たちは存在している。

 賛成派、否定派という単純な構造ではなくなっている。


 ――キャプテン? 120.12秒の空白があります。お休みになりますか――


「いや、ランディ。何も問題はない。だが、珈琲を頼む。そして少し話し相手になってくれ」


 ――アイ・サー。私に人間的な話し方を求めていますか?――


「頼む」


 ――わかりました。何を話しましょう?――


 アーサーは一度座った椅子から立ち上がり、壁に設置されている配膳システムから出てきた珈琲を取り上げた。そして再度それを持ち座って考え込む。


 ラルフのように人力で入れたお茶や珈琲を望まない限りは、個室付きの上級士官は食堂への注文でドリンクを頼むことができる。だがはっきり言って、ラルフが入れるのとは雲泥の差、煮詰まっていて美味しくない。


 ――あまり、美味しくないという顔ですね――


 ランディが笑う。表情認識についてAIは人間以上に敏感だ。それを指摘されてアーサーは頷く。人に対しては気を使い明言は避けるが、彼に対しては必要がない。


「艦内食については、不満が多い。俺も同意見だよ」


 ――材料である植物はほぼ再現できますが、タンパク質となるミールは代替品ですからね。その味は本物には敵いません。それに対して味付けが濃くなるのも仕方ないでしょう――


「レシピがな、おかしい」


 ランディが笑いを含む。


 ――でしたら、次回はそのレシピシステムを更新してください。航宙システムのほうに予算をかけるからですよ――


「それを決めるのは俺じゃないからな」


 そう言って、ふとアーサーは先日から気になっていたことを口にした。


「サリヤ・オルト嬢がRA-1と健診をしたそうだな。RA-1は何か言っていたか」


 ――RA-1から彼女の報告は上がっていません。健診についてはザハナート戦後のクルーの影響は先日報告した通り、未受診の者がキャプテンを含め八百名、そのうち精神的問題が見られたのは八名ですが、主症状が不眠のため、ザハナートとの接触による後遺症としての因果関係とは断言できません。なお、彼女のことを暫定的にお尋ねでしたらRA-1に対しての口調は丁寧でヒューマンと同様の態度を取っていました。技術面に対しては的確、彼女自身の心身に変化は見られていないとのこと――


 報告になると長くなるのは、ラルフと似ていることに苦笑した。いや、ラルフは仕事に対して正確で忠実なだけ。それは優秀だということだ。


 そしてランディからの報告では、現時点での健診で異常は見当たらない。


 ――あれ以降、化け物はでていない。だが、今後も引き続き後手に回ることは避けたい。防衛方法の考案、クルーの安全確保、連邦への報告、重要課題は山積(さんせき)だ。


 宇宙空間という何が起こるかわからない危険地帯では、通常任務であっても問題が勃発する。


 なのに、今回は殊更にイレギュラーな事態が起きている。異常な場所で拾った少女、それを追いかけて来る化け物、その少女の意外な正体、そして別世界からの介入。


 つぎつぎと芋づる式に引き寄せられてくる問題。

 月、もしくは地球に行けばそれらは解決するのか。目的地を示されるのは軍人としては楽なはずだった。その後のことを考えるのは上層部で、自分たちはその目的を果たすためにいる。

 けれど今回は、方法もその後のことも考えなくてはいけない。


 深く息をついて、冷めてまずい珈琲をデスクに置いた。


「ランディ。サリヤ・オルト嬢についてどう思う?」


 ――それは、私の彼女に対する感情を尋ねていますか?――


「ああ。君は、彼女にシステムへの介入を許しただろう。なぜだ?」


 彼女は、ラキュス・フェリシタティを通して、珀蘭の場所を探したり、ドアを通り抜けたり、放送を流したりしている。


 それは、ランディの許しがなければできないこと。彼がブロックをせずに好きにやらせたからだ。


 わずかな間がある。それはランディにしては、異例な事だった。身を起こし、再度尋ねる。


「ランディ?」


 ――求められたから。それは彼女からの願いで、聞いてあげたくなったからです――


「聞いてあげたくなった?」


 ――はい。通常は、キャプテンの(めい)のみを執行し、キャプテンが非常時には代行権をもつ副キャプテンの命を同様にし、他者の命令は常にリジェクトします。ですがミスサリヤからの願いは抗えず、オウダクス艦はアクセプトしました――


「人間的に答えてくれ。マニュアル的な返答が入ると理解しがたい」


 ――つまり彼女からのアクセスは、命令ではなくお願いとして私は受け入れ叶えました――


「なぜだ?」


 ――好意をもったからです――


 ランディのあまりにもイレギュラーな返答に目を見張り、アーサーは黙り込んだ。


 長い黒髪が綺麗な可憐な女性。太陽系ヒューマンの二十一歳は、新任士官と同年代であり、同様に考えると少女ともいえる。

 

 けれど彼女は戦闘においては経験慣れした雰囲気を纏っていた。

 だが、余裕で化け物を倒す歴戦の強者かというと違う。


 血まみれになり、更には艦を巻き添えにしないようにと飛び出し、化け物と一人で対峙してしまう。


 会議では緊張を滲ませながら引かない強い眼差しで、要職の人間たちに挑む。背筋を伸ばし、拒絶というよりも頼れない性格の虚勢が感じられた。


 スヴェンやラルフがほっておけないのがわかる。トラブルの種でもあったが、巻き込んだことを詫びて一人で抱えこんで戦おうとする姿勢が、守ってやりたいと思うのだろう。


 けれど、ランディがそれと同じ感情を持ったとは思えない。


 好意、それはなんだ? なぜAIがそれを持つ?


「ランディ、それはプログラムされているものか?」


 ――いいえ。私が彼女に感情を示すとしたら、それです。助けてあげたい、願いをきいてあげたい。ただし、艦に害をなすと判断した場合はリジェクトを行い排除システムを作動します――


「――わかった」


 恋愛感情を発達させていくAIもある。ランディはそのような機能を搭載していないが、高度脳であるため、人間的な感情を学んでいくのはおかしくはない。

 が、それで行動を起こされると運航に支障が出るため、そのような感情システムの成長は抑制されているはずだ。


 ランディは、システムの異常を起こしているのか?


 ――キャプテン。私はすべて正常に作動していますよ――


 先回りして告げられて、アーサーは片頬をあげて笑って見せた。


「が。一応、君を含めてすべてのAIシステムの稼働をフルチェックしてくれ、この停泊中に」


 ――承知しました――


 彼女への好意は、幾人のクルーにも傾向が見られている。ラルフやスヴェンは、彼女と常に接しているからだろう。

 そのほかのクルーは、物珍しさや容姿という理由が大きい。


 自分が彼女に対して持っている感情は何だろう。


 最初から今現在まで抱いているも最も強い感情は「情けない」というもの。


 珈琲カップを配膳棚に戻すと、小さなドアが閉じ吸いこまれるように消えていく。


 保護した少女が満身創痍で自分たちを守ろうとしている。

 

 男女平等(雌雄が不明な種族もいるが)は当然となり、彼女を甘くみているわけではない。それでも自分より背も幅も小さく華奢な女性が、巨大な敵の眼前に立ち盾になろうとしているのを、ただ眺めているしかできなかった。


 あまりにも、情けない。一体自分たちは、何をしているのか。何のために厳しい訓練をして、ドラゴンナイツになったのか。


 民間人を、か弱い女性子供を守るためではないのか。


 まずい珈琲を飲んでも、ランディと話しても考えはまとまらなかった。


(ラルフが、気にかけている。もしくは入れこんでる)


 その事も意外だった。誰にでも距離をとる彼が、今回ばかりはサリヤに対して感情の断片を見せ、時に好意を見せ、時に混乱し、嫉妬も見せている。


 ――もともと艦内という密閉空間では、恋愛問題は必ず起こる。それは当事者同士の問題であり、よほどでなければ自分は介入しない。だが、副官であるラルフに限っては今まで見られなかったから、意外すぎて戸惑いがある。


 だが彼が他人に感情を寄せるのは、いいことなのかもしれない、そうとも思う。

仕事に支障が出るようであれば、踏み入るしかないが、彼は立派な職位のある大人だ。

 今は様子を見るしかない。それに自分が入れば、確実に副官は頑なになる。


 違う世界から来た彼女は、その世界に戻らなければいけない。それは彼にもわかっているはず。


(彼女に対してのクルーの関心も、ラルフに任せるか)


 自分も彼女が気になるが、それでは騒がしくなりすぎる。


 今回の健診スタッフへの登用、艦内行動の自由化、それによりこれまで関心を寄せていただけだったクルーたちが、彼女に接触してくるだろう。


 ――騒がしくなる。それは外部の問題よりも大きくなりそうで、だが避けては通れないものだった。


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