11.青い星
「まずは、展望デッキ!」
と言うわけで、と連れていかれたところは、艦の端だった。艦内の壁は淡い光を放っていて、どこに光源があるかわからない。ドアも薄い線があるだけで、よく見ないと入口だとわからない。
「現在地は、その表示ね。でも案内図はないから」
「そうなんですね」
壁に書いてあるアルファベッドと数字はサリヤもよく知っているもの。
「この艦は、地球人用に標準設計されているから。他には違う星系の標準設計の艦もあるよ」
サリヤは頷く。これだとサリヤもなじみやすい。相当遠いらしいイルミジョン惑星にいた自分が、地球の人間用の宇宙船に拾われたのはかなりの幸運だ。
「で。展望デッキなんだけど、今はノーマルドライブなので、何も見られないんだよね」
申し訳ない、と彼は手を合わせてサリヤに軽く気まずそうにした。
「準光速――」
「そ。星域に入ったら、窓から星の海が見られるからそれまでは待ってて」
そして、と彼は指を鳴らした。
「それまでは、こっちを楽しんで」
指を鳴らす小気味いい音が響くと途端に空間が暗くなる。そして丁度、足元に青い星を見下ろすことができる。
「これって、地球?」
「そう。地球出身の子どもの見学コースの映像だけど、あ、高所恐怖症とかはない?」
サリヤは首を振りながら、空間を見入る。
これほどまでに高い位置にいれば高所恐怖症だったら死んでしまうかもしれない。青い地球にかぶさるのは雲、そして街の明かり、それから緑と赤のオーロラが見える。
「実際にこうは見えないんだけどね。映像は超早送りをして編集加工したもの」
「街の明かりも見えるなんて……」
そして周囲には白い点々、たくさんの星が見える。
地上から見る星々も見ていると吸い込まれそうになるけれど、こちらの方は立体的というか、その空間にいるようで、その中に入っていってしまいそうになる。
「すごい」
窓の向こうだけを見て、ふらふらと足を動かして手を突いたサリヤはその向こうに手が届かないかと食い入るように見る。
「サリヤちゃん?」
「すごい、すごいです!」
横に立つスヴェンを思わず振りむく。
「まさか地球を見下ろすことができるなんて! 地球が青いって本当なんですね! でもどうして地球が青いの?」
気が付けば、穏やかな瞳でスヴェンが横にたって見おろしていた。
それに気が付いて、サリヤは唐突に両手で口を押さえた。顔が赤くなっていく、慌てて下を向く。
「気に入ってもらってよかった。水や空の青は短い波長だから効率的に散乱される、ていうと難しいから。簡単に言うとオゾン層に覆われているのと水の面積が多いからかな――ほら」
スヴェンがしめせば、緑や黄土色も見える。
「マーブル色だね」
にっこり笑って、スヴェンが言う。
「次回は、俺たちの星系の映像をぜひ見てもらいたいんだけど」
「――あっ、ずるいよ、スヴェン!!」
高く少年の透き通るような声が向こうから近づいてくる。この特徴的な声は間違いがない。
「ライ」
はたはたと白衣を揺らして走ってきたのは、天使の顔立ちの青年だった。
「目が覚めたら、僕のラボに来てもらう約束だったのに」
ラボ。つまり、研究室。怖い。
「約束、って誰がしたんだっけ」
「僕がしたんだよ。僕が僕としたら約束になるよね」
意味がわからない。
固まったサリヤの手を引くライの手は意外に力強くて、グイグイ手を引いてやめようとしない。
「こらこら。病み上がりさんには丁寧に。こちらはサリヤ・オルト。ライはちゃんと自己紹介」
スヴェンがライの前に回って、彼の前に立ちはだかる
ライはサリヤより背が少しだけ高いが、くるりと顔だけを回して振り返る。ただし、手首は掴んだまま。
「ライ。専門はバイオノイドフィジカル。君は太陽系地球人のX物体保持者だよね」
固まるサリヤに、スヴェンが「失格」と頭を叩く。
「ひどいよ、スヴェン! 君の馬鹿力で僕の頭が馬鹿になったらどうするのさ」
「というわけで、その約束は反故」
不満顔は、天使が頬を膨らませているようにしかみえなくて、絵画だったら愛らしいかコミカルに見えるのかもしれないけれど。
正直、怖い。それにX物体って何? サリヤが後ろに一歩下がるとスヴェンが支えるように背に回る。
「何でスヴェンが駄目って決めるのさ」
うーん、とスヴェンが誰にもわかるような大仰な動作で考え込む。
「とりあえず、サリヤちゃん。うちのキャップに会いにいく? そろそろ時間だと思うんだよね」




