19.聖女ルシア
俺たちが助けた聖女ルシア・ルーテルノと名乗る女性がお礼を述べる。
見たところ年は俺と同じくらいだろうか、ほとんど日に当たっていないようでとても色白の肌をした美しい少女だ。
そして、この少女には嫌でも目に付く特徴がある。胸部にそびえ立つ大きな双丘だ。
いや、もちろん俺も男だ。本当に嫌な訳じゃない。だからどうしても視線が双丘に吸い寄せられてしまう。
「どこを見詰めておるのじゃリアムよ。まったく、これだから男という生き物は……」
「いや、これは男のさがであり俺の意思じゃないんだ。抗いがたいものなんだよ」
「何を開き直っておるんじゃ……」
双丘の魔力に吸い寄せられている俺をスカーレットがジト目で睥睨していた。
いかんいかん。師匠にかっこ悪いところを見せちまったな。
不躾な視線をすまなく思いルシアの顔を見ると、見られる事に慣れているのか気にするようなそぶりは見せていなかった。
だからと言ってあまりジロジロ見るのは失礼にあたるな。できうる限り自重しよう。
俺たちが済む王国と隣接する国の一つ聖国。その聖国の象徴的存在が聖女だ。
聖国を治めているのは聖王であるが、聖国の象徴的存在は聖女であると言われており、その発言力は聖王より上かもしれないと噂されるほどの大物でもある。
そんな聖国の重要人物である聖女が、こんな所で何をしてるんだ?
「あっ、その顔は聖国の重要人物である聖女がなぜ……! って、考えてますね?」
「なっ! まさか……聖女は心が読めるのか?」
「んっふふー。さあ、どうでしょう?」
聖女ルシアは意味ありげに微笑む。
人族の最大宗教派閥の象徴とも言われる聖女なら、人の心が読めても不思議じゃない……か?
「我の見たところ、この少女は其方の表情から推理して話しているぞ。騙されるな」
「そうだったのか」
どうやら俺の動揺した顔から考えを読まれたらしい。
「助けてもらった恩人をからかうのはいい趣味とは言えんな。聖女の名が泣くぞ」
「確かにそうですね。大変失礼いたしました。何かお礼をさせていただきたいのですが、あいにくと手持ちがありません……そうだ! 私は家事を得意としております。貴方の身の回りのお世話をさせてください。聖女のお給仕を受けるなんてありがたい事ですよ」
スカーレットの発言に頷いたルシアが提案してくる。
聖女が回復から雑用まで何でもできるって噂は本当だったんだな。
「どちらにせよこのまま放っておくなんてできないし、一旦うちに戻ろう。でも、その前に連れの人たちを弔ってやらなきゃな。俺が墓穴をほるからこの人たちの遺品を回収しておいてくれ」
「わかりました」
俺はルシアに亡くなった人たちの家族に送る遺品回収を頼み地面に手を触れる。すると、大地がボコボコと動き出し、深い穴を一瞬で作り出した。
「凄い……一体何をどうしたら地面がそんな事になるのですか? 先ほどの戦いぶりと言い、凄い人に助けられたのですね。では、私も私にできる事をしましょう」
ルシアは俺の錬金術にひとしきり関心すると、先ほどまでの明るい態度を一変させ、干からびた死体を埋葬した跡地に膝をつき両手を組む。すると、ルシアの身体から神聖な力を持った魔力が放たれた。ルシアから放たれた魔力は俺の作った墓に注がれキラキラを輝き、幻想的な光景を作り出した。
少しおちゃらけた態度だったルシアの祈る姿は、聖女の名に恥じない凛々しいものだった。
これが聖国の聖女か……少し疑っていたが、この清浄な魔力からさっするにどうやら本物の聖女だったようだ。
「魂を浄化しました。これで死体がアンデッドに変わる事はないでしょう」
「聖女の噂は聞いていたが、我もその力をこの目で見たのは初めてじゃ。見事じゃな」
ルシアの力を見たスカーレットが感想を口にする。長生きしてるスカーレットでも見た事はなかったようだ。
埋葬を済ませた俺たちは聖女ルシアを連れて家に帰る事にした。