12.初めての対人戦
「リアムよ。今回の相手は人間じゃ。魔物とは違う危険があるぞ」
「魔物と違うってどう言う事だ? ——!?」
スカーレットの助言を聞き返した隙をついて用心棒の一人が剣で攻撃してくる。俺は敵に片手を翳し、咄嗟に作った魔力障壁で用心棒の剣をガードした。
「何だこりゃあ? 何もない空間で剣が止まりやがった……どうなってやがる!」
用心棒は剣が止められた事に驚き焦る。だが、内心では俺も焦っていた。
危ねえっ! 初めて出会った時にスカーレットが使っていた魔力障壁を真似てみたが、上手くいって良かったぜ。
「そう言う事じゃ。人間は魔物よりも知能が高い。敵を目の前にして隙を見せればそこを狙われる。さらに」
スカーレットの話を遮るように、別の用心棒が剣で攻撃してくる。俺はもう片方の手を翳し、その剣撃もガードした。
「人間の連携プレイは魔物以上じゃ。気を付けるのだぞ」
「そいつはもっと早く聞きたかったぜ!」
スカーレットから遅めのアドバイスが飛ぶ。それにもう1人の棍棒による攻撃を魔力障壁で防ぎながら答えた。
くそっ! 正直言って防御に手一杯で攻撃に手が回らねえ……このままじゃ俺の魔力障壁もたねえぞ。こんな時スカーレットならどうする?
思考を巡らせる間にも敵の攻撃は続いている。考えろ……勝つためには思考を止めたらダメだ……状況を打破する手段を考えるんだ!
「おっ? なんか空中の壁を壊せそうだぜ!」
「よし! 足並みそろえて一斉に行くぞ!」
用心棒三人の攻撃で魔力障壁に罅が入り、それに勢いづいた一斉攻撃でパキィッと高い音を上げて破壊された。
「ハッハッハッ! 壊れやがったぜ! ガキが手間取らせやがって、これでもくらいやがれ!」
「くそっ!」
用心棒の斬撃を床に手をついてしゃがんで躱すが隙だらけの状態になってしまった。
ヤバい追い込まれた……! この体勢は不味い……いや、だったら!
「なっ、なんだ! ぐわああああ!」
俺は手をついた床から魔力を流し地面を隆起させる。勢いよく飛び出した地面が下から用心棒を持ち上げ、天井に叩きつけた。
落下した用心棒は白目をむき気を失っていた。
「やった……これは使えるぞ」
「野郎やりやがったな!」
俺は仲間がやられた事で激高して襲いかかってきた用心棒を次々と地面から天井に打ち上げていく。そして、残った用心棒二人も意識を失い落下してきた。
「見事じゃリアム! 危なそうなら手を貸す予定じゃったが、いらぬ心配であった」
「ありがとうスカーレット。君が修行をつけてくれた成果だ」
褒めてくれたスカーレットに今までのお礼を述べると「ふふんっ」と得意気に薄い胸を張った。
「そ、そんなバカな……! リアムの奴はゴブリン一匹倒せないポーションを作るしか能がない男じゃなかったのか……!」
この親父、俺をそんな風に思っていやがったのか……!
俺が呆気に取られていると、スカーレットが前に出る。
「ふんっ! あまりリアムを舐めてくれるなよ。我の弟子なのだぞ。さて、店主よ。其方を護る者はもういない。今までリアムが売ったポーションの差額。耳をそろえ支払ってもらおうか」
「うぐっ……も、申し訳ございません! 新店舗建設で使ってしまいすぐにはお支払いできないのです!」
無理もない。王都の中央通りにこれだけの店舗を構えたんだ。その費用は相当な物だろう。
「なあ親父さん。何でこんな事したんだ? 俺を初めから騙していたのか?」
「本当にすまなかったリアム君。そのお嬢さんが言った通り君のポーションも初めは普通のポーションだったんだ。それがハイポーション、エクストラポーションと変わるうちに欲が出てしまった。頼むリアム君、見逃してくれ! 俺にはまだ小さな娘がいるんだ……!」
「ちょっ、やめてくれ親父さん! ……気持ちは充分伝わった。反省してくれるなら返済は少しずつ返してくれればいいよ」
店主の親父は地面に頭を擦り付けて謝罪してきた。
娘のために金が必要だった……か、俺も必死にチェルシーの薬代を稼いできたからその気持ちは痛いほどにわかるよ……。
「何を簡単に騙されておるのじゃ。こ奴は反省などしておらぬぞ」
「そっ、そんな事はない! 心から反省しています!」
「では店主よ。なぜ其方の顔は嗤っておるのだ?」
「なっ、身体がかってに……!」
スカーレットが指をクイッと上に曲げると、店主の顔も上に持ち上がる。
その顔には言葉通りの醜悪な笑みが張り付いていた。
「親父さんの気持ちはわかった……騎士団に連れていこう」
「それがいい。あの様子では娘がいる話も嘘じゃろう。こ奴には余罪もありそうじゃし、専門家に任せた方がいいじゃろう」
「なんでバレちまうんだよぉぉおおお!」
錬金術の応用で何でもできてしまうスカーレットによって、店主の嘘は簡単に見破られてしまった。
こうして俺のポーションの秘密が明かされた。今まで騙されていたのはかなり悔しいが、後の事は騎士団に任せよう。
俺たちは店主を拘束して騎士団の詰所に向かう事にした。