11.リアムのポーション
「しかし、俺のポーションの事なんて聞いて、あいつらいったい何がしたかったんだ?」
「リアムよ。そのポーションを見せてくれんか? 少し気になる事がある」
「ああ、構わないぜ」
ブレイドたちの行動を怪しんでいると、スカーレットが何か気付いたらしい。俺のポーションを見たいと口にする。
俺がポーションを手渡すと、スカーレットは受け取ったポーションに手を翳し魔力を当てた。
「なるほど……リアム、これは普通のポーションではない。エクストラポーションじゃ」
「はっ? エクストラポーションってあの傷に加えて魔力まで回復する最高級回復薬のか? そんなバカな……!」
「嘘ではない。我の錬金術で鑑定した結果じゃ」
錬金術って鑑定まで可能なのか……!
鑑定とは通常であれば商人系の職業のスキルである。それ以外の職業には使う事はできないはずだ。
でも俺のポーションは、
「だが、道具屋の親父さんには普通のポーションと鑑定されたぜ。どっちが正しいんだ?」
「このポーションが普通のポーションだと? ……早く道具屋に行くぞ。その親父に聞きたい事がある」
俺の言葉を聞いたスカーレットは顎に手を当て少し考える仕草をする。そして、何か思い当たる事があったのか、早く行くぞと急かすのだった。
王都の中心を走る中央通りには様々な店が立ち並び活気にあふれている。俺が馴染みにしている道具屋はそんな中央通りに位置する割と大きな店だ。
俺たちは中央通りを足早に進み、目的地の道具屋に到着した。
「ここがその道具屋か? 意外と大きい店じゃな」
「ああ、以前は裏通りの小さな店だったんだが儲かってるみたいでな、中央通りに引っ越したんだ」
「ふむ、とりあえず入ってみるかの」
店に入ると新しく建てただけあり綺麗な内装をしている。店内には冒険者風の客と従業員が数人いて、俺を見つけた店主が近づいてきた。
「やあ、いらっしゃいリアム君。今日もポーションの買い取りかな?」
「どうも親父さん。今日も頼むよ」
「ああ、それじゃあ奥の別室に行こうか」
俺がポーションを売りにきた時、親父さんはいつも別室に案内してくれる。スカーレットは疑ってるみたいだが、他の客の迷惑にならないようにと配慮してくれるいい店主だと思うんだけどな。
いつもの別室に案内された俺たちが席に着いたところで、持ってきた自作のポーションをテーブルに並べた。
「うん! いつも通り質のいいポーションだ! リアム君はお得意様だからな。今日は少し色を付けよう。一個銀貨二枚でどうだ?」
「本当か! ありがとう親父さん!」
俺の持ってきたポーションを鑑定のスキルで調べた親父さんが買取価格をサービスしてくれた。
通常のポーションが銀貨三枚で販売している事を考えると、買取価格でこれだけ出してくれる店はなかなかないぞ。
「何を喜んでおるのじゃ。このポーションなら本来金貨十枚はするぞ」
「――なっ、何だこの少女は……! いつからいたのだ……!」
今まで気配遮断のフードを被っていたスカーレットがフードを取る。気付いていなかった店主の親父さんは突然現れたスカーレットに驚きを見せるが、すぐに気を取り直して口を開いた。
「バカ言っちゃあいけないよお嬢さん。ポーションの買取価格が金貨十枚のわけがないだろう」
「其方こそバカを言うな。これは普通のポーションではなくエクストラポーションじゃろう?」
「何だと……私の職業は道具商人だ! その私が鑑定したのだぞ! 間違っているわけがないだろう!」
「残念ながら我も鑑定のスキルが使えるのだよ。恐らく初めてリアムが持ち込んだ時は普通のポーションだったのだろう。だが、錬金術師は同じスキルを使い続ければスキルレベルが向上しより上位の錬成が可能になる。其方はポーションの質が上がったにもかかわらず普通のポーションとして買取り、その差額で儲けを出して新しい店を建てた。違うか?」
俺は今まで錬金術でポーション作りしかしてこなかった。それが局所的なレベルアップに繋がっていたのか。
確かにこの店には王都でもこの店でしか売られていない、希少であり高価なエクストラポーションが売られている。しかし、それだけではまだ断定できない。
だが、スカーレットの言葉を聞いた店主の落ち着いた表情が徐々に変わっていく。
「貴様なぜそれを……! 知ってしまったからにはこのまま帰すわけにはいかん。先生お願いします!」
店主の親父が叫ぶと三人の男が乱暴に扉を開けて入ってくる。その中には先程店頭で見かけた冒険者風の男も含まれていた。
まさか用心棒? 親父さん……本当に俺を騙していたのか……!
「この人たちは何だよ? 騙してたなんて嘘だろ親父さん?」
俺の問いに店主は「ふんっ」と鼻で笑う。
「はっはっはっ! まだ気付かねえのか? 今までありがとよリアム。お前のおかげでたんまり稼がせてもらったぜ。んっ? 待てよ。殺さずに捕えれば大儲けだな。それによく見りゃ連れの女はとんでもねえ上玉じゃねえかよ。色々価値がありそうだ。こいつらは殺さずに捕えてください先生!」
店主は俺だけでなくスカーレットまでも捕らえようと、その下劣な本性を現す。
雇われた用心棒三人が店主の前に立ち身構えた。
「下衆が……! そんな事させるかよ!」
「リアム……お主は本当に良い男じゃな」
俺はスカーレットを庇うように前に出る。
これは俺の過去が招いた結果だ。これ以上スカーレットを巻き込みたくない。俺の自身の過去を清算する戦いなんだ。