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ep.5 たのしいがっこう?

はい。皆さんこんにちは。

今回のエピソードは、第2部ナルヤの章の初めの頃、ギルとルチアが軍大学に編入学した時のお話です。

本編では、ギルとルチアがあっさりと軍大学を主席および次席で卒業したとのみ書いて終わらせていたのですが、ふと・・・二人はいったい軍大学でどんなことをやっていたのだろう?と気になり始めました。

そんな偶然の思い付きから書き始めた1遍になります。

軍大学ですから、当然軍事教練だってあるでしょう。軍事演習では彼らは一体何をやらかすのか?

いざ書き始めてみるとなかなか面白い事になりました。(笑)

そう。

その結果は、彼こと軍事教練科指導教官エーリッヒ・フォン・シュリーフェンシュタイン教授にとっては、現場を見るまでもなく自明の理であったはずなのだ。

それだけに、彼には今自身の目の前に繰り広がれている戦場の光景が、今もって俄かには信じられなかった。

自身の教官生活の全精力を傾けて考案した、これまで実戦で絶対的無敵であったはずの全方位完全包囲網が、今や脆くも崩壊しつつあった。

それも包囲軍の半分の数にも満たない僅かな数の、更には14歳にも満たない二人の子供(こうほせい)が率いる中隊によって・・・。

先週末、二人の士官候補生が、突然軍幼年学校から"飛び級"で軍大学に編入学するとの通知を聞いた時、エーリッヒはニヤリと口角を上げたものだ。

確かに時代は、ごく偶然たまに世代を飛びぬけた驚くべき天才を生むことはある。

人類の進化の歴史が、確かにそれを証明している。

だから軍大学には"飛び級"と言う制度もあるのだが、しかしそういった連中はしばしば″頭でっかち″で、言わば世間知らずの若輩者たちだった。

彼らは確かに地頭は良いのだが、他の座学教科ならいざ知らず、こと軍事教練科と言う世界においては、例外なく現実と言う過酷に打ちのめされて来たのだ。

まあ、それを教えるのが軍大学の軍事教練科と言う、特殊かつ特別な教科の教育目的でもあるのだが・・・。

それだけにその二人の候補生、さらに言えばほんの子供に過ぎず未だ任官すらしていない彼らが、最初の自分の講義で異議を唱えたのには大変驚かされたものだ。

軍大学の歴史を振り返れば、時々彼らのような"飛び級"での編入学者の中には、身の程知らずの″跳ね返り″がごく稀にだがいることはある。

しかしそう言った者達には戦場の現実きょうくんで持って、そのお花畑的空想論を全て叩き潰してきたものであった。

まあ、所謂いわゆる指導教官による当然の教育的指導っていうヤツだ。

そしてその例に漏れた者は、過去ただの一人としていなかった。

それなのに・・・。それなのに・・・何故に?


それはこれより3日前の、ギルとルチアが軍大学に編入学した翌日の、1時限目の軍事教練科初級講義から始まった。

エーリッヒは、軍事教練科基礎編で、惑星陸上戦での最も基本的な常識について説明している。

「・・・従って、戦場においては攻勢する側は優勢な戦力比でもって、防御側を素早く包囲することが肝要となる。少なくとも3:1以上の戦力比で攻囲完成された防御側にはもはや逃れる術はない」

「包囲された防御側は以後は加速度的に消耗し、もし降伏しなければ遂には全滅に至る。・・・この戦術は光栄にも"シュリーフェンシュタイン攻囲の定理"と名づけられ、現代の全星系世界の陸戦においては常識となっている」

しかし、そこまでおとなしく講義を聞いていたはずのギルが、突然エーリッヒに疑問点を投げかける。

「シュリーフェンシュタイン教官!質問を少しいいですか?今説明された定理ですが、ボクの見るところ絶対的なものではありません。恐らく戦力比で言えば9:1以上でない限り、ここからの戦況を覆すことは可能と考えます」

たちまち教室は、勢いハチの巣をつついたような騒ぎと混乱に陥った。

「まさか!」「これって、過去からずっと戦場で実証されてきた常識だぞ?」「ありえない・・・。それが可能であれば、実際にお目にかかりたいぐらいだ!」

エーリッヒは(内心の驚きはさて置き)、指導教官らしく教室の喧騒を鎮める。

「諸君、静粛に!では・・・ガーランド候補生、君がこの定理は絶対的でないとする根拠は何かね?」

ギルは落ち着いて、淡々と自身の考えを披露する。

「この攻囲網は攻囲側が全軍で防御側全体を広く薄く包み込むため、防御側にとっては一時的に、局地的に数的有利な状況を作り出すことは十分可能と考えます。更に述べればこの攻囲陣は側面からの攻撃に弱点があります」

エーリッヒはギルの発言に戸惑いつつ、一つの指摘を行う。

「ガーランド候補生。この定理では既に攻囲網は完成しているのだ。絶対的な数で不利な中では、防御側に側面からの攻撃など行いようがないのだが?」

だがギルはどうしたことか、珍しく引き下がらない。

「はい。いいえシュリーフェンシュタイン教官。この攻囲陣には円運動による側面攻撃の可能性が考慮されていません。ボクが計算したところ、円運動での攻撃力は攻囲側1に対し防御側3と算出されます。攻囲側の被害は甚大なものとなります」

エーリッヒはさすがに呆れかえる。

そしてこいつも所詮は"頭でっかち"の机上の空論派だと、心の中で密かに看破する。

そこでもうここで議論を打ち切るべく、過去の戦場での実績で持って結論を述べる。

「・・・この定理は、過去の数多くの実戦で検証されているのだよ。ガーランド候補生・・・完全包囲された側が円運動にて対抗出来た事例はないし、私には到底可能だとは思わない」

ところがここで突然ながらルチアが、何やらネンヤからの入れ知恵を受けて、今更ながらの議論に参戦する。

「シュリーフェンシュタイン教官!あたしもこの攻囲陣への対抗手段はあると考えます。あたしなら小グループのアンドロイド兵集団を決死隊として正面の敵に対応させ、その他の全軍を遊軍として他方面での攻撃に参加させます」

「・・・」

流石のエーリッヒもこの乱入に言葉を失い、いきなり議論に参加した上で更には自身への異議を呈するルチアをまじまじと見つめる。

これ程までに新参の飛び級組の候補生達から、自身が生涯の研究をかけて考案した定理に異議を述べられて、さすがのエーリッヒも我慢の限界を超えた。

それは既に、エーリッヒにとっては明確な自身への侮辱以外の何物でもない。

これは自分の信念にかけて全否定し、絶対に叩き潰さなければならない案件だ。

例えその行為が・・・大人げないと他人に指さされようとも・・・。

「これは驚いた・・・ティベール候補生までもか。よろしい・・・そこまで君らがこの定理に疑問を呈するのであれば、果たしてこの定理は正しいのか否か、実戦演習にて実証するしかないだろう」

「元々これから3日後に、軍大学第一演習場での基礎軍事演習を予定していたところだ。では・・・ガーランド候補生とティベール候補生・・・その場で先ほど君らの言う戦術の正当性を証明してみたまえ。そうだな・・・攻囲側と防御側の戦力比は定理通りの3:1とする。演習参加戦力は、1個大隊(6個中隊)対2個中隊となるだろう」

「当然君たちは防御側を受け持つ。攻囲側は・・・ふむ、ミカエル大尉、君が指揮しなさい」

「演習班への準備連絡は私がしておく。演習ルールについては、君たちの端末宛通知しておくので確認しておくように。さて・・・君らもこれから色々と準備があるだろう。・・・本日はこれにて講義終了とする。皆解散!」

エーリッヒはそう告げて講義を終了させると、攻囲側を担当するミカエル大尉を自室に呼び、演習での具体的な戦術指示を授け始めた。


ミカエル・フォン・ミュンヒハウゼン大尉は、既に男爵位を持つシュリーフェンシュタイン教授のお気に入り学生であった。

これまでのところ、彼は今年度の軍大学の首席卒業生候補と目されていた。

もちろん指導教官エーリッヒの強力な後押しを受けてでもあったが・・・。

それで今回も・・・。

「またエーリッヒ教官、ミカエルに点数稼ぎをさせるつもりだな・・・」

エーリッヒにより繰り返される露骨な依怙贔屓に、既に辟易していた他の学生たちが、さすがに年齢的には幼年学校年代の子供に過ぎないギルとルチアを、気の毒そうに眺めつつ次々と声をかけてくる。

「気をつけろよ。・・・ミカエル大尉は遠慮会釈なく徹底的に君らを潰そうとしてくるぞ」

「あいつの別名は"死の大天使"と言う位だからな。それこそ無慈悲な殲滅戦を苛烈に仕掛けるのを得意としている」

「もし・・・君らがあいつに"ぎゃふん"と言わせることが出来たなら、それは俺たちも"ほら男爵"ざまあみろと、随分と気分がスカッとするんだろうがな」

因みに・・・"ほら男爵"とは、ミカエルの数代前の先祖に随分と面白い人物がいたそうで、虚実織り交ぜた大げさな自らの逸話を"ほら男爵の冒険"として広く出版した事があったのだ。

それにより、ミュンヒハウゼン男爵="ほら男爵"とも呼ばれるようになったのだが、当のミカエル自身は先祖のこのあだ名が大っ嫌いで、自分自身をそう呼ぼうものならものならひどく逆上して一層性格が狂暴になったと言う。

・・・とは言いつつも、声をかける誰もがこの演習での大番狂わせが起きるなど、これっぽっちも彼らに期待していなかったのが現実ではあったのだが・・・。

さて、軍大学に来て早々にいきなり問題を起こしたギルとルチアだったが・・・。

「どうしよう・・・。ちょっとした疑問を軽く質問したつもりだったんだけど・・・。ひょっとして教官、あれってマジ切れしてる?」

これはギル。

「あたしもネンヤが指摘するから、つい勢いで意見しちゃったけど、どうやらかなりまずかったのかも・・・」

そう応じるルチア。

「これって・・・あとからノエルに怒られる案件かな?」

恐る恐るルチアに尋ねるギル。

「だけど、お互いに間違ったこと言ったつもりはないし、もし指導教官側に問題があれば正すのもあたしたちの責任の範疇じゃない?」

またもや自信気なルチア。

「だよね!軍事演習はもう決まちゃったし、ボクたちが正しいことやる分には、ノエルもきっと文句言ったりしないよね?」

と少しだけ安心するギル。

「"仕方ないじゃん"と言うことで。もし・・・怒られるときはギルの担当でお願いね?」

ギルの口真似しながらルチア。

「なんでそうなるの!?」

驚愕の表情で反論するギル。

まあ・・・そう言ったやり取りを経て、ギルとルチアはベリルとネンヤと共に自分たちの戦術の再検討を行い、3日後の実戦演習に備えるのであった。


そうしてギルとルチアは、二人とも初めての軍事演習の当日を迎える。

軍大学第一演習場では既に両軍の展開が完了し、ギルとルチアの2個中隊への1個大隊(6個中隊)が包囲する陣形が完成していた。

天候は快晴で演習場には何一つとして障害物もなく、正しく純粋に軍事理論を実証する舞台が整っていた。

指導教官のエーリッヒが演習場全体に、本軍事演習でのルールを再確認の意味を兼ねて説明する。

「本演習では各中隊員全体を中隊長が直接指揮する。理論検証が目的であるため今回小隊は置かない。中隊長は攻囲軍6名、防御軍2名だ」

「それ以外の兵員はアンドロイド兵5機×5の25機で1個中隊を構成する。指揮官を含め各兵員は理論ダメージ値70%を超えた時点で全機能を停止する。実戦では破壊されたことになる」

「攻撃兵器はアンドロイド兵の標準兵装であるアサルトレーザーガンと電磁ブレードのみとする。もちろん全て演習モードなので演習で機体に実損害は発生しないが、理論的なダメージは戦場監視AIシステムで常時計算蓄積され、実戦と同様に各兵個々のパフォーマンスに反映される事になる」

「説明は・・・以上だが、特に質問はあるか?・・・よろしい今から15分後に演習開始とする。各軍は準備を!」

軍大学第一演習場には、前代未聞の演習実施の噂を聞いて、ほぼ軍大学の全教官及び全学生のがギャラリーとして集まっていた。

そして定刻になり、エーリッヒが宣言する。

「演習開始!」

ミカエル大尉が統率する攻囲側大隊は定石通り包囲の輪を徐々に縮めて、数の暴力で防御側中隊を揉み潰そうと一歩前進する。

そしてそれを受けた防御側では、今まで誰も見たこともない不思議な運動をいきなり始めた。

ルチアの中隊を演習場の真ん中に置き、ギルの中隊がその周りを高速で回転し始めた。

ミカエルは少しだけ戸惑ったものの、小手試しにとその回転する防御陣を一先ず突いてみる事にした。

ミカエルの命令により、攻囲側のアルファ中隊がその回転するギル中隊に軽く接触し、軽く攻撃を仕掛けた。

だが・・・攻撃したアルファ中隊は、たちまち流れる様な防御側ギル中隊からの横撃を受け、その渦の中に中隊ごと一気に飲み込まれた。

因みに・・・攻囲側アルファ中隊はアサルトレーザーガンを装備していたのだが、対する防御側ギル中隊の装備は電磁ブレードであった。

いきなり防御側の渦中に巻き込まれ、乱戦に持ち込まれたアルファ中隊は、次々と防御側電磁ブレードの餌食となる。

攻囲側アルファ中隊長がたまらず悲鳴を上げる。

「こちらアルファ中隊!敵軍に前後左右から揉まれて対応不能!既に中隊の半数が機能停止した!・・・このままだと全滅する!」

「アルファ中隊!残存兵力を纏め、直ちに戦域を離脱しろ!」

驚いたミカエルがアルファ中隊に脱出を指示したが、・・・ギル中隊の渦を脱出できた兵は1体としていなかった。

そして尚も、ギルの中隊は全く損失を出す事もなく、悠々とルチア中隊の周囲を高速回転している。

そこでルチアが、ギルに次の行動を促す。

「ギル。あいつらに攻めて来るよう挑発して!・・・そうしたらきっと上手くいく」

ギルがいやいやながら返答する。

「えーっ!アレをボクが言うの?・・・絶対後からまずいことになるって!」

しかし冷たく指示を繰り返すルチア。

「ギル。ネンヤに言われたとおりに・・・。つべこべ言わない!」

「・・・」

しばし無言のギル。

そして已む無く戦場全体に聞こえる様に、ミカエルを挑発したのだった。

「おーい!″ほら男爵″・・・聞いてますか?臆病な″ほら吹き″と呼ばれたくないなら・・・かかってこいや!」

・・・お決りの如く、ミカエルは瞬間に全身が沸騰して逆上した。

かわいそうにも、ルチアがそう望んだように・・・。

攻囲軍はいきなり戦力比が、3:1から5:2とされたのだが、既に逆上しているミカエルは、現時点の数的有利な状況を生かすべく一気呵成の大攻勢により敵中枢の徹底破壊を決意した。

「ベータ中隊、シータ中隊、デルタ中隊!防御軍中央に突撃!そして攻勢全中隊、近接武器を装備!」

攻囲軍3個中隊が、防御軍2個中隊に猛然と防御側本体目掛け白兵戦を仕掛ける。

その状況を俯瞰していたエーリッヒは、心に一抹の不安を覚える・・・。

「まだ攻勢に出るのは早くはないか?もっと時間を掛けて、防御側をじりじりと圧迫するようと事前に指示したはずなのに・・・」

それからの出来事だった・・・。

ギルの中隊は全軍を2個の集団に分割すると、その3個中隊による敵の突撃を、軽やかに躱しながら後ろにやり過ごし、その後いきなり反転して攻勢軍は迂回しつつ、正反対側に位置する残存2個中隊に襲い掛かった。

そして大攻勢に出た敵3個中隊の前には、小隊規模のルチアの兵員だけがポツンと、腰だめでアサルトレーザーガンを構えて待ち構えていた。

そして突撃してきた敵の近接武器を装備する兵を次々と狙撃していく・・・。

当然ながら近接武器を装備した兵が、敵に達するまでには相応の時間を要する。

その間も小隊規模の防御側狙撃兵は、攻囲軍を徐々にだが着実に削っていく。

勿論の事、攻囲軍も数を減らしながらも、遂に狙撃している防御側小隊に殺到した。

・・・なんせ攻勢に出たのは元々3個中隊規模なのだ。多少の損害などモノともしないはずだった。

だが・・・。

ルチアの狙撃小隊は、敵軍が到達する直前に身を翻して後方へ撤退していった。

そしてその更に後方には、別のルチアの狙撃小隊が同じく腰だめで待ち構え、続けて敵軍への狙撃を開始した。

・・・この後この戦域ではしばらくの間、そうしたルチアの狙撃小隊による防御的戦闘が繰り返されることになる・・・。

攻囲軍の主力が、ルチアの足止め小隊からの狙撃に手間取っている間、ギルの中隊は既に後方の残存2中隊相手に猛攻を加えていた。

なんせギルの中隊は2分割されているとは言え、高速回転の3:1と言う攻撃威力で持って敵2個中隊の正面を削っている。

隊の規模が半分であっても、攻撃力では未だ敵に対し優勢を保持していたのだ。

互いに逆方向に高速回転する二つの輪は、残る攻囲軍の中央部に強く押し当てられ、徐々にその正面を左右に押し分けつつあった・・・。

そこで・・・ギルとルチアがおもむろに意見交換する。

「そろそろ・・・頃合いじゃない?」

自信満々のルチア。

「そうだね・・・。じゃあお願いするよ」

同じく余裕で応じるギル。

「まっかせなさーい!わざわざお越しいただいたギャラリーの皆様に、ルチア風示現流の威力をお見せしちゃおうかな?」

気合十分のルチアが号令を出す。

「チェスト!」

そうして・・・敵攻囲軍の中央部目がけ、防衛軍の後方から怒涛の如く、ルチアの全軍が猛スピードで突撃して来た!

全軍が″トンボの構え″とでも言うのだろうか?電磁ブレードを右肩に構え、更には全員が"チェスト―!!!"と謎なる奇声を発しながら・・・。

・・・残る2個中隊の最後尾で指揮していたミカエルは、その初めて見る光景に何故か本能的に戦慄を禁じ得ない。

同じくエーリッヒも、長きに亘る教官生活を通しても、かつて見たこともない戦場の推移に戦慄していた・・・。

そして二人は言葉を同じくする・・・。

「「何だこれは・・・?何なんだこれは・・・?どうして・・・こうなると言うのだ・・・?」」

ルチアの全軍が、ギルの回転攻撃で随分と薄くなった攻囲軍中央部にぶち当たり、次の瞬間そのまま一気に敵の壁をぶち抜いた!

そしてその破れた攻囲網の穴からギルの中隊も次々と続けて流れ出し、そのままルチア中隊と共にミカエルのいる司令部の逆包囲を完成させた・・・。

「・・・勝負あった!これにて演習終了!演習終了!・・・本演習は・・・防御側の勝利だ・・・」

それこそ苦渋に満ちた、エーリッヒ・フォン・シュリーフェンシュタイン教授の敗北宣言であった。


次の瞬間、戦闘の推移を固唾を飲んで見つめていた、演習場外のギャラリー達教官も学生もその全員が大歓声を上げ、喜びを爆発させる!

「すっげー!定理が破られた・・・」「これ、どうしてこうなったのか、未だに解らない・・・」「いや凄いものを見せてもらった・・・。長生きはするもんじゃな・・・」

そして場内外からの繰り返される歓呼に、誇らしげに笑顔で手を振って応えるギルとルチア。

他方、ギル達による逆包囲の中央で、がっくりと項垂れて、大地に手をついて震えているミカエル・フォン・ミュンヒハウゼン大尉・・・。

本演習開始前までは、今年度の主席卒業間違いなしと、その地位を盤石としていたはずの彼が、一気にその候補外へと脆くも転落した瞬間であった。

そして軍大学での軍事演習実施のニュースは、瞬く間に軍令本部全体にも伝わった。

軍令本部参謀部の首脳たちが、バイオロイド運用部隊の持つポテンシャルに自信を深める中、ノエルとヴァネッサは互いに顔を見合わせ、深くため息を吐いた。

「・・・多分こうなる予感はあったんだ。あいつらは絶対に大人しくはしとけないって・・・」

「30年来の陸戦の定理を覆すですか・・・。あの子ら個人が持つ特殊能力だけでなく、部隊運用能力においても最先端にあるはずの軍大学を凌駕してたとは・・・」

「これであいつらは、こちらに戻り次第否応なく実戦に投入されるぞ・・・。オレ達もその覚悟であいつらと今後に当たらないとな・・・」

ノエルとヴァネッサは再び互いの顔を見合わせ、共にため息を吐きつつその額を押さえた。


軍事演習実施の2日後、次の軍事教練科での講義時間にて。

エーリッヒはかなり気落ちした様子で、ギルとルチアに演習での彼らが取った戦術についての説明を求めていた。

「・・・あの後、私は軍大学の戦術ライブラリーにて、諸君らの取った戦術について調べていたのだが、ついに何も判らなかった・・・」

「あれはいったいどのような戦術で、いったいどうやって君たちはあの戦術を考案したのかね?」

ギルが先ず二人を代表して、エーリッヒの質問に答える。

「はい教官。あの戦術はそもそも軍のライブラリーには登録されていません。新世紀第1期-惑星開拓時代以前から伝わる古代の戦記物にその概要記載を発見したのです」

ルチアが続けて説明する。

「それは古代の単一惑星時代、極東地方の″センゴク期″に一度だけ実戦で試された戦術です。偶然それを見つけたあたしとギルは、それを若干改良して現代の陸戦に応用してみたのです」

ギルが交代して説明を続ける。

「ボクが取った戦術は″車懸かりの陣″でルチアの取った戦術は″捨てがまりの陣″と呼び、どちらも数的劣勢にある側の一種の玉砕戦術ですが、実際に玉砕しても仕方がないので、そこは少しだけ改良しました」

「″車懸かり″は当時の武将″ケンシン″が″シンゲン″に対して仕掛けたとあり、回転運動による強力な連続横撃と一点突破に特徴がありますが、当時は攻撃する兵の持久力に問題があり長時間の攻勢継続が出来ませんでした」

ルチアが次いで発言する。

「″捨てがまり″はほぼ同じ時代、″サツマ″なる兵が″セキガハラの敗戦″に於いて、少数の決死隊を後方に点在させながら、その間に逆方向に突撃し敵中突破を果たした事例を参考にしています。ただ置き去りされた兵のほとんどは全滅し、実際にはほんの少数しか生還できなかったとあります」

またギルが話を元に戻す。

「どちらも短期決戦でしか通用しない戦術です。ミカエル大尉には・・・大変失礼な挑発までして攻め急がせたことを実は恥ずかしく思っています。

なので・・・シュリーフェンシュタイン教官。ボク達は決して定理を破ったなどと自惚れているわけではなく、ある一定の条件下では、少数となる防御側であっても対抗手段がある事を示したかっただけなのです」

「そして過去の実戦に於いて、数的不利な防御側が包囲を破った事例がないのは、多くは包囲が完成した瞬間に防御側が抵抗を諦めてしまったせいではないかと考えます。・・・おそらくは″戦場の定理″と言う言葉が独り歩きし、防御側の心が折れたのではないのかと・・・」

ギルとルチアの説明が終わった。

聞き終わったエーリッヒ・フォン・シュリーフェンシュタイン教授は、静かに拍手を始めた。

教室の全員が続いてそれに倣った。そしてあのミカエル大尉までもが笑顔だった・・・。

そしてエーリッヒはにこやかに何度も頷きながら、ギルとルチア、そして教室の全員を見渡し話しかけたのだ。

「実に有意義な軍事演習だった!どんな軍事的定理にも改善点と対抗手段を講じる余地がある事を、この二人は改めて我々に教えてくれたのだ」

「学生諸君も今回の戦訓を生かして、さらなる戦術開発に勤しむことを期待する。そしてこの私もそれに遅れを取るつもりはない!」


こうして他の全ての教科でも教官たちの驚嘆を奪ったギルとルチアは、3か月後に軍大学開校以来の最高成績で以って、主席および次席として見事卒業を果たしたのであった。

如何でしたか?ギルとルチアの軍事教練科以外の話も書いてみたかったのですが、それをやるとさすがに別のシリーズものになりそうで、今回は自重した次第です。

また何か思いついた時、それらにも触れてみたいと思います。

では。

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