ハルコネンと最後の挨拶
おやおや・・・。暫くほったらかしにしたせいで、未完扱いされてました・・・。(笑)
それはさて置き・・・。
シリーズ本編では、アレックにナレ死させたハルコネンさんですが、そのいきさつは結構前に書き留めていました。
ただ、どうも本編の置き場に困ったと言うか、雰囲気が合わなすぎるので、本編の完了を待ってここに持ってきたという訳です。
みなさまのご感想はいかがですか?
私の中ではハルコネンさんは、結構面白い大事なキャラなのです。
ドラコ大公領星系軍参謀部情報局指令室にて
ハルコネン情報局長は興奮していた。
待ちに待った、千載一隅のチャンスが訪れたのだ。
「その情報に間違いはないのか?」
尋ねる相手は、勿論自身の片腕である"芙蓉"であった。
「ええ。間違いはございません。ローリエ准将とヴァネッサ辺境伯太女は、ミナス・アノールに向け出立します」
"芙蓉"は落ち着き払ってハルコネンに答える。
「その最終的な行き先は、アカデミーが発見したと言うロストコロニー"ミドガルド"で間違いないか?」
「その通りです。そこでは既にメロヴィングの誘導で、マリーエンブルクの特殊兵器達が活動中です。ローリエ准将等はそこに赴きます」
ハルコネンの念押しに、"芙蓉"は自信たっぷりに答える。
「ローリエ准将ら自ら向かわざるを得ない、特別な事情が発生したと思われます。マリーエンブルクのエージェントが帝国アカデミーで活動した形跡が見られました。
その後慌ただしく、彼らの搭乗する艦隊の出立準備が進められていることが、我が方のエージェントにより確認されています」
ハルコネンは芙蓉に尋ねる。
「彼らはまさか、艦隊を引き連れて"ミドガルド"に向かうつもりではあるまい?」
芙蓉は同意する。
「ローリエ准将の性格からすれば、おそらく艦隊から離れ単機急行するかと・・・」
ハルコネンはにんまりとその口角を上げる。
「・・・では、我々は急行する彼らを、途中で待ち受けて罠に嵌めれば良いだけだ」
その時、"芙蓉"の胸の花飾りが微かに点滅する。
"芙蓉"がハルコネンに断りを入れる。
「"お召し"がありました・・・。これにて失礼をば・・・」
ハルコネンは鷹揚に頷く。
「ああ・・・。お前にとっての大切な"お勤め"だものな・・・。"芙蓉"・・・いや、"ポンパドール侯爵夫人"」
ドラコの敏腕エージェントである"芙蓉"は、実のところ・・・もう一つ別の顔を持っていた。
"ポンパドール侯爵夫人"・・・ドラコ大公ウラジーミルの愛人である。
彼女は平民の生まれであったが、その才覚と美貌で持って世の多くの男性を虜にしたのと同様に、ウラジーミル大公の愛人の座に収まったのだ。
ハルコネンは、部下のエージェント"芙蓉"がその座に就くのは何かと都合が良かったので、これまでずっとその手助けをしていたのであったのだが・・・。
・・・・・
"芙蓉"・・・ポンパドール侯爵夫人はハルコネンがいたその部屋を後にし、暫く後にウラジーミル大公の待つ秘密の部屋へと赴く。
その部屋で独り待ち構えていたドラコ大公ウラジーミルは、すぐさまポンパドール侯爵夫人に尋ねる。
「その情報に間違いはないのか?」
ハルコネンから受けたのと偶然にも"同じ問い"に、ポンパドール侯爵夫人は落ち着いて答える。
「ええ。間違いはございません。昨夜未遂に終わった殿下への襲撃命令を密かに下したのは、ハルコネン局長です・・・」
ウラジーミルは驚きながら・・・ポンパドール侯爵夫人へ問いを重ねる。
「何故にハルコネンが我に反逆する?・・・いったい何の不満があったと言うのだ?」
ポンパドール侯爵夫人は静かに指摘する。
「混乱に落ちつつあるプトレマイス領への対応についての、殿下とハルコネン局長との意見の相違です」
「・・・」
ウラジーミルは絶句する。
ドラコ星系軍内部では、緊迫度を増すプトレマイス領の情勢への対応について、意見が真っ二つに割れていた。
一派は永年の宿敵であるプトレマイス内戦への即時介入を主張し、もう一派はそれよりも現在勢力を大きく拡大しつつあるマリーエンブルク領への対処を主張している。
どちらの主張も、最終的には強大なマリーエンブルク領に対抗すると言う・・・究極的な目的は同じであった。
しかし、片方はその為にはプトレマイス領をこの機会に一気に飲み込み、今のうちに自領の勢力を拡大させる事が急務であるとしたが、
他方は新たな紛争介入よりも、マリーエンブルクの勢力拡大阻止のためには、敵主要人物を排除する策略実施がよほど有効だと訴えていたのだ。
「殿下はジェラール殿亡きプトレマイス領への即時介入を支持されましたが、ハルコネン局長はそれに反対しマリーエンブルク領への対応優先をずっと主張されています」
ウラジーミルは問う。
「・・・何故にハルコネンは、マリーエンブルクにそこまで頑なに拘るのだ?」
ポンパドール侯爵夫人はその理由説明をする。
「・・・私怨です。・・・殿下は先のロスロリエン遭遇戦での第3レギオン喪失と、故ウルク少将の"自死"を覚えていらっしゃいますでしょう?」
ウラジーミルは不思議そうに問い返す。
「それがどうしたのだ?"信賞必罰はドラコの習い"ではないか?"成功には褒章を失敗には死を"。・・・ずっと昔から変わらぬ我が領の決りではないか?」
そこでポンパドール侯爵夫人は、ウラジーミルが驚くべき告発をする。
「ハルコネン局長と故ウルク少将は"特別な"・・・関係だったのです。あのこと以来ハルコネン局長は、マリーエンブルクにずっと恨みを抱いています・・・。ひょっとしたら殿下にさえも・・・」
ウラジーミルは自身初めて知ったその情報に驚きの声を上げる。
「何と!その様な"個人的"な恨みであると・・・。では、ハルコネンのプトレマイス領介入への反対とは・・・?」
これもポンパドール侯爵夫人は理路整然と説明する。
「ハルコネン局長はプトレマイス領介入で得られる利益よりも、むしろ介入の結果マリーエンブルク領への復讐の機会が失われる事態を怖れています。
・・・殿下は、ハルコネン局長の反対意見に同調した主要な顔ぶれを覚えていらっしゃいますか?」
ウラジーミルはその会議の席を思い出しながらその名前を上げる。
「モロトフ軍令長官とペレグリン皇太子だった・・・」
彼女は冷酷に告げる。
「そのお二人とも・・・既にハルコネン局長派です。万一・・・殿下がいらっしゃらなければ、ドラコ星系軍の大勢は、すぐさまハルコネン局長派に傾くでしょう・・・」
「・・・」
ウラジーミルは何やら思いを巡らせている。
・・・そしてポンパドール侯爵夫人に命じた。
「親衛隊長官を呼べ!」
・・・・・
ハルコネンは、ようやくマリーエンブルク星系軍の救援部隊襲撃計画を完成させていた。
「・・・この襲撃から逃れる術はない。彼らが艦隊全体で来ない限りは・・・。しかし連中はきっと単独で来るだろう・・・」
ハルコネンは独りほくそ笑む。
「これで君と私の復讐は成就すると言う訳だ・・・。ようやく私も、君に対して胸を張って顔向けが出来ると言うもんだ・・・」
それは、ハルコネンがマリーエンブルクへの襲撃作戦計画書を、ドラコ星系軍の戦術AIに保存するほんの少し前であった。
突然、ハルコネンの情報局指令室をノックする音が聞こえた。
そして・・・次にその部屋に、大公親衛隊の2個小隊が雪崩れ込んだ。
大公親衛隊少佐がハルコネンに対して告げる。
「ハルコネン閣下に逮捕状が出ております。容疑は・・・大公反逆罪です。直ちに我々とのご同行を願います」
ハルコネンは驚いて親衛隊少佐に聞き返す。
「・・・大公反逆罪?・・・言われる意味がわからないが・・・?」
「これは大公殿下直々のご命令書です。昨夜、複数名のクローン兵が大公殿下の宮殿に侵入し、大公殿下とそのご家族に危害を加えようとしました。
幸いにもその襲撃は未然に防ぎましたが、襲撃を企てた残る生存者を尋問した結果、・・・誠に遺憾ながら・・・その襲撃は閣下のご命令であったことが既に判明しております」
ハルコネンは驚愕する。
「まさか!いったい何の証拠があって・・・ ・・・ ・・・!」
突然ハルコネンの脳裏に・・・"芙蓉"の姿が浮かび上がる・・・。
そこでハルコネンは事の真相を・・・ようやく理解する。
その証拠は、"芙蓉"によって疑問の余地がないほど予め準備されていたのだと・・・。
それこそ、リー大佐とマリエンブルクの新兵器喪失の記録と同じように・・・。
ようやくハルコネンが、"芙蓉"こと"ポンパドール侯爵夫人"が・・・自身とドラコ大公の"ダブルエージェント"であり、更にはマリーエンブルク領との"トリプルエージェント"であったことを理解する・・・。
「なるほど・・・な。これはしてやられたと言うべきだ・・・。離間の計を・・・そのまま自分自身に返されたと言う訳だ・・・」
ハルコネンはこれを仕組んだ競争相手の手際の良さを、敵ながら・・・天晴だと思う。
出来る事ならば、・・・一度会って話しをしてみたかったとも・・・思う。
もし、互いに別の世界にあったならば・・・恐らく友人ともなれたであろう彼と・・・。
「少佐・・・。もうすぐ持病の治療薬を飲む時間だ。・・・大公殿下はお許しになるだろうか?」
親衛隊少佐は、目を伏せて答える。
「大公殿下からは、"彼が望むならそれを叶えるように"と・・・。"それが貴族たる作法であるからには"と・・・」
それでハルコネンは、キャビネットから一つのグラスを取り出し、そこにお気に入りのワインを注ぎつつ・・・机の奥から取り出した1個のカプセルを、そのグラスへと・・・落とした。
それこそ抗弁なんぞは・・・単なる時間の無駄だと、ハルコネンはとうに知っている・・・。
何と言っても・・・ここは"ドラコ領"なのだから・・・。
「わが友ウルクよ・・・。君にこんなに早く会いに行くことになろうとはな・・・」
それがグラスのワインを飲み干した、ハルコネンの最後の言葉であった・・・。
"芙蓉"ことポンパドール侯爵夫人は、マリーエンブルクに向かう快速艇の中で独り寛いでいた。
それはハルコネンが予め準備していた、"芙蓉"のためのマリーエンブルク領へのいつもの侵入手段である。
ドラコ領では、ドラコ大公の号令の下プトレマイス内戦への武力介入を決定し、ドラコ星系軍の主要軍団はプトレマイスとの境界領域を今や犯しつつある。
だが・・・。
結論から言えば、このプトレマイス領への武力介入は上手く行かない・・・。
・・・どこかの"誰か"のせいで、ドラコ星系軍の介入情報が・・・プトレマイス領に漏れていたのだ。
プトレマイス星系軍は内戦状況を一時棚上げし、ドラコにとっては想定外な事に・・・プトレマイス星系軍一団となってドラコ星系軍に対抗して来た。
プトレマイス領で相争う後継者たちも、"誰かの警告"により、今のこの状況でドラコの武力介入を許す意味を十分に理解していたのだった・・・。
ドラコ・プトレマイス境界領域は・・・完全に両者による泥沼の全面紛争領域となり、もはや両軍とも容易には抜け出せなくなってしまっていた・・・。
それこそ・・・、かつてハルコネンが反対意見の理由として、そうなる可能性を示唆していたように・・・。
"芙蓉"は快速艇の機内で、ひとり静かにワイングラスを口に含む。
「もう・・・"ポンパドール"の名も要りませんね・・・。さて、マリーエンブルクでは"どんな名"に致しましょうか・・・?」
「・・・わたくしも、少しは・・・アレックさまのご期待に添えましたでしょうか?またお会い出来るのが楽しみですわ・・・」
「そして・・・ハルコネンさま・・・。少しは・・・驚いて頂けましたでしょうか?・・・所詮わたくし共は・・・この様な存在なのです。
心より・・・ご冥福をお祈りします。どうぞ安らかにお眠りください・・・」
ワインを飲み終えた"芙蓉"はクローン室に向かい、マリーエンブルク領への時空転移に備える。
そうして・・・彼女が乗る快速艇は、静かに"時空の裂け目"の中に消えた・・・。
この編の主役はハルコネンさんと言うよりも、芙蓉さんであったかもしれません。
彼女もいろいろと面白いキャラに育ちました。
せっかくここまで育ったので、彼女は多分ハルコネンさんの遺志を継いで、ご活躍されることでしょう。
アレックと組み合わせると、どんな話ができるのか?
それはそれで楽しみではあります。
(まだなにも考えていません。悪しからず 笑)




