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ノエルが準貴族になった訳ですが

思いつきで書いたものの、既にある置き場が見つからず、やむなく新しい置き場を作りました。

たぶん、今書いてるシリーズを公開するまでのつなぎになるかも知れません。

ストーリーの整合性には自分なりに気を配っているので、シリーズ物は一通り完成するまでは表に出しません。

と言うことで、取り敢えず支障のないエピソードを公開してみました。

それは士官食堂での、こんな雑談のような会話から始まった。

「少佐殿・・・。少し個人的な事をお尋ねしてもよろしいでしょうか・・・?」

ヴァネッサが口ごもりながら、おずおずと尋ねてきた。

(珍しいことだな・・・)ノエルは少しだけ驚きながら思う。

ノエルが少佐に昇進し、ヴァネッサが副官に付けられてから半年程経った頃だった。

生粋の貴族だったヴァネッサがノエルの元に赴任した頃、彼女は執務以外の時間では露骨にノエルを無視していた。

「なんだい?ノルトライン中尉?」

そんな内心はおくびにも出さず、気安く応じるノエル。

ノエルのフレンドリーな態度に安心したのか、ヴァネッサが思い切って本題を切り出す。

「その・・・。少佐殿が準貴族になられた経緯が、少しだけ不思議なのですが・・・。大変失礼ながら、少佐殿には有力な後見者もいらっしゃらず、ご実家が特別ご裕福な訳でも無いご様子で・・・」

「その・・・。準貴族の地位を得るのは、普通の平民では大変な経済的負担があると聞いていたのですが・・・」

かなり遠慮しがちにヴァネッサが言葉を連ねる。

「そうだね。オレの今の給与でも、あの金を作ろうと思えば20年以上はかかるだろうな。当時は特別な金づるも無かったしね」

ノエルが彼女の疑念を、ごく当たり前の様に笑顔で肯定する。

「ならば・・・どのような経緯で少佐殿はお金を作られたのでしょう?」

ヴァネッサが本当に不思議と聞いてくる。

ノエルが準貴族の地位をお金で買ったのは、およそ8年前で当時彼はまだ23歳の若造に過ぎなかった。

そのころのノエルは、軍属の技術職として軍関連の研究所で働いていたのだが、同時にこのままでは将来が開けないことも理解していた。

「そうだね。あの始まりはこんな事だったかな・・・?」

それでノエルは当時の出来事を思い出しながら、ヴァネッサにその経緯を説明しだした。


あの日は真夏の特別に暑い日だった。

たまたま昼休みに研究所の外に出たノエルは、すぐに強い喉の乾きを覚えた。

近くの路上でアイスクリームの移動販売車両を見つけたノエルは、ごく普通にコーヒーフロートを注文したのだった。

ノエルはたった一人だったのに、何を勘違いしたのか移動販売車両の店主はストロー・スプーンを2本付けて来た。

一人で2本のストローは必要ない。ノエルはもう一本はポケットにいれて、すぐ近くにあった公園へと歩いて行ったのだった。

公園に入るとすぐ近くのベンチに、綺麗な服を着た幼い女の子が座っていて泣いていた。

傍らには宥めながらもおろおろする、付き人らしき女性がひとり。

(お貴族さまかな・・・?)ノエルは女の子を観察する。

女の子の手にはアイスクリームのカップがあって、足下にはスプーンが落ちていた。

事情を察したノエルは、何の気なしに女の子へやさしく声を掛けた。

「お嬢さん、大変でしたね。たまたま私はスプーンをもう一本持っていますが、いかがですか?」

女の子はノエルからスプーンを受け取り、アイスクリームを口に入れて満面の笑みを浮かべた。

「何ともご親切にありがとうございます。たいへん助かりました」

お付きの女性が、女の子に代わって礼を述べる。

そのまま立ち去ろうとしたノエルだったが、付き人の女性が呼び止める。

「イエイツ家の者が人様から親切を受けて、そのままお帰しするなど許されません。大変失礼とは存じますがこれをお渡しさせて下さい」

彼女が渡したのは、イエイツ家の家紋が刺繍された綺麗なハンカチだった。


二人と別れて別のベンチに向かったノエルだったが、今度は隣の広場で泣いている男の子を見つけた。

(今日はよく泣いた子と出会う日だな)そんな事を思いながら、男の子に近づく。

男の子は転んで膝小僧をひどく擦りむき泣いていたのだった。

ノエルはまた何の気なしに、先ほどもらったハンカチを取り出し、男の子の傷に包帯をしてあげた。

すぐに男の子の母親らしき女性が飛んできた。どうやらこの近くにある裕福な商家の家族である様子だった。

そう言えば男の子も小綺麗な服を着ている。

母親はノエルに何度もお礼を述べ、何かお返しをしたいと言った。

ノエルは遠慮するのだが、相手はなかなか引き下がらない。

根負けしたノエルは、遂に自分の名前と勤務先を伝えたのだった。


翌日、ノエルの職場に昨日の商家から食事会への招待状が届いた。

断るのも何か角が立ちそうな気がしたノエルは、素直にお呼ばれに応じることにしたのだった。

商家を尋ねると、主人自らびっくりするほど盛大に歓迎をしてくれた。

(・・・ん?・・・何か勘違いされてないだろうか?)

やはり勘違いがあった。商家の主人は息子が巻いていたハンカチの紋章を見て、ノエルを貴族だと思ったのだった。

誤解を解いたノエルであったが、商家の主人は尚もノエルへのお礼をしたいと言う。

「これは既にこちらで準備したものです。どうかこのままお受け取り下さい」

渡された物は、精巧な作りの高価そうな懐中時計だった。

懐中時計の裏側にはノエルの名前がしっかりと刻まれていた。


商家ですっかりくつろいだノエルは、ずいぶんと遅くなってから商家をお暇した。

商家の主人は自宅まで送ると申し出たが、さすがにそれは辞退した。

100メートルも歩けば、すぐコミューターの駅があったからだ。

駅に向かって歩き始め街角を曲がってすぐ、ノエルは突然4人の暴漢に囲まれた。

はっきり言って、ノエルに武術の嗜みはこれっぽっちも無い。

こんな時に抵抗すれば、ろくな目に遭わないこともよく理解している。

それでノエルは要求されるままに、めぼしい所持品をそのまま渡したのだった。

財布どころか、もらったばかりの懐中時計も奪われた。

暴漢が暗がりに消えた後、一文無しになったノエルはとぼとぼと自分のアパートに歩いて帰る。

(やれやれ・・・。終わってみれば散々な一日だったかな。・・・しかしまあ、金は無くしたが心は少しだけ豊かになったかも・・・)

人間万事塞翁が馬・・・。禍福は糾える縄の如し・・・。

そんな風に自分を慰めて、その夜はおとなしく自室に休むノエルだった。


翌朝早く、部屋のインターホンが鳴る。相手は内務局の警務官だった。

曰く、昨夜強盗を検挙したが、そいつらの所持品の中にノエルの物があったそうだ。

職場に遅れるとの連絡を入れたノエルは、内務局の拠点オフィスにて自身の持ち物の返却を受けた。

財布の中身もそのままあったし、懐中時計も無事戻ってきた。

何でも懐中時計に刻まれた名前で、ノエルの持ち物だと判明したのだそうだ。

その懐中時計であったが、何故かノエルの知らない紙包みに覆われていた。

調べると、紙包みは政府の懸賞金付ジャンク債の購入済み証券だった。

懸賞金付ジャンク債とは、分かりやすく言えば宝くじだ。

星系軍が戦費調達の為に、広く民間に安価な価格でバラマいている。

まあ、建前である懸賞金が当たる確率は天文学数値的に低いのだが。

ノエルは自分の物でないと申し出たのだが、面倒を嫌った警務官は強引にノエルの物として、ジャンク債の購入者登録をしてしまった。

所詮は紙切れ一枚だとは応対した警務官の弁。

ノエルは財布と時計が戻った幸運に感謝したが、ジャンク債の事は綺麗さっぱり忘れてしまっていた。

そしてその一月後、財務局からノエルに一本の連絡が入る。

なんと!ジャンク債の懸賞金が当選してしまったのだった・・・。

それも最高額で・・・。確率的には100億分の1の幸運だとの事であった・・・。

一夜にして巨万の富を得たノエルは、そのお金で準貴族の地位を買い、士官学校へ入学したのだった。


「・・・とまあ、実はこう言う次第なのさ。全く望外の幸運で、オレ自身びっくりなんだけどね」

ノエルが少し恥ずかしそうに、長い話を締めくくった。

ヴァネッサは、もうあんぐりとして言葉もなかった。

(・・・わらしべ長者かーーー!!!!!)

心の中で盛大に突っ込んだヴァネッサだったが、ふと改めてノエルのことについて考え直す。

・・・確かにこれは”塞翁が馬”だろう。

結果だけを見れば、ノエルはあり得ない幸運を偶然掴んだだけの様に思える。

しかし、その幸運を掴むに至る前提となる行為があり、その行為の先の出会いを生かせたからこそ、呼び込めた幸運でもある。

言ってみれば、ノエルは稀に見る”出会いの達人”なのかも知れない・・・。

彼は本当に希有な出会いを生かして、これまでも自らの運命を切り開いて来たのだろう・・・。

「少佐殿・・・。その懐中時計は今もお持ちですか?」

ヴァネッサが尋ね、ノエルが曰く付きの懐中時計を手渡す。

「まあ、オレのお守りみたいなもんかな?」ノエルが今も恥ずかしそうに笑っている。

精巧な細工の懐中時計は、ヴァネッサの目から見ても値打ち品だと判った。

静かにゆっくりと懐中時計を観察し、ノエルに視線を戻してから時計を返却する。

その懐中時計は、まるでノエルの将来を保証するかの如く輝いていた。


後から思うならば、多分ヴァネッサはこの時初めて、ノエルと言う人物に興味を覚えたのかも知れない。

公開した作品を読み返してみて、平民が(なんちゃって)貴族になる経緯が抜けていたことに気づきました。

でも、その経緯は初めから自分の頭の中にはあったものでした。

ここでは、その発想を自身が思うままに文章に落としてみました。(笑)

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