表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雪だるまの灯

作者: ふるぼし

以前に投稿した「星空のティータイム」を

『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』

の応募用に修正したものです。


過去テーマのワードはタイトルの他、本文中に全て入れてみました。

文字数制限とワードの関係で、空気感が少しリアルになったと思っています。


全く制限なしで書いた「星空のティータイム」と読み比べてみて貰えると嬉しいです。

 手探りで玄関の電気を点けて鍵を閉め、部屋を密室にしてから大きく溜息をついた。

 賃貸マンションの8階にある1LDK。それがこの街での私の居場所。


「新入社員なのに豪華だよね」

 入居直後に遊びに来た友人の意見。まあねと苦笑いしたあの日はもう7年も前だ。

 この部屋には街の夜景と広いベランダが付いている。家賃は少し高いけど。


 靴を脱ぐとまず目に飛び込んでくるのは、カセットテープ柄の玄関マット。

 サーファーだった元彼の置き土産で、視界に入る度に私の時計をあの頃に巻き戻そうとする。

 捨てる気ではいたが、まだそのままになっていた。


 私は帰宅後のルーティーンに入る。

 部屋着のTシャツとショートパンツに着替えてお湯を沸かす。

 鏡を見ながら手早く化粧を落とすと、棚からお茶セットを取り出してテーブルに並べ、その真ん中に先月から愛用している藍色の天目茶碗を置いた。



 一か月前。

 営業成績が三ヵ月連続トップという映画のようなハットトリックを決めたのは、以前私の助手をしていた2つ下の後輩。

 初月は偶然。次月は運の良さ。そう自分を納得させていた。

 でも三か月も続くと彼女の実力と認めるしかない。

 サイコロを3回振って全部6を出すのが難しいことは誰でも知っている。


 そんな日の帰宅途中。

 お味噌汁用の味噌を買いに立ち寄った大きな交差点にあるデパート。

 そこで開催中だった茶道具即売会で並べられていた、藍色の天目茶碗に私は心を奪われてしまう。

 深い藍色に星のような白い模様。

 オーパーツを彷彿とさせるその茶碗には、15万円の値札が付けられていた。

 無理すれば私にも買える値段。

 逆に言えば無理しないと買えない値段。

 そんな絶妙の価格設定を乗り越えて私はその茶碗を手に入れた。



 ネットで勉強した茶道は3日で挫折し、私独自の方法に変える。

 茶杓ではなくスプーンを使う。

 お湯は柄杓ではなく直接注ぐ。

 安物の茶筅で適当にかき混ぜて泡立てる。

 お茶請けはお菓子ではなくチョコレート。

 飲むのはベランダに置いたテーブルと椅子。

 雪だるま形のキャンドルを灯すと、そこはお気に入りの空間になった。


 今夜は風が冷たいけど、夜空の星と街の夜景はいつも以上に美しい。

 その隙間に茶碗を持ち上げて色を重ねるのも私独自の作法。

 夜景に照らされた夜空の境目に、藍色が重なる風景が心地よい。

 抹茶を口に含むと優しい香りが心まで伝わっていく。


 今日も悲しい事が多かった。

 でもこんな夜があるならそれも、何とかしていけそうだ。

「星空のティータイム」との読んだ感じの違いなど。

感想をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ