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61.この家(洞)、まだまだ広く使えるな

「目が冴えたか? エドガー」


「あ……はい」


 治療をしたとはいえ、火力過大により団員を傷つけたマリナを諌め、次はエドガーを目の前に座らせ反省を促すニルスだった。


「いいか、自信を持つことは良い事だ。それがなければ戦うことなんてままならないからな。だが、過信はその身を滅ぼす。エドガーがしたのは警戒や細心の注意を怠った末の、相手の策に溺れる愚弄な行いだ」


 いつもの、少し格が高いだけの魔物相手ならば通用したのかもしれない。だが人と闘争する場合は極めて冷静な判断が必要なのだ。それが格上ならば言わずもがなである。


「エドガーは強力な技を使えば何者にも負けない、そう思ったのかもしれないがそれは間違いだ。扱う者も同等の力を持っていなければ力に振り回されるばかりだ」


「僕には、まだ足りなかったと言うことですか」


「厳しいことを言うようだが、その通りだな。……まあ、修行はまだ終わってないってだけなんだけどな」


 ニルスは自身の伝授した半端な力に責任を感じていた。それ故に彼らから目を離すわけにはいかず、今後も修行を続けることを公然と示したのである。


「……すみません、ご迷惑をおかけしました」


「兄さんってそういう話することあるんだね」


「しっかり兄を務めているようで何よりだ」


「まあ、ユーリには言う必要がなかったからな」


 ユーリが年長者として振る舞うニルスの姿を見て半ば感心し、スティードがそれに続く。

 ユーリはユーリで自立しており、気をかける必要があまり無かったのである。実際に、ニルスがいないときは家長の役目を担っていた。


「ふむ、どうやら彼らに必要なのは力の上下関係を徹底的に分からせることのようですね。いいでしょう、その役目、私達が引き受けますよ」


「あまり頼りたくない相手だが、講師としては申し分ないか」


「当然です」


 ニルスの言葉にマリナは得意げである。もはやその様子を微笑ましげに見守る一同。


「よし、非公式になるが赤等級として依頼を出そう。成功報酬は応相談ってことで」


「では、ニルスの力の秘密について教えてください」


 そうマリナが告げると、アシュレイが身を乗り出して「私も知りたい」と名乗りを上げた。

 横でユーリに「姉さんは誰よりも知ってるでしょ」と呆れられながら。


「秘密かどうかは知らないがサラやエドガーに教えたようにならできるかな」


「それでいいでしょう。交渉成立です」


 かくしてマリナ、そしてマリナに顎で使われるレオンス達に教えを乞うことになった彼らだが、そこには強者に一方的に弄ばれる構図の何かがあるだけなのであった。




「さて、落ち着いたところで今後について話し合おうよ」


 部屋割や家事全般の当番を決め、旅行気分で賑やかにやっていると、ユーリが空気を切り替える。


「ああ、そうしようか」


「うん。現状、僕達の動向は三つに分けられると思う。兄さんの剣を探す旅、魔王を倒す旅、そして盗賊団としての活動。これらは並行してできるから、兄さんのを主目的として行動を進めるのがいいと思うんだけど、どうかな?」


 ユーリの言葉に、ニルスだけが頷く。そこへアシュレイが一言、


「さり気なく魔王を入れない。それはユーリの目的」


「僕は各々の意を汲んだだけだよ。僕のは目処は立ってるから後回しでもいいんだけどね」


 アシュレイは咎めつつも、義弟のために協力は惜しまないつもりだった。そしてそれは、ニルスや他の面々も同じである。


「俺こそ別に苦労してないし、剣は後回しでいいんだが――」


「だめ」


 ニルスが次いで譲歩しようとすると、アシュレイが即座に否決する。彼女のただならぬ雰囲気に圧され、ニルスは「皆からの同意がもらえるなら」とユーリの案で手を打つことにした。

 もちろん、この場でリーダーの意向に異を唱える者はいないのだった。


「そんじゃ、ニルスの剣を見つけるってことで、具体的にはどう動く? その人数でぞろぞろと出歩くわけにもいかないだろ?」


 すると、話を傍らで聞いていたスティードが興味深そうに尋ねる。続けて「もちろん俺たちはまだ辞退させてもらうけどな」とリゼットの肩を掴む。


「ニルス、お義父さんがこれからどう行動するかって」


「……ん? ああ、悪い。少し気が散ってた」


 ニルスは言い、少しの間思案する。スティードとリゼットを除くと人員は11名、二手に分けてもやや多いくらいか。


「そうだな……分かれるにしても移動手段が必要になるだろうから、ユーリとマリナ、この二人を主軸とした編成にしたらどうだ?」


「うん。それが丁度いいかもね」


「私とニルスは一緒」


 透かさず、アシュレイがニルスの横を確保する。ニルスの発している電撃が、彼女にもやや流れていくが気にした様子はない。

 普段から共に過ごしているためか、耐性がついてしまったようだ。


 ところが、彼女にとって死刑宣告ともとれる言葉がその直後に飛ぶのであった。


「これは提案なんだけど、兄さんと囚われの皆さんで行動したらどうかな?」


「ん? そうか……その選択肢もあるか。しかしな――」


「まあ、分かるよ。兄さん達あんまり時間取れてなかったし。でも、呪いを持った他人の動向ってのも見といたほうがいいんじゃないかな。マリナとの依頼って意味でも行動を共にする理由は大きいだろうからね」


 そんなユーリが述べる言葉に、目に見えて気分が落ちていくアシュレイ。彼女も、この話がニルスのためになることを知っているため、口を出すことはしない。


 見兼ねたユーリが、「姉さんにはこれを貸してあげるから」と、彼の徽章を渡す。そしてニルスのことを浮かべて声を発するように言うと、恐る恐る発したアシュレイの声はやがて彼の徽章から伝わってきた。


 これで遠方でも会話をすることができる。彼女は言葉や表情こそ変化に乏しかったが、機嫌を取り戻していったのは誰が見ても明らかだった。


「じゃあ、決まりかな」


「あ、あの……いえ、私は分別のある人間なので仕方なくニルスと同行してやります」


 マリナが何かを言いかけるが、ユーリの顔を見ると誤魔化すように取り繕うのだった。その様子を見てユーリは面白そうに笑う。


「じゃあこっちは、ユーリ兄ちゃんと、姉ちゃん、エドガーさんとサラさんだね!」


「ああ、よろしくねリナちゃん」


「リナちゃん頑張ろうね!」


 リナの呼びかけに、二人組はにこやかに応える。


「このメンバーでも、魔王にでも出会わない限りは問題なさそうかな」


「縁起でもないこと言わないでよ、ユーリくん……」


「ボクは大歓迎だよ!」


 そこへユーリが口を挟むと、やはり気後れしてしまうエドガーと能天気なサラ。リナも続いて、「魔王、凄そうだね!」と笑顔で加わる。


「知性はともかく、あまり考えない人が多い」


「まあまあ、そこは僕達がその分頭を使えばいいでしょ。とはいえ、あの王国精鋭とかいうのより比べ物にならないくらい皆優秀だよ」


 アシュレイがやや不安になるのも理解できる、とユーリはフォローを入れる。苦笑を混じえながら、彼は第一回目の魔王攻略遠征を思い出していた。



 そして彼らは、ニルスの剣を如何にして見つけるか、それぞれの取り組み方を検討し始める。


「呪剣の居場所で大雑把に分かっていることと言えば、ここから北西にあるだろうということぐらいだな。この感覚にも多少のズレはある」


「教団の男が、誰かに兄さんの剣を送るような言動をしていたことを考えると、それを受け取った人物がいるはずだよね。そういう意味でも、目標が少し動くことを考慮したほうがいいかな」


「あの気色の悪いやつらのことです。通常では考えつかない、もしくは辿り着けないような場所にいるかもしれないですよ」


 マリナはその真剣な表情のあと、彼女の定例行事である自己肯定極まる文言を誇らしげな表情で言い、しかしながら瞬時に皆の記憶からは消し去られてしまった。


 すると、話し合いを静かに眺めていたリゼットから、一つの提案が挙がった。


「あたし、占い……っていうか予言ができるんだけどさ、いや『できた』の方が正しいかな。それはともかく、あたしの力は母さんから受け継いだものなんだけど、もしかしたらユーリかリナに渡せるかもしれないの」


「……自然と兄さんは候補から外れているんだね」


「いやいやっ! ニルスはどちらかというと力至上主義系の考えでしょ? だったら、弟達に任せたほうがいいかなと思って」


 慌てたリゼットは決して悪意がなかったことを弁明する。実際のところ、彼女はニルスの負担にならないよう、無意識で彼を抜かしたのだった。


「ニルスは力至上主義だから予言の力は受け継がない?」


「ん? ……どうだろう、可能ならやってみたいものだが、俺は魔法が使えないからな」


 アシュレイが訊くと、ニルスは欲を言えば、と答える。力至上主義と言っても、物理的な力だけを求めているわけではないのだ。


 すると、頭の中ではヴィオレッタが暴れていた。聞けば、「ニルスだって左腕の力を闇から解き放てば魔法だって使えるのよ!」とのことだ。

 そこまで言うなら、皆の前まで出てきて主張すれば良いのに、とニルスは思うが彼女曰く、


『そ、それは似合ってないからよ……』


 もちろん、ニルスに占いが、である。


「そうだな、残りの候補はユーリとリナで良かったよな?」


 アシュレイが頷く。


「ユーリは勇者だから、自分の使命があるだろ。ここはリナに任せてみたらどうだ?」


「うん! やってみたい!」


 指名されたリナは楽しそうに手をあげる。元よりやりたい子にはやらせる主義のリゼットとスティードは、その一声によって全てを決定した。


「じゃあリナで」


「リナだな」


 こうして、代々受け継がれてきたと謂われる力を、リゼットからリナへと継承することになったのだった。

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