49.地響きや咆哮の中で集中できんの?
暗闇をくぐり抜けた先に目的のドラゴンはいた。その魔物は既に侵入者に気がついていたようで、ニルス達を見下ろすようにその巨体で地を踏んでいた。
「でっかー!」
「驚いている場合じゃないよ。警戒して!」
サラは目撃してすぐに、その図体の大きさを仰ぎながら感嘆していた。エドガーがそれを咎めると、彼女は口を開いたままハンマーを担ぎ直した。
すぐに地竜により地面から円錐状の尖った岩盤が突き出てくる。牽制の一発を放ったのだ。本来竜を討伐することは相手の攻撃をまともに食らわなければそこまで難度も高くないのだが、この地竜は魔法を使ってくる。
閉鎖的空間で戦うには少々分が悪いと言える。
間一髪で岩の塊を避けてサラは駆け、地竜――アースドレイクへと肉薄する。そのまま走り抜ける勢いのもと、ハンマーを横向きに叩きつけた。
地竜の鱗は硬い。狼狽えもせず瞬時にアースドレイクは反撃を前足の横薙ぎを行う。すかさずエドガーが飛び込みサラの前へ出てくるとそれを押さえ込んだ。
完全に勢いを止めるに至らなかったものの、その体の張った体当たりに、サラに攻撃が届かず終わる。と思いきや彼女は大鎚を叩きつけた衝撃でハンマーの柄を軸に跳躍して地竜の足に着地する。
丁度エドガーが掴まえているそれに。
「え?」
エドガーが戸惑いの声を上げるのを横目に、サラは軽く跳んで地竜の背へと登る。
鬱陶しい、とアースドレイクは天井から土の針を生成してサラへ目掛けて急接近させる。サラはそれをまとめて叩き壊し、跳躍。
同時にハンマーを振り上げ、地竜の頭目掛けて叩き込む。体重の乗った一撃は今度こそ硬い魔物にも一矢報いることができたようだ。地竜は打たれた頭を振り、動きを止めた。
「あんな動き予定してなかったじゃないか」
「ちょっと思いついてね」
一度後退し、アースドレイクへと視線を合わせながら話す。事前の打ち合わせや連携を意識した特訓が生きていないことにエドガーはため息をつきつつ次の動きを待った。
「ガアアアァ!」
地竜が咆哮を上げながら尾を振り回し、地面に叩きつける。その衝撃で地は歪み、隆起した部分から魔法により針が飛び出してくる。
「そんなのボクだってできるよ! ラプチャー!」
せり出てきた岩の塊をサラが叩き潰し、魔法を上乗せする。すると半壊した針の模造物が弾け、細かい針状になった岩がドレイクへと飛んでいく。
咄嗟に目を守るために瞼を閉じる地竜。針は硬い表皮に阻まれて地竜に損傷を与えることなく軽い音を立てて地面に落ちる。
そして彼が再び目を開けるとそこにはエドガーの姿が。
相手が隙を作ったその瞬間を狙って、彼は地竜の眼前へ跳躍していた。力一杯拳をぶつけると、竜の顔が後ろへ引かれる。
エドガーは自身の攻撃が効いていると分かると一度距離を取る。
「よし、これをあと30回繰り返そう」
「えぇ、そんなにい?」
「仕方ないじゃないか、格の違いすぎる討伐なんだから」
サラは不満を漏らしながらも再び大鎚を構えて次の動きへと移る準備をする。実際の話、二人が冒険者を始めたのはそう昔ではなく、彼らは身の丈に合ってない魔物ばかりを狩ることから大物狩りとして密かに知られていた。
それ故に冒険者の中でも成長していく速度は中々に早く、群を抜いていると言えよう。
それを成し得ているのがエドガーの的確な判断。彼らの戦闘スタイルはサラが先陣を切り、その歩調に合わせてエドガーが間に入るというもの。
いつも薬草は現地調達し、自分達で怪我を治療するようにしていたが、今回は洞窟ということもあり荷物係兼配当員をニルスに頼んだのだった。
そして現在のニルスは薬草を捏ねくり回しながら奮闘していた。
「おっ、何か似たようなのが出来たぞ」
『薬草をそのまま使うんだったら苦そうね』
サラ達の戦いも安定し始め、長引きそうだったので退屈な時間を潰すためにマナと共に薬草をいじっていたところ、偶然マナが薬草に触れたことにより焼けたような音を立てた。
何度か試行錯誤し、ついに薄い緑の液体を生成することに成功していた。
「んー、少し苦いけどこんなもんかな」
『天然だから仕方ないわ』
出来上がった液を味見し、ニルスは感想を述べる。
壁際には瓶に入れられた濃さの違う液体が並べられている。ニルスの実験の跡が一目で分かるようだった。
効能はニルス自身では分からないためサラ達に飲んでもらうしかないが、一先ず似た物が出来上がったことにニルスは満足していた。
マナで鍋の形を作り、湧き水と薬草を入れ煮込む。マナの含むエネルギーによって熱されていく薬草入りの水は徐々に緑色へと変色していった。
何度も繰り返すうちに市販の物と同じ濃度の治癒飲料を作り上げてしまったのだった。
製造が容易とはいえ、初めて試したにも関わらず完成させてしまうニルスは、そういった道に進んでいれば今よりも稼げていたのではないかという疑惑が浮かぶほど勘が鋭かった。
結局ニルスは、苦くなるという弊害があるものの、濃度を大きくすれば効能も比例して大きくなることも見つけてしまった。
そしてその被害者はサラである。
「うっ! …………苦っっっっが!」
一口含んだだけで目を見開いて瓶を口から離して、顔を歪める。更には舌を出して必死に呼吸を繰り返す始末。
「なにこれ、ほんとなにこれ!」
それだけに効力は凄まじいようで、みるみる腹に空いた穴が塞がっていた。ニルスは彼女の苦悶のしように驚くよりも体の損傷具合に驚いていた。
それでもサラはそんなことに構う様子もなく手足を動かして飲料の味の悪さを訴えてくる。
「サラ! 早く戻ってきて!」
エドガーは一人で交戦中。サラと違い判断には定評があったが、それでもひとりでは限界がある。
「んぅ、ちょっと待って! 今それどころじゃないから!」
そう言って今度は頭を抱えながら辺りを歩き回り、時々しゃがみ込んで悶えた。
治療の度にこれでは戦闘どころではない。ニルスはまた改良すべきだと思い至ったのだった。
『もういっそのことそういう店でも開けばいいじゃねえか』
「時間があったらな」
ラーシトの提案に対して適当に応じるニルス。実のところ行き当たりばったりのような気もして、ニルスは乗り気ではなかった。
そう想いながらもニルスはまたリュックの中から薬草を数枚取り出して煮始める。この状況でも平然としていられるとは肝が据わっている、というべきか、はたまた異常か。
そんな中、何度も頭部に打撃を受け続けてついにアースドレイクは平衡感覚を失い始めた。ふらつく足を何とか倒れまいと維持しているが、倒れ込むのも時間の問題だ。
それを見逃さずにエドガーは仕上げとばかりにサラを呼び出す。
「そろそろとどめといこう。サラ、行けそう?」
「まあ、何とか……」
「じゃあ合わせるから」
「うん、いくよ!」
走り出す二人組。地竜の最後の反撃が飛んでくるものの彼らは相手にせず、同時に叫んだ。
『ユナイト!』
直後、サラの脳天目掛けて振り下ろしたハンマーの裏ににエドガーの拳が打ち付けられることによってスタンプの速度は増し、地竜へ迫った。
直撃した大鎚が金属のような重い衝撃を辺りに響かせる。これまでは持ち前の頑丈さで何とか地に足をつけていた地竜も体勢を崩してその場に倒れる。
「はあ……やっと倒した……」
「早速使えそうな部分をもらっていこう」
サラは、長期戦に決着がついたことで肩が軽くなる思いだった。そして疲弊した様子で息を吐き、エドガーの後に続いてアースドレイクの解体に取り掛かる。
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「あ、終わったか?」
それまで黙々と飲料作りに励んでいたニルスが顔を上げ、素材ごとに分けられる地竜を見た。
「二人共怪我は大丈夫か? 良かったら飲んでいくといい」
「ありがとうございます! では、お言葉に甘えて……」
「待って、飲まないほうがいいよ、それ」
勧められるままに緑色に染まった液体を飲み干そうとするエドガーだが、サラに止められてしまう。
もちろん、ニルスも先程のサラの乱れ用を知っているので味はどうにか整えたつもりだった。まだ、味見はしていないが。
「なんでだよ。折角もらったのに飲まなきゃ失礼でしょ」
エドガーはサラの手を払い除け、一気にそれを飲みきった。
「ど、どう……?」
「……」
「あれ?」
顔を覗き込みながら尋ねるサラに、彼は答えようとしなかった。遠くを見つめながら、ただじっと。
「固まってる……?」




