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45.完遂……!

 黙っていれば魔石教からの攻撃は来る。彼らは人数が増えたことに内心舌打ちしながらも一人ずつ沈めていけばいいと冷静に狩りを続けた。


「『ハーディング(硬化)!』」


 次の瞬間、リナが魔法を唱えて体に黒鉄を纏う。まさにあれはラーシトが使っていた技に違いなかった。


『オレの魔法を盗みやがったな』


 何かよくないことでもあるのだろうか、ラーシトが憤りにも似たような声でニルスの頭で叫ぶ。

 そして首より下は黒く体のラインがはっきりした魔力を纏うリナは、再び魔力を高めた。


「まだまだっ! 『ウイング(魔翼)』!」


 そしてリナは、飛空中の男から着想を得て自らの体を風魔法によって浮き上がらせ、さらに魔力で翼を生やしたことで速く飛ぶことに成功していた。


 彼女は見た魔法をイメージそのままに映すことができるのだ。

 まさに魔法を使うことにおいては才能を惜しまず持たされて生まれてきた、ニルスが魔力を操れない分、リナは清々しいくらいに高く魔法に適応した。


 リナは飛空中の幹部の足止めをする。体術が十分でないため、肉弾戦では決定打を与えられずにいるが、硬い体の表面のおかげで損傷を負うことも少なかった。


 ニルスは空をリナに任せて、先に砲台を潰すことに決めた。走り出し、魔力を充填中の男に拳を入れるもののマナで防がれる。

 そして彼は目の前で魔力が一度に放たれるのを見た。


「くっ」


 何とか当たる寸前に飛び上がって躱し、四肢にマナを集めてから魔力砲の上に着地した。ニルスはそのまま魔力の流れに従い、後ろへ流されていく。


「『アブソーブ(吸い取れ)』」


 すると空中にいたリナが砲撃の魔力を吸収し始める。筒状のそれは粒子にばらけてリナの体内に入っていく。


「うっ……」


「リナ!」


 途端に彼女の顔は青ざめ、空から落ちてきた。それを上手く抱きかかえ、安否を確認する。


「だ、大丈夫。ちょっと量が多かっただけだから……『キャノン(魔砲)!』」


 リナは手を上に掲げて、魔石教と同じ砲撃を放つ。その先には飛んでいる幹部がいた。

 リナがそのような行動を取るとは予測できず、彼は反応が遅れて直撃した。


「ぐぬあっ!」


 彼は何とかマナを自身の前へ展開し、致死を避ける。その体は先程背中から刺された傷も後押しして満身創痍もいいところだった。

 しかしそれは見かけだけに留まり、彼は健在とばかりに汗を拭って笑った。


 ニルスはその様子を見ながら調子の戻った様子のリナを地面に降ろす。


「兄さん、本当に一人でこんなのと戦おうとしてたの」


「いや、調査に来ただけのつもりだったんだが、手厚い歓迎をしてくれちゃってさ」


 同じようにして下がってきたユーリと背中合わせに会話をする。調査はまだ開始してもいないというのに、気の早いことだ。


「ははっ、皮肉が言えるなんて余裕そうだね」


「とんでもない」


 ユーリが笑ってみせると、ニルスは抑揚の少ない声でそれに答えた。


「二人とも、戦いに集中しないと」


「みんな、また前から来るよ! 後ろも! ……あ、みんな散らばって!」


 魔石教幹部の一斉の攻撃に、ニルス達はそれぞれ跳び退いて避ける。幹部達は互いを巻き込まないようにマナで終着点を保護しつつ、ニルス達の移動した方向を見た。


「姉さん。体調に変化はない?」


「ん。大丈夫」


 幾らここ数日で鍛えたと言ってもはっきり言ってしまえば付け焼刃だった。アシュレイももっと期間を経て、ニルスに披露したいと思っていたのだ。

 そんな彼女を気遣って、ユーリは彼女に声をかけた。


「それより前」


「よそ見は厳禁ですよ」


 魔力剣が振り下ろされる。ユーリはそれを神々しく輝く剣で防いでみせる。手にするのは聖剣。女神から与えられたというそれは、見事な切れ味と強度を誇った。


「その剣、刃こぼれでもしてるのかな?」


 憎まれ口が自然と出てきた。兄の影響か、窮地に陥るほど言葉では平静を装うとすることが常となっていた。


「私が、憎いですか」


「もちろん、それなりにね」


「私も、ニルスの村が焼かれたことは許せない」


 アシュレイが隣で同意する。彼女自身、故郷を奪われたことはないが、同様に居場所を失う感覚を知っている。それだけで十分ニルスを擁護するに値した。


「それでも、あなたに復讐できるかと思うと嬉しくは思うけど」


「果たして可能でしょうかね」


 そういって彼は剣を押し込む。体重の乗せられたそれをユーリは跳ね飛ばして敵の懐へ飛び込む。


「ユーリ兄ちゃん、姉ちゃん、避けて!」


 すると時止めの男が魔力を高めていた。わざわざ魔力を充填してからの放出、範囲はそれだけに人二人分はゆうに覆えるほどだった。

 ユーリも魔力量はリナには劣るものの多く含有していた。それ故に高まる魔法のエネルギーに気づいていた。


「『インタラプション』」


 彼の唱えた魔法により魔力の放出は一時的に中断され、そのタイミングを見定めたアシュレイが走る。


「スト――」


「『アイス』」


 魔石教の声を遮ってアシュレイは氷の塊を放つ。そして彼女は瞬時に『ソフテニング(軟化)』と呟き、それに合わせて硬質だった氷塊が柔軟性を帯びて腕に纏わりつくようにして魔法の発動を遮った。


「なっ……」


 幹部は驚愕し、動きが止まる。その様子を見てアシュレイが彼に肉薄する。

 所詮強力な魔法が扱えた所で、それを封じてしまえば大したことはないのだ。


「勝利を確信しましたか?」


 すると魔力剣の男が霧のように忍び現れて、その刃をアシュレイの喉元に近づけた。

 見ると、ユーリは時止めの魔法にかかり全身の動きを封じられていた。


 幹部がすぐに止めをささなかったのはニルスに対しての交渉材料とするつもりだったから。しかしその考えは甘いものだと、飛来した破片によって気付かされる。


「アシュレイに近寄るな!」


 ニルスが投げた木の棒の破片を、リナが加速の魔法に乗せて弾き出す。彼はそれを剣で防ぐ、と次に透かさずアシュレイの剣撃が飛んでくる。

 マナ同士が再び衝突し、割れると幹部の衣服が顕になる。


 アシュレイはそこに勝機を見た気がした。


「でもまずは、あなたから」


 彼女は時を操る男に視線を定めて走り出した。彼は魔力切れのためそれを溜めるようなことはしていない。剣の男も同様に後ろへ跳びながらマナを取り込んでいる。

 まさに絶好の機会。普段は共闘をしたことがない彼らには連携を取ることが難しいことであったため、遅すぎる到来とも言えるだろうが。


『お、銀髪が決意を秘めた表情で敵に向かってるぜ』


 ラーシトはニルスの目を借りて外界の様子を見る。その中に止めと向かうアシュレイの姿を確認した。


「分かった。こっちもそれに合わせよう。リナ、行けるか?」


「大丈夫だよ!」


 アシュレイの動きを皮切にニルス達は動き始めた。既に活路の見えていた彼らは、タイミングを見計らって攻防を続けていた。


 止めを刺すということは敵の懐へ向かうということ。それが失敗すれば痛手を負うことは避けられないだろう。だからこそ、彼らは待った。



 それぞれに走り出す彼ら。

 アシュレイは黄色のマナをその剣に纏い、幹部の胴を斬るように薙ぎ立てる。相手はマナを充てがって身を守り、時を止めるべく魔力を高める。

 しかしアシュレイはすばやく軟化させた氷塊をぶつけ、彼の腕に跳ぶ。僅かに漏れ出た魔力がアシュレイを襲うものの、それは彼女の腕を止めるまでに至らず、胸に一突きをくらい、倒れた。


 リナは真上の幹部に上昇して接近し、『リフティング(解除)』と静かに唱える。すると二人に浮力を与えていた魔法が解け、落ちる最中に幹部は白目を向きながらそれだけで動かなくなった。


 彼が自身にかけていたのは死亡しない限りどんな傷を負っても苦痛はなく、身体を最高の状態に保ったままにできるというもの。

 それを瞬時に見抜いたリナが、彼女周辺の魔法を掻き消してしまったのだった。すると本来、致死量間際だった幹部はその身に損傷を受けたと同じくして倒れたのだった。

 地面に着地したリナは再び体を硬化させ、駄目押しの一撃。


 そしてニルスは走りつつ、右手で目の前の幹部を攻撃しようと捉える。蓄えられる筋力。

 しかし相手も黙っておらずすぐに砲撃が飛んでくる。それをマナの左腕を振り抜くことで魔力を霧散させると、やがて蓄積された右腕の力が許容分を超える。

 その拳を全身で打ち出す。あまりの速さにそれは音にならず、空気をも断裂し、幹部が練ったマナを壊して腹に腕の倍ほどの風穴を開けた。


 貫いてから間が開き、轟音と突風が巻き起こる。そんな現象が起きているとも知らず、幹部は仰向けに倒れた。

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