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38.まさかこいつらとルーツは同じか?

 マリナはニルスの言葉を受け、若干の申し訳のなさを表した。


「そういうことでしたか。あなたの呪いは一体どんなものなんです?」


「攻撃ができない」


「ふっ。もしかして先程は攻撃しなかったのではなく出来なかったというわけなんですね。これは笑いものです」


 マリナは思わず吹き出してしまっている。もう、全て言わずに帰ってもいいだろう。そう思いニルスは踵を返そうとすると、そこへレオンスが彼女を咎めた。


「マリナ!」


「おっと、失礼しました。それで、一つだけなのですか?」


「いや、回復もできない。それと触覚がなくなる」


 ニルスがそう告げると、またしても彼らは驚いた表情をつくりだす。何をそれほど驚くことがあるのか、ニルスはわからないでいた。

 何しろ、彼らとは違い呪いを受けている者など周囲にはいなかったのだ。


「3つも持っているのか? これは、聞いたことのない例であるな」


「いや……7つくらいあるんだけど」


「は? いや、冗談はよくねえぞ、お前さん」


「証明する手段が思い浮かばないが、嘘ではないんだ」


 レオンスはすぐに口を開き笑い飛ばしたが、他の者は固まったまま瞬きすらもしていない。

 表情を変えないニルスにレオンスの中での真偽が揺らぐ。


「そ、そうか? それなら試しに全部言ってもらおうじゃないか?」


「構わないが……」



――――――――



 ニルスは、彼が持っている呪いを一つずつ説明していった。その途中で何故か頭を抱える団員達を尻目に、ただ淡々と。

 各々に良い記憶があれば良かったが少しでも笑って話す気に離れなかった。


 そしてどうやら、彼らの呪いは多くても2つらしい事もわかった。7という数に過剰反応したのは彼らにとって驚異的な数字だったためであった。


「その武器が重くなるってのはうんと小さい頃に苦労しなかったのか?」


「本当に幼い時は武器と思っていなかったからそれまでの重さで済んだけど、そう知った頃がめちゃくちゃ大変だったかな」


 重くて持ち上げられず、結局押して動かしながら過ごしたのを覚えている。

 なにせ、呪いの媒体からある程度離れると、電撃が体に走って耐え難い苦痛となるから常に剣はそばにおいて置かなければならなかった。


 そこは他の団員達も同じだったらしく、妙に会話がはずんだ。武器はそれだけでも重く、子供に扱えるものではない。



「俺は跳ぶことができないせいで、川遊びなんかいまいち楽しめなかったな」


「跳べない……?」


 つまり、跳躍ができないというだけだろうか。その言葉にマリナが目を細めて睨む。


「こいつ、一番しょーもない呪いのくせに仲間面してくるんで困ってるんですよ」


「しょーもないって言うなよ! ……確かに呪いにしちゃ味気ないのは俺も思ってるけどさぁ」


「その点、ニルス殿は我々の一員としても遜色ない。いや、寧ろ我々のリーダーになるべき存在だ」


「うぇ……リーダー?」


「そうです。その禍々しさこそ、私達を率いるのに向いています」


 一度に二つのパーティから誘いを受けるとはこれいかに。ましてや勝手にリーダーへと格上げしようとしてるあたり、意思決定の権利の居所がわからない。


「リーダーなら、年長のオーバンさんが相応しいんじゃ……」


「何を言っている、ここにいるのは出生してより20年程の、同年が集ったパーティであるぞ」


「え?」


「程じゃなくて、20ぴったりです」


「すまんな、我々には年を数える習慣がなくてな」


「同感ね」


 まさかの同い年という発言に、形容し難い衝撃をニルスは受けた。見た目はやはり種族のせいだったのか。

 そして前へ出て慎ましやかな胸を張るのはマリナである。


「それに、現リーダーなら私が務めています。状況判断なら一番優れてますからね」


 そんな彼女に少々呆れながらも他の者は反論はしない。厄介に思うこともしばしばだが、マリナの実力は認めているのだ。


「まあ、適材適所ってやつだな」


「マリナちゃん、そうじゃないと拗ねちゃうしねー」


「余計なことは言わなくていいです!」


 パーティーの随分と賑やかな雰囲気に気圧されながらも一言、加入の意思がないことをニルスは告げた。


「俺は俺のやり方で、魔石教団に報復することにするから、残念だけどそっちには加われない」


「そうか……お主がそう言うなら無理強いはできまい」


 ドワーフの彼、オーバンは年の割に渋すぎた。だからこそニルスは勘違いしてしまったものだが。

 次いでマリナも残念そうに眉をひそめる。


「攻撃できないなら守備へと、レオンスとの交代を考えてましたが残念ですね」


「おい」


「まあ、次会うときはよろしく頼むよ」


 軽口を叩きあう彼らに別れを告げ、ニルスは立ち去る。

 彼は攻撃が全くできないというわけではないが、敢えて言う必要はないだろう。共に戦う予定があるわけではない。機会があればまたその時だ。


「じゃあねぇー!」


「なかなか楽しかったぜ!」


 槍の、キアラが手を振り、レオンスは白い歯を見せながら笑う。他の者も会釈したり軽く手を上げたりと、歓迎しながら別れを告げてくれた。



「兄さんなら入らないと思ってた」


「ああ……まあ、魔石教団側がどうして呪いの武器なんか押し付けたのか分からないけど、奴らが俺らの事を把握していないとは思えないし、こそこそやってたって無駄だと思ってな」


「僕もそう思うよ。でも僕はむしろあっちの方が動きやすいとは思うんだけどな」


 帰路につくと、ユーリが話しかけてくる。その言葉は少し静かでニルスを気遣ってか、窺うような態度だった。


「いや、ごめん。嘘だ。今のパーティから、離れたいとは到底思ってないからな」


「ふーん。損だなあ……というか、姉さんと同じなのがいいだけでしょ」


 ニルスはユーリのからかいに笑うことが出来ず、損だという言葉に引っかかっていた。ユーリは昔から損得勘定で動く無機質的な部分がある。

 それが悪いとは言わない。ニルス自身も復讐に生きて、魔石教団の者がどれだけ痛めつけられようが厭わない、善も悪もあったようなものではないだろう。

 ただ、少し弟が心配になったのだ。


「兄さん?」


 ユーリが、何かに流されてしまうのではないかと。彼は黙ったまま、帰宅を遂げた。



「にしても、あの状況でよくマナが使えるようになったよね」


「ヴィオレッタ達も異常だって言ってたな」


「あはは。まさにそれだね」


 ユーリは笑う。その胸元を見ると赤く光る一つの徽章があった。


「そういえば、いつの間に赤等級になったんだな」


「ああ、これね。まあ、実は今の兄さんも赤色の資格を持っているんだけど……」


「それはどういう意味なんだ……?」


「うーん……兄さんならいいか」


 そう言ってから彼は椅子に腰掛けて話し始める。何やら真剣な様子で語り出すのだった。


「ギルドのシステムが少し適当に思えたのはあれが、赤のためのシステムだったからなんだ」


「……話が唐突すぎるぞ」


「ごめん。でも、実際にギルドに加盟している利点なんて橙の下にはほとんどなかったでしょ。その有体はただの斡旋所さ」


 ユーリの言っていることにも頷ける。冒険者に対して何かサポートしてくれるわけでもなく、魔石を高く買い取ってくれるわけでもない。


「それが赤になると途端にギルドの態度が変わってくる。本当に別人かというぐらいにね」


 肩を竦め、呆れたように語るユーリ。


「なぜギルドはそんなことを……?」


「さあね。単に冒険者全てを囲いきれないだけなのかもしれないし、そこら辺は僕もよく知らない。ただ分かっていることといえば赤にはマナが使える人だけが集まってるってことかな」


「マナ……?」


 マナを扱うものだけが集っているということ、それはつまり。とニルスはマナと赤い徽章を重ねる。


「そう。つまり、赤等級になるための条件はマナを練れるかどうかなんだ。兄さんは今日をもって、底辺冒険者卒業だね」


「底辺ってな……」


「しょうがないよ。マナによって戦い方が大きく変わるんだからね。それも見違えるほどに」


 ユーリの文言に、マナが恐ろしいものだという事実が伺えた。ニルスが無事でいられたのもやはり特殊で、等級の低い者は叩き潰せるそのマナの脅威は計り知れない。


「それで、兄さんはどうするの?」


「それ程有用なものならアシュレイとリナにも教えるべきかな」


「いや……今後の話じゃなくて……。ああ、姉さんとリナかあ……実力が合うか分からないけど」


「そんなに難しいものなのか?」


 単純な疑問であったが、簡単だったらそもそも赤等級の条件にはならない。ニルスもそれに気づき、自分自身のことながら頭がまわらないものだと自嘲した。


「兄さんも感じたと思うけど、高密の魔素に触れるとそれだけでも危ないんだ。実力に見合ってなかったら、冒険者生命を絶たれることもしばしばだね」


「しかしそれだと、マナを使える人間の方が圧倒的に有利じゃないか」


「だから赤色があるんだよ。それに、そういう殺人も少なくない。マナを使えない人を狙った簡単な殺しがね」


 その言葉に、思わずニルスは口を噤む。この世は何と死に易いものか。


「尤も、マナを使えなくてもそこそこ腕の立つ冒険者ならある程度なんとかなるけどね」


「実力か……」


「うん。それで、ここからが重要な話」


 ユーリの今までにない鋭い目つきに、ニルスは黙って頷く。


「魔石教団の幹部達は皆、マナが使えるらしいんだ」


「……そんな情報どこで?」


「赤等級なら、冒険者どうしでコンタクトを取ったりや相互依頼が出来て、調査も請け負ってくれたりするんだ。だから兄さんも登録してきたほうがいいよ」


「……そうだな」


 確かに、情報が得られるのはこれほど重要なことはない。すぐにまた引き返さねば、そう思うもののなぜか足取りが重く、少しふらついた。

 魔石教の名を聞いて気分が悪くなったのだろうか、そう思った。


 しかし次の一歩を踏み出すと、力が抜けるように足を踏み外し、そのまま地面へと倒れ込んでしまった。


「兄さん⁉」

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